再会
あの魔物の襲撃の後には特に大きな問題もなく、ユリアンと商人達は無事に目的地であるラルンの街までたどり着くことが出来た。
「ここまで護衛してくださりありがとうございました。しかし、ここから先は一人で行動するということですが本当によろしいのですか?」
リーダーの女性が心配そうに尋ねてくる。ここまでの自分の対応を考えたら仕方ないことだろう、なにも知らない子供のようなことを尋ねてしまったから。
「はい、大丈夫です。ちょっと気になることが出来たので。ここからは自分一人で行動します」
相手の親切な申し出をユリアンは断った。相手も納得したのかそれ以上は尋ねてこない。
「分かりました。約束もこの街にたどり着くまでの護衛だったので私達は問題ありません。道中の護衛を引き受けていただきありがとうございました」
商人達とはラルンの街に入ったところで分かれてユリアンは一人で行動を開始する。目的はただ一つ、レイクロードの領主となったアリアに会うことだ。
「まずはアリアに会う方法を考えないと」
彼女の屋敷はこの街の北のほうにあるらしい。まずは様子を見に行こうとユリアンは足を動かす。かつての相棒に会えるということもあってユリアンは足早に歩いた。
ラルンの街は結構広く、歩いて屋敷まで行くのには結構な時間がかかった。人々は楽しそうに過ごしており、活気に溢れている。アリアがいい領地の運営をしているのが分かり、ユリアンは嬉しくなった。
「ここか……結構立派な建物だね」
街の人に聞いて確認したアリアの住んでいるという屋敷はとても広く、そこを守る兵士がたくさんいた。この警戒の中を突破して彼女に会わなくてはならない。
「……まあ、これくらいなら潜入するのはなんとかなるかな」
屋敷の現状を確認してユリアンはアリアと出会うための算段を立て始めた。
*
「よし、それじゃ行こうかな」
すっかり日が落ちて真っ暗になった時間、アリアの屋敷の近くにユリアンはいた。今から彼はアリアに会いにいくために行動を開始しようとしていた。
彼はまずアリアがいる部屋がどこにあるか確認する。日も落ちて周囲が暗くなる中で明かりがついている部屋があった。
「あの部屋かな……よし」
ユリアンはその部屋からアリアの気配を見てとる。彼の目――天眼は少々特殊でマナを色を帯びたものとして見ることが出来るのだ。この色は人の場合、それぞれ違った色に見え、様々なもののマナの構成を見抜く。
「間違いない、アリアはあそこにいる」
目に映ったマナの色、それはよく知っているアリアのもので間違いなかった。アリアがその部屋にいるのが間違いないと確信したユリアンはその部屋へと転移する。ユリアンの特異体質である天眼を利用したのが今の転移だ。自己を一度分解し指定の位置に再構築するためにマナの構成をはっきりととらえないといけないため、この技はユリアンにしか使えない。
(うまくいった)
自分の体をマナに分解してある地点でアリアの部屋の中で再構築する。久しぶりにやったのでうまく出来るか不安だったけどちゃんと出来た。
「……っ!? 誰!」
鋭い声が部屋に響く。声のしたほうにいたのは一人の女性だ、長い金髪に強い意志を感じる瞳。少し大人びているが昔となんら変わらない相棒がそこにいた。
(アリア……)
感慨に浸りたくなるが今はそんな時ではない。彼女と話していろいろ聞かないといけないこともあるのだ。
「アリア」
「随分馴れ馴れしいのね、人の部屋に勝手に上がり込んで気安く名前を呼ばないで欲しいのだけれど」
剣呑な空気が彼女から漂ってくる。これはちょっとまずいかもしれない。
「ごめんね、君に会うためにはこうするしかなくて。後でいくらでも償うからさ」
「だからなんで私のことを知っているような口振りなの? 私はあなたのことを知らない。知らない人からそんなふうに話されるのって気持ち悪いのだけれど」
ああ、これはなにを言っても怒らせてしまうな。ただきちんと伝えることは伝えないと。
「えーっと、まあこんな見た目じゃ信じてはもらえないだろうけれど……ユリアンなんだよ、僕は」
「……」
ユリアンの言葉を聞いたアリアが一瞬呆けた顔をする。が、すぐにその表情は憤怒に染まった。鋭い視線がユリアンを射貫く。
「私の大事な人の名前を騙るなんて本当にいい度胸をしているわ。すぐに捕まえて然るべきところに突き出してやる」
ユリアンの話を聞いてもアリアは納得しない。それどころか彼女の周りに炎が生まれ始めている。
(あれは……やる気だね、話し合いは無理そうだ)
どうやら一度やり合って彼女に納得してもらうしかないらしい。ユリアンは仕方なく戦闘態勢に入る。戦う意思を見せたユリアンにアリアは眉をつり上げた。
「あなた、私に勝つつもり? それじゃ遠慮なくやらせてもらうわ」
炎が唸りをあげてユリアンを飲み込もうと迫ってくる。昔から彼女は魔法で炎を生み出して攻撃するのが得意だった。今もそれは変わっていないらしい。
(相変わらずだね、でもそれは僕には効かないよ)
ユリアンが軽く手を振ると、彼に迫っていた炎が消える。アリアは眼前で起きた現象に目を見開いていた。
「嘘……かき消された……そんなことが出来るのは私が知る中では……」
「これで納得してもらえた?僕がユリアンだってこと」
「……そんな訳がない、彼はあの時死んだんだから」
ぽつりと呟くように漏れた言葉がユリアンの心にちくりと刺さる。
「もしあなたがあいつだって言うのならもっと力を示して」
アリアはそういうとこちらとの距離を詰めて接近戦を挑んできた。凄まじい速度で繰り出される攻撃をユリアンは一つ一つ捌いていく。
(以前より強くなっているね、本当に君は凄いや)
前世の時点で指折りの実力者だったのにあの時からさらに強くなっている、魔法や体さばきがさらに洗練されていた。
(でも君に力を示さないといけないから負けるわけにはいかない)
「ねえ、アリア。これを見せたら君に信じてもらえるかな」
ユリアンの姿が消える。彼はアリアの後ろに現れて彼女の動きを止めた。
「!? 今のは……転移……」
「そうだよ、君が力を示せと言ったからね。だから僕だと納得してもらえるような技を見せた」
「……」
先程まで警戒を剥き出しにしていたアリアは動きを止める、なにかをじっと考え込んでいるようだった。
「……私が知る限りそんなことが出来る奴は一人しかいない。そいつは10年前に魔王と戦って命を落とした」
アリアから敵意が消えていく。アリアにもう自分を攻撃する意思がないと判断したユリアンは彼女を解放する。解放されたアリアはユリアンのほうへと向き直った。
「……信じられないけれどあなたは本当にユリアンなの?」
アリアはまだ半信半疑と言った様子で問いかけてくる。力を見てユリアンの言っていることを受け止めようとしているがまだ完全に信じているわけではないのだろう。
当然だとユリアンは思った、死んだ人間が転生なんて普通は誰も信じないだろう。自分自身も最初は目を疑ったのだから。
「そうだよ。僕自身もどうしてこんなことになったかは分かっていない。けれど確かに僕はこの時代に転生して生きているんだ」
「……にわかには信じがたいけれどさっきの転移を見せられたら受け入れるしかないわね。天眼を持つあなたにしかあの技は出来ないから」
アリアはじっとユリアンを見つめてくる。まじまじと見つめられユリアンは気恥ずかしくなってきた。そしてくすりと笑った。
「僕をじっと見つめてどうしたのさ。しかも笑うなんてひどくない?」
「いや……なんで転生して女になってるのかなって思って……しかも普通に可愛いし。下手したら私より……なんか悔しい……」
「女の子になってる理由は聞かないで! 僕も恥ずかしいんだから!」
ユリアンの心からの叫びがアリアの部屋に木霊した。
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