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新しい名前

 アリアが落ちついて自分の話を聞いてくれるようになった後、ユリアンはこれまでの経緯を彼女に説明した。


「つまりあなたにもそんな肉体で転生した理由は分からず、誰がやったのかも分からない状態だということね」

「うん、恥ずかしいけれどね。というわけでこの状況に一番戸惑っているのは僕もなんだ。決して僕が臨んだからじゃないからね!」

「あはは、さっきはごめんって。でもそれはそうよね、そんな状態になることなんて普通考えないし……私もびっくりしたわよ。まさか死んだ友人が女性の姿で転生して会いに来るなんて。まあ私を頼りたくなるような状況なのは分かったわ」

「ごめんよ、迷惑だったと思うけれど」

「気にしないで。あなたと一緒にいた時はこういうことは日常茶飯事だったから。それでこれからどうするかは決まってるの?」

「いいや、全然。正直今の時代で生活していく基盤がないからね。それをなんとかしないと」

「ならあなた私の弟子にでもなる?」


 アリアからの突然の提案にユリアンは目を丸くする。


「弟子?」

「そう、魔法士として私があなたを弟子として迎えるの。この屋敷で生活してもらって構わないわ。もろもろ必要な手続きは私がなんとかする。ただあなたにはやってもらいたいことがあるわ」

「そんな……君に頼り切りになるのは申し訳ないよ」

「そんな自分の力でなんとかしようなんて言ってたって他にあてはないんでしょう?」

「うっ……」

「ほら図星。そんな状況なら私の申し出を素直に受けたほうがいいと思うけれど」


 アリアの言う通りだった。今のユリアンにはこの時代で生きていくための身分もなにもないのだ。自分の知っている人間の元で生活出来る基盤が手に入るならこれほどありがたいことはない。


「その一つ確認させて欲しいんだけど」

「なにかしら?」

「君が最後に言っていた頼みたいことってなに?」

「ああ、あなたにとっては簡単なことよ」


 アリアはにやりと笑いながらユリアンに告げる。


「あなたには魔法学院の教員をやってもらいたいの。要は未来の魔法士を育てて欲しい」

「魔法学院の教師……」


 魔法学院。それはこの国最大にして唯一の魔法士養成機関だ。ここからはユリアンの前世の時にも優秀な魔法士が何人も出ている。ユリアンやアリアもこの学院の卒業生だ。


「悪くない話だと思うけど? あなた前世で言ってたじゃない、人を育てるのは悪くないかもねって」

「そういえばそんなこと言ったっけ」

「前世で魔王を倒した後にどうするのかを話していた時に言ってたわ」

「はは、まあ魔法しか取り柄がないからね、そういうことしか出来ないだろうけれど」

「それにこれは必要なことでもあるの」


 アリアの声音が真剣なものになる。ユリアンも思わず居住まいを正した。


「魔王はあなたが倒したわ。けれどまだ魔王の配下であった魔物達は世界にたくさん存在している」


 アリアは一旦話を区切り、自分の執務用の椅子に腰掛ける。


「だから私はあの戦いの後、魔法学院の職員になったの。今は一応学校の方針を決定する立場にもいるわ」

「君が……!?」


 ユリアンはその言葉に驚く。


「君はそう言った面倒事が多い立場は嫌がっていたと思うんだけど。考えてたとしても純粋にレイクロード家のことだけを考えてたし」

「家のことはもちろんやっているわよ。私だって他に出来る人がいるなら任せたかった、でもあなたも死んだしそうも言ってられなかったの。魔王を倒しても脅威は残っているから次の世代を育てておく必要があったしね」

「……なんかごめんね」


 自分が亡くなった後のアリアの苦労が想像出来てしまいユリアンは思わず謝罪を口にしていた。


「今の話を聞いて申し訳ない気持ちがあるならさっきの頼みを引き受けて欲しいわ。あなた程優れた魔法士はいないのだから」

「……うん、君の申し出は受けることにするよ」


 どのみち行く当てがなかったのだ、頼り切りにはなってしまうがかつての仲間からの申し出を断る理由は今のユリアンにはない。彼自身自分の後の世代の魔法士の卵を見るのは楽しみだった。


「ありがと、引き受けてくれて」

「これぐらいのことはなんてことないよ。それにどちらかというと君に僕が助けられた形だから僕がお礼を言わないと」

「まあお互い様よ。……でも」

「アリア?」


 アリアはユリアンのほうへと歩いてくると彼を強く抱きしめた。その体は少し震えていた。


「ちょ!……どうしたの?」

「……奇妙な形だけれどあなたが生きて帰ってきてくれて嬉しい。あなたがいないのはやっぱりさみしかったから」

「……ごめん」

「ねえ、魔王を倒した方法ってやっぱりあれなの?」

「うん、君が考えている通りだよ。心象顕現を僕は使った」


 心象顕現は魔法を使う上でもっとも難しいとされていることの一つだ。魔法は使用者の想いを形にして発動する。それを極めた魔法の最高の形が心象顕現だ。

 平たく言ってしまえば自分の想像した通りの空間を生み出す魔法。その空間を生み出した者は空間内では絶対者となる。空間に取り込まれた魔法を発動した人間以外はその空間では作成者のルールに従うしかない。

 僕はこの強力な力を用いて魔王を倒した。あの時に作った空間のルールは魔王の存在を消すこと、それを当てるために随分と苦労したけれど。


「本当に無茶ばかりして。いっつもそうなんだから」

「うん、返す言葉もないや」


 アリアの腕に力がより込められる。そのせいでユリアの心はより罪悪感に支配された。魔王との戦いで生きて帰ろうと言っていたのに結局約束を破ってしまった。それは間違いなくユリアの力不足が招いた結果だろう。

 だからこれからは自分も強くならないといけない。もう2度とアリアを悲しませないためにも。


「今度は死んだりしないようにもっと強くなるから。君の負担が軽くなるように僕も頑張るよ」

「期待しているわ。ああ、でも」


 アリアはユリアンから離れ、なにかを思いだしたように呟く。


「あなたの新しい名前を決めないとね。一応、私の弟子として迎え入れるわけだし」

「そういえばそうだね」


 いつまでも前世の名前というわけにもいかないのは確かだ。


「でも僕は名前を思いつかないからアリアに決めてもらいたいかな」

「そう? それじゃ遠慮なく。いい名前は思いついたから」

「へえ? 聞かせて」

「ユリア。ユリア・レイクロード、これがあなたの新しい名前よ」

「……君の家名をもらうなんて不思議な気分だよ」


 仮にも魔法の名家なのだ、こんなに簡単にあげていいものだろうか。


「いいのよ、レイクロード家自体才能ある人間を迎えいれて発展してきた家だから。こんなことはよくある話だわ」

「そ、そうなんだ」


 なんとも率直な回答だなとユリアは思った。だけど発展する家というのはこういうものなのかも知れない。


「そう。だからあなたはなにも気にせず過ごしなさい。考えるのはこれからのことだけで十分よ」

「あはは、それはありがたい」


 こんなふうに軽口を叩きあうのがどこか懐かしく感じている。やっぱりアリアと話すのは楽しい。


「これからよろしくね。頼りにしてるわよ、ユリアン改めユリア」

「うん」


 ここまで読んで頂きありがとうございます! 


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