17 ササキ現る
事務所での話を終え、グラスとタコ松は一度山奥の小屋へ戻った。
グラスは玄関に入ると、奥の台所で作業をしていた千冬に声をかけた。
「千冬、俺たちはしばらく帰れないかもしれない。……すまんが、食事はレトルトで済ませてくれ」
千冬は包丁を置き、静かにうなずいた。
「わかりました」
グラスは最低限の着替えと武器を詰める。
二人は再び、神山組の事務所へ向かった。
「しばらく事務所に泊まります」
到着してすぐ、グラスが組長に告げた。
「そうか」
神山は短く返し、机の上の灰皿に煙草を押し付けた。
翌日。
窓の外は薄灰色に染まっていた。
タコ松が組の廊下で缶コーヒーを開けながら口を開く。
「てかよぉ、本当にササキって人は組長を恨んでんのか?」
グラスは短く息を吐き、缶を受け取った。
「組長が恨まれてるって言うんだから……恨まれてんだろ」
その日は、特に何も起こらなかった。
次の日も、特に何事も起こらなかった。
タコ松が窓の外を見ながら呟く。
「来ねぇな」
「だな」
それから一週間が過ぎた夜。
タコ松が不安げに言う。
「やっぱり、恨まれてないんじゃないか?」
グラスも同意するように小さく頷いた。
「かもな」
その時、不意に遠くから悲鳴が響いた。
「うぁぁぁぁ!」
二人は咄嗟に声のした方へ走り出す。
薄暗い廊下の先に、四人の組員が倒れている。
彼らの首からは、血が流れていた。
グラスは息をのむ。
「まさか……」
タコ松は震える声で言った。
「ササキが来たのか?」
二人は互いに目を合わせ、組長室へ急いだ。
扉を開けると、組長は落ち着いた様子で煙草を燻らせていた。
「奴が来たのか」
グラスは報告する。
「確定ではないですが、組員四人が殺されました」
その瞬間、グラスは気配を感じ、視線を扉のへ向ける。
「なにかいます」
扉がゆっくりと開き、そこに立っていたのは白髪の老人。
手には鋭く光る刀が握られている。
老人は冷ややかに口を開いた。
「久しぶりですな、組長」
グラスはすかさず銃を構える。
「あんたがササキか」
老人は薄く微笑みながら言った。
「私の気配に気づくとは、なかなかやるようですな」
グラスはさらに詰め寄る。
「組員をやったのはお前か」
ササキは静かに頷いた。
「はい、私がやりました」
組長は目を伏せながら問う。
「俺を恨んでいるのか?」
ササキの目には激しい憤りが宿っていた。
「はい。あれだけ組のために身を尽くした私を、破門にしたのですから恨んでいますよ」
組長は低い声で言った。
「破門にしたのは、お前が組員を殺したからだ」
ササキは淡々と答えた。
「それもまた、組のためです。あの男は上納金を納めていませんでしたから」
「そんな理由で殺したからお前を破門にした!」
組長の表情は怒りに満ちていた。
ササキは刀を構える。
「では組長、死んでください」
室内に緊張が走る。