第2話 はじめての激辛
「ここが激辛気絶部って言う部活なんですか?」
私は先輩丁寧な手ほどきを聞いた上で、理解できなくてもう一度聞いた。
「そうそう、激辛気絶部では、スパイスとか香辛料の研究をしていてね。
さっきまでは、カップ麺に1番合うスパイス大会をしていて、その残り香がするのかな。」
先輩は一切嫌な顔せず、丁寧にもう一度同じ事を答えてくれた。
それでも、理解するのはまだ、
「で新人香辛料とかは、彼。黄色い子が言い出したことだけど、」
私の気持ちを分かってくれたのか、困っていた私に微笑むと、さらに詳しく説明を始めてくれた辛子先輩。
「ちゃんと訳があってね、君も気になってるんでしょ髪の色。
髪色はその人の好きなスパイスや香辛料の色で決まってるんだ。そして余談だけど、そのスパイスで部活内のコードネームも決まる。」
「じゃあ、赤い髪色が多いのも、」
「…うん、赤が被っちゃうのは仕方ないんだ。辛い物って、大体赤いから。」
先輩は質問に対して少し、答えるのに時間がかかって、光を失った儚い目になると肩を落とした。
これ以上、ツッコミで削る物もない状態になって、静かにしていると。
「俺は生姜だぜ。」
「僕は青唐辛子、青って名前についても実は緑なんですけどね。」
と何も聞いてないのに、この中でも、特に頭の悪そうな二人が、自分の髪色やテーマになっている物を答え出した。
「ホワイトペッパー、」
「私たちは、ジョロキアと」
「ハバネロと言います。」
そして次々に自己紹介の波は続いていって、
一つだけ特別感がある大きな机の上に転がる先輩も自己紹介を。
「僕はシンプルイズ定番の…唐辛子で〜す」
掠れた声で、やっとのことで応える。
「じゃあみなさん、頑張って髪色の維持とかしてるんですね。」
そう言ってしまった瞬間、ピクッと反応したみんなは静かに下を見て、誰も何も言わなくなった。
「え、私なんか言っちゃいました?」
言いかけたところで、先輩がいつのまにか起き上がり、私の前に手を伸ばして止める。
「それは厳しい修行があってね、新一年生にはまだ教えられないんだ、でも簡単に説明するなら、色が落ちなくなるまで漬ける。」
真顔でそう説明する先輩を見て、
今まで大きくて綺麗なガラス玉みたいな瞳だと思っていた先輩の、その目が怖く感じて来た。
「服に飛んだ激辛スープとかって落ちないだろ、それと同じ原理で、」とより詳しく話をしてたが、一切耳に入らなかった。
そうして、ある程度の説明が終わった、激辛気絶部の面々は、肩を組んで喜び、狂喜乱舞した。
すると、今まで気にも留めなかったのが不思議なくらいの、大男が出て声をかけて来た。
「俺は…黒胡椒です、」
「それはただの黒髪だろ。」
「はいっすいません……グスッ」
その大男は目視でも、180センチはある先輩よりも大きい、なのにツッコまれて泣きかける、メンタルは誰よりも弱いらしい。
やっぱりさっきから思ってたけど、変な人が多い気がする。大丈夫なのか私、入るみたいになってるけど。
めん子は空気を変えるために、今度は巻き込まれないように自分から、話を切り出す。
「あーその、研究って言ってましたけど、具体的には何をするんですか?」
「食べるんだよ、激辛のお店に行ったりして美味しいものを好きに食べる。」
みんなが口を揃えて、当然のように言う。
一見、聞いただけでは好きにして、好きなものを食べる、自由の良い部活に見えるが、一つ、《《激辛》》その単語だけが引っかかる。
「なら私、別に激辛は得意じゃなくて、今回はなかったこと 」
キッパリと宣言しながら、立ち上がってみたが、そこに二人の同じ顔をした少年が構えていた。
「大丈夫な辛味もありますよ。わさびとか…あと鷹の爪なんかはパスタにも入ってますし、」
「そんなこと言わず、それに初心者に辛さMAXを頼めとは言わないですよ。」
また、そうかもと思い始めしまっていたが、やっぱり激辛は…と視線だけで先輩に助けを求める。
「…なら近くに、そんなに辛くないラーメン屋があるんだけど、そこ行って見ない?」
ダメだった。助けを求める犬みたいな目は届かなかった。
先輩兼、激辛部、部長の断言により、
バカの二人が、脳を働かせる暇なく動いた。
「善は急げだ!」
「新人、一緒に激辛を食べに行くぞ!」
と強引に手を引いて、案内しようとしてくる。
「いや全然〈〈善〉〉ではないです、って言うか急がすな!」
必死に抵抗をしたが、普通の女の子一人に対して、男二人の腕力だ、ずるずると引かれつつあった。
こう言った話題にも、無関心そうな白もむくりと起き上がって、スキップ気味で歩き出す。
「じゃあまだ、新入部員いるかもだから、俺は残るよ。」
「うん頼んだ。」
先輩と黒胡椒と名乗った大男は、軽く会釈をして分かれた。
「「行きましょう行きましょう」」連呼する、小さい子に抵抗する足を持たれる。
全員が『激辛好き』激辛の話題になった時だけ格段に生き生きとして動き出した。
「何なのこの部活!この人ら!まともなのは先輩しかいないの!?」
先輩は大丈夫だよね、本当に大丈夫だよね!
私の初の一目惚れ相手!!
激辛気絶部とめん子は学校を抜けて、住宅街を歩いていた。
誘拐気味に連れてこられためん子は、学校と離れていく景色を尻目に、今更と忠告を入れて、みんなに問いかける。
「今更ですけど学校を出て良いんですか?」
「ああ今、ライバル達は会社に行ったり、昼飯の準備してたりして、勉強してたり、ちょうど人の少ない時間なんだよ。
俺たちからすればこれが部活動だからな!」
答えになってるのかなってないのか、この人とは話す意味がないのか、黄色と緑に関して、諦めた私は、力なく返した。
「はあ、そうですか…」
住宅地を歩いて、数分。
派手な黄色い木材の外観に、『激辛ラーメン』と大きく赤い筆字で書かれ、隙間を埋めるように乱雑にラーメンの名前やスパイスの名前が書かれた、お店が見えて来た。
まさかあそこですか?なんて言う間に1人また1人と入って行って、私は先輩だけを見るようにして、仕方なくお店に入った。
黄色の言うように確かに席は空いていたが、関係ない。
そこまで興味がない、先輩は席にエスコートしてくれてカッコいい。
手招きされて座った場所は厨房の目の前にあるテーブルカウンター、隣には坂井先輩が座っている。
「注文はどれにする。」と初めて来た私に優しく教えてくれる。
「そこまで辛くないのが良いんだったら、この欄から選んだら、それで大盛り中盛り小盛りの三段回で、量も選べるからね。」
そう言うと、先輩はメニュー表も見ない慣れた様子で自分のラーメンを注文する。
「大将!極寒の紅辛ラーメン大盛りで!」
私は小盛りのあんまり辛くないラーメンを、注文して待っていると、
店員さんが顔を出して、一つのラーメンを置いてくれた。
ゴドッ、
「あれ、それ私じゃないですよ?」
「小盛りはお嬢さんしか頼んでないよ、」
私が頼んだのは 赤辛ラーメンの1辛小盛り
少なくとも、こんなどんぶりから、野菜も汁も麺も、溢れそうになっている山盛りラーメンではない、はずなはず。
まさか…これが小盛り!?
「私少なめを頼んだよね!」
テーブルをペチッと叩いて、メニューに貼られてる写真との違いの、怒りを伝えるが、
先輩とは反対、私の隣に座っていた。
「少なめだろ。」
とギザの歯で麺を噛み切って、落ちた麺のぼちゃんと汁が跳ねるのなんて気にせず、ノンデリに応える黄色。
「もうちょっと静かに食おう、生姜」
と横から、援護射撃をする緑。
だがこの部活一人の良心、唐辛子先輩は、
「まあ、最初は多くて驚いちゃうよね。」
辛さを感じているのか、赤い顔をして食べていたのに、振り向いて優しい言葉をかけてくれる。
絶対量が多い、もしかしたら食べられないかもしれない。
体に慣れてる人だから、ピリ辛とか辛くないとか言ってたけど、私はダメかもしれない。
手のひらをぺったり付けても、届かない大きな丼、そこに積まれた赤い汁には麺がひそみ、野菜は山のようになっている。
量に絶望を感じながらも、隣を見れば、みんな美味しそうにハフハフ言いながら、食べている。
店員さんもみてる。
先輩が勧めてくれた、食事!と強く言うことで、覚悟が決まったのかもしれない。
えーいもう、どうにでもなれ!
私は野菜と麺をすくって、一口に食べた。
一口目の感想としては「辛いです、」だった。
当然と言うか、普通すぎる感想。
味噌風味の辛い味、
舌が焼けるような辛さ
辛味を抑えるために水々しい野菜部分を食べて、一口しか食べてないのにコップ一杯の水を飲んでやっと元に治る。
店員さんがにこやかにみていて、場の驚愕感に流されて、そして、もう一口。
2度目の辛味は少し薄く感じるた、
だからこそ、一口目では味噌ラーメンって事しか分からなかった、味に注目ができた。
熱々の汁に、今も湧き出ている焼豚やネギ、野菜から垂れるニンニクの旨み。
味噌の風味と唐辛子の辛味が、絶妙にマッチして、他のラーメンとは、確立された確かな味になっている。
二口しか食べてないのに、顔は紅上して次第に汗がポツポツと顔に浮かんできた。
旨みがある。いや?本当にあるのか、今のは私の舌がおかしくなっちゃっただけか、と思ってもう一度、確かめるために食べる。
モグモグ…モグモグ、モグモグモグ
休ませる事なく箸を進め、つい蓮華に掬った赤い汁をゴクと飲む。
すると、汗で髪が張り付く、額を拭った時、髪が戻らずぐちゃっとする感覚があって、異常に発汗されてるのが分かる。
熱くて、やっぱり辛い!………けどちょっと美味しいかも。
なんなんだろう、この辛い舌の感じで、喉にスルスルと入って行く。
それでいて、油が、麺が、汁が、臭みだったりの嫌な要素がない、感じれない。
熱い辛い、熱い辛い、でも止められない!
辛い愛の鞭と愛情の飴みたいな、
唐辛子先輩に釣られて、愛の鞭と愛情の飴で、
調理場に置かれた私を、美味しく調理されてる。
そんな妄想が捗るほど、激辛だけではない、
味に深みがあった。
はー〜〜〜ん!
めん子は、やっとの思いで完食する。
「お腹が痛いです。」
と言いお腹を抑える。
「最初はね、どうしてもそうなるんだ。まあコレから強くしていけば良いんだよ。」
先に食べ終わってた先輩が助言をくれるが、コレからと言う言葉に、先輩とはいえイライラした、ところに、
「ナイスガッツ」
鉢巻を巻いた小太りなおじさんが、親指をあげて賞賛してくれた。
「店員…さんッ」
トゥンクッ