15 仇討ち
ブラックは金槌を取り出した。
(くそっ!ここまでか!)
ブラックが金槌を振り下ろしグラスは意識を失った。
―――
「グラス」
どこからか声が聞こえた。
「グラス、両親の仇を討つんだろ」
それはグラスが最も尊敬し憧れていた人の声。
静山の声だった。
「立て!」
グラスは目を開けた。
頭からは血が流れているが、そんなことは気にしなかった。
意志の力で体を起こし、立ち上がる。
「なぜ立てる!」
ブラックが叫ぶ。
グラスは一瞬の隙をつき、全力で拳を振り抜いた。
その一撃はブラックのガスマスクを粉砕し、よろめきながら後ろに倒れ込んだ。
グラスは深い息を吐きながら、意識を失ったままのブラックの手足を素早く縄で縛り上げた。
「これで…終わりだ」
そして、床に倒れているタコ松に視線を向ける。
「タコ松、立て」
返事はない。
グラスはふらつく足取りでタコ松に近づき、肩を貸すようにして抱き起こした。
「おい、しっかりしろ……!」
タコ松の頭部には、金槌で殴られた痕があり、薄く血が滲んでいた。
「ちっ……あの野郎、思い切りやりやがったな」
グラスは無理やりタコ松の腕を自分の肩に回し、体を支えながら立たせる。
タコ松は意識こそ朦朧としているが、かすかに唇が動く。
「……グラス……やったのか?」
「ああ、やったぞ」
グラスはタコ松を連れ、階段へと向かった。
グラスはふらつく足取りで車まで戻った。
ジャスティスがすぐに駆け寄った。
「どうした!血が出てるぞ!」
グラスは息を整えながら、かすかに笑みを浮かべた。
「安心しろ……ブラックは倒した」
後部座席に縛られたままの老人が目を見開く。
「ば、馬鹿な……どうやって……どうやってあの毒ガスを……!」
グラスは振り返り、冷たく言い放つ。
「気合いだよ」
老人は口を開きかけたが、何も言えず俯いた。
グラスはスマホを取り出す。
「……あとは神山組を呼ぶだけだ」
暫くして神山組の車両が到着し、ブラックと老人は組員たちによって車に積み込まれていった。
騒がしかった場所に、ふたたび静寂が戻る。
グラスは深く息を吐きながら、空を見上げた。
「終わったな……」
隣で傷だらけのタコ松が苦笑する。
「これからどうすんだ?」
その問いにかぶせるように、ジャスティスが力強く拳を握った。
「もちろん、悪を倒す!正義のために!」
タコ松が眉をしかめて言い返す。
「お前に聞いてねぇよ」
グラスは真剣な目でタコ松を見つめる。
「殺し屋狩りを続けるさ。手伝ってくれるか?」
タコ松はニヤリと笑った。
「俺はお前の相棒だぜ?手を貸すに決まってんだろ」
その隣でジャスティスが堂々と胸を張る。
「俺も力を貸すぞ!正義の名のもとに!」
グラスは二人を見回し、静かに、しかし確かな言葉で応えた。
「ありがとよ」
夕暮れの山道を越え、三人はあの小屋へと戻ってきた。
扉の前で、千冬が笑顔で待っていた。
両腕には、タロウがちょこんと抱かれている。
「おかえりなさい」
千冬の柔らかな声が、静かな山に染み渡る。
「ただいま!」
タコ松が手を振ると、タロウは短い尻尾をぶんぶんと振った。
「ふぅ……」
グラスは傷ついた体を引きずりながら、小屋の扉を開けた。
こうしてグラスの復讐は幕を閉じる。