今の世界
「護衛の申し出、本当にありがとうございました。あなたがいなかったら私達はあの魔物に襲われた時点で生きていなかったでしょう」
馬車の護衛をすることになったユリアンはその中に招かれていた。彼が話をしているのは一人の女性だ。茶色の髪と瞳を持っていて、その振る舞いはとても落ちついている。話によると彼女がこの一行を率いるリーダーらしい。眼鏡の奥に覗く瞳からはユリアンのことを見極めようとしているのが感じとれた。
「いえ、偶然通りかかっただけですから。魔物に襲われている人を放っておくわけにもいかないですし」
ユリアンの回答に女性はくすりと笑う。なにかおかしなことを言っただろうかとユリアンは不安になってしまった。
「いえ、あなたのおかげで本当に助かりました。あなたが助けてくれなかったらあの魔物の群と戦って多くの人が死んでいたでしょう。さてあなたは私の部下に今のこの世界について知りたいとおっしゃったそうですが?」
「はい」
今のユリアンにとっては他のなにを置いてもこれが一番重要なことだった。迂闊に動いて妙なことに巻き込まれるのは避けたい。聞かれたほうにとっては変なことを聞くと思われるのかもしれないけれどそんなことを気にしていてはなにも出来なかった。
「不思議なことを言う人ですね。まるでこの世界のことをなにも知らないと言わんばかりの言葉ですが……」
「あはは……」
ユリアンは言葉に詰まり笑って誤魔化す。実際彼女の言う通りなのだから返す言葉がなかった。かと言って自分が転生した人間ですなんて言っても信じないだろう。こちらを哀れむような目線を向けてきた女性。いたたまれない気持ちになるがユリアンは堪えた。
やがて女性は気にするのをやめたのか、ユリアンのほうを見て解説を始めた。
「まあお話したところで減るものでもないですから。命の恩人の頼みを無碍に断るわけにもいきませんしね。僭越ながら私のほうが解説しましょう。今私達がいる国はミストラルという王国です。10年ほど前までは魔族との戦争で疲弊していましたが、今は戦争からの復興が進み、王国の民も徐々に豊かな生活が出来るようになって来ています」
女性の言葉を聞いてユリアンは身を強ばらせる。魔物を率いていた魔王との戦争、それは前世の彼が戦っていた戦争そのものだったのだから。ミストラルという王国の名前も彼には馴染みのあるものだった。多くの友人たちが亡くなったその戦争の記憶は嫌でもユリアンの気持ちを暗くしてしまう。
(ということは今はあの戦いから10年くらい経ってるてことかな)
自分がなくなってから10年経っているのが今の時代らしい。王国は無事に復興してきているようでユリアンはほっと胸を撫で下ろした。残った人達がきっと今も頑張っているのだろう。
「あの魔王との戦争で功績のあった方々は領地を与えられたり、増やされたりしています。それに値することを成し遂げたのだから当然ですね」
「その……領地を与えられたという人の名前を教えていただいても?」
魔王討伐に功績のある人間といったら……ユリアンの頭にはある人物が浮かんでいた。自分の頼れる相棒であった彼女。
「代表的な方といえば……アリア・レイクロード様です。あの方が継がれたレイクロード家の領地はさらに拡大していますよ、領主としても評判がいいですし。今私達が向かっているのはアリア様が修めている領地の中心地となる街、ラルンです」
その名前を聞いた時、ユリアンは胸が締め付けられる思いがした。
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