vsウィル②
「……っ!」
ユリアは戦闘態勢をとる。怪物と化したウィルは一直線にユリアに向かって突っ込んできた。
「ユリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! お前をぉ!! 殺す!!」
凄まじい殺意をまき散らしながら向かってくるウィルにもユリアは怯んだ様子はない。
「本当に哀れな人だね、ウィル」
憐憫の情を見せながらユリアは魔法を放つ。突進するようにこちらに向かってきているウィルの周囲に炎が生まれ、彼を焼き払おうとする。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
しかし、彼はその炎に対し、自分も魔法で炎を生み出すことで相殺。続いて炎の槍を自分の手に生成し、それをユリアに向かって投げつけてきた。
ユリアは魔法に介入してそれを消失させる。が、足下に再び魔法を行使する気配があった。
その場からステップで後退する。ユリアがいた場所はマナで形成された棘が生まれていた。あのままあの場所にいたら串刺しになっていただろう。
「人間の時よりも魔法の行使が上手くなってる……?」
前に手合わせした時よりも魔法の行使が早く、迷いもない。カオスウィザードと融合したのもあるだろうがユリアという殺したい目標があるから実力を引き上げているみたいだ。
(魔法はイメージや目的が強固なほど威力や精度が増す。今の彼は僕を殺すという目的を持って魔法を振るっているからその分強いんだろう)
「くふふふふ……」
魔物と融合したウィルが不気味な笑い声を漏らす。どこか嬉しそうな様子だった。
「ふははははははははははははははははは! 素晴らしい、素晴らしいぞ! このチカラは!」
自分の力によったようにウィルは高笑いをあげる。
「魔物と融合し、さらなる魔法の高見へと至ったのが今なら分かる! これならば憎い貴様も殺せそうだ!」
ほとんど肉がなく、骸骨のようになった顔で爛々と輝く瞳は不気味だった。ユリアは不快感を覚えてしまう。
「そうまでして僕に勝ちたかったのですか? ウィル」
ユリアが静かに尋ねる。ウィルはにたりと笑い、口元を歪ませた。
「当たり前だとも! 貴様が私を負かしたあの試験の日から私の評価は地に落ちたのだ! 私が凋落するのと合わせるように貴様はどんどんと周りに認められていく! こんなことが許せるわけがないだろう!」
怨嗟の念を隠そうともせずにユリアにぶつけるウィル。もはや自制という言葉は彼の頭から消えていた。
「私にとって貴様は邪魔なのだ! ユリア・レイクロード! お前がいては私は日の目を見ることは出来ない! だからここで死んでもらうぞ!」
ウィルの叫びをユリアは黙って聞いていた。そして出てきたのは大きな溜息だ。
「……あなたの気持ちはよく分かりました。あなたは私が憎くて憎くて仕方がないのですね」
その言葉は丁寧だが感情が込められてはいない。注意力があればそれにも気づけただろうが今のウィルにはそれが欠けていた。
「そうだとも! お前さえ来なければ私は皆から期待される存在だったのだ! それを貴様が台無しにした! 故に償ってもらうぞ!」
感情のままに捲し立てるウィル。ユリアの中には特に怒りの感情はなかった。この魔法士は所詮この程度の存在だったのだろう。他人を恨むことはまだいい、それを自分を向上させる原動力にすれば問題はないのだから。しかし彼はその恨みを活力として生かし切れず他者を傷つける間違った道を歩んだ。
だったら、遠慮はいらない。
「ふふ」
「……? なにがおかしい!!」
ユリアが笑ったことにウィルは腹を立てる。表情を歪ませてユリアを睨みつけた。
「いや、あなたがどういう人間かは分かりました。これで僕もふっきれて戦うことが出来ます」
「偉そうに! 今回勝つのはこのワタシだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
聞き苦しい叫びと共に魔法が放たれる。マナを集めて放つ単純、しかし強力な一撃だ。
しかしユリアには通用しない。彼女は魔法へと介入し、その攻撃をかき消す。そして目にも留まらぬ早さでウィルの懐へと潜り込み彼に強化された拳を叩き込んだ。
「ごふっ!」
「あなたが僕への恨みから魔族と手を組んだということならば僕も遠慮なくあなたを殴れます、ここからはためらいません」
そのまま連続で蹴りと殴打が繰り出される。それは一方的な戦いだった。ウィルはユリアの動きを捕らえることが出来ていない。魔法の練習用人形のように嬲られているだけだ。
「ぐううううううううううううううううううううううううう! おのれえ!」
怒りと共に放たれた魔法もユリアには当たらない。余裕でその魔法をかわしたユリアは再びウィルの顔面に蹴りを叩き込んだ。
「ごあ!!」
「魔物と協力して僕を倒そうとしたのにこの程度では哀れですね」
「くそがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
やぶれかぶれの攻撃を繰り出すウィル。ユリアは攻撃が放たれる前に魔法で炎を生みだし彼の顔を焼いた。
「あああああああああああああああああああああああ! 熱い、熱いいいいいいいいいいいい!」
「魔物なんですからこんな程度じゃ死にません。ぎゃーぎゃー喚かないでください」
「ひっ……!?」
自分を見るユリアの冷たい目にウィルは寒気を覚える。
「な、なんなのだ! お前は! 本当にただの教師なのか!」
「ええ、単なる教師です。そして教師としてあなたに聞いておかないといけないことがあります」
ユリアはゆっくりとウィルに歩みよる。静かな怒りを身に纏って。
「あの魔物討伐の演習の時にあの狼の魔物を放ったのはあなたでしょう?」
「……っ!!」
ユリアの質問にウィルは目を逸らす。明確には答えないけれどそれが答えだ。
「……僕のことが気に食わないで僕にちょっかいを出すのは理解出来るよ。だけど僕の生徒に手を出したことは理解出来ないし、許すわけにはいかない」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……!」
「もう無理だろうけれど反省しろ」
ユリアが思いっきり拳をウィルへと叩き込んだ。彼の体は吹き飛んで壁に叩きつけられる。意識はもうない。
「これで事件は解決。そして」
ユリアはレイと名乗った少年を見る。
「今度は君が僕にいろいろ話す番だよ」
*
「おお、凄い、凄い! 圧勝だ!」
レイは味方のウィルが負けたというのに動じていない。それどころか拍手までしている。
「君の見方じゃないの? 彼は」
「はは、こんなやつただの実験体だよ。味方でもなんでもないさ」
戸惑ったように尋ねるユリアにあっさりと言ってのけたレイ、やっぱりウィルは利用されただけらしい。
「僕が勝ったらいろいろ教えてくれるってことだったけど」
「ああ、そうだね。お姉さんはちゃんと勝った、きちんと僕について説明しよう」
ウィルはじっとユリアを見つめながら語り始めた。
「まあまずは僕の目的からね。僕の目的は魔王になることだよ」
「!? 魔王になる? またどうして?」
「決まってるじゃん。魔物の頂点だからだよ、魔物として生まれたんだからその頂点を極めたいと思うのは自然のことじゃない? 人間が競いあって一番を目指すのと一緒だよ」
「……君は魔王になって人間をどうするの?」
「もちろん全員殺す。前の魔王は人間に成り代わろうとして失敗した。それを超えるということは当然人間に成り代わり世界を支配する必要がある。その過程で人間は始末するよ」
「君の魔物を生み出す力は誰から教わった?」
「ギルザークからだよ。僕はまだ彼ほどうまくないけれど」
(やっぱりか。あいつが生きていたならこの技術が受け継がれているのも納得できる)
「今回はギルザークから教えてもらった融合の魔法を試すのが大きな目的だった。このウィルは魔物の研究をしていたからね。僕が君への憎悪をたき付け、君を超える魔物を作ろうと言ったら面白いように動いてくれたよ。僕としては自分の力がどれくらいかを試せたし人間と魔物を融合させるっていう面白いことも出来たから満足のいく結果さ」
「なるほど、今回の一連の事件を手引きしていたのは君だったわけか」
「うん。これで満足したかな? 今お姉さんに話せるのはこれだけ。
それじゃ僕はこれで……」
ごうっとレイの体が燃え上がる。ユリアが魔法を放ったのだ。
「君は危険だよ。ここで捕まえていろいろ情報を吐き出させたら始末する」
「おお、怖いなあ」
燃えたはずのレイは無傷でその場に立っていた。炎もその場で消えている。
(消せたはずの炎をわざと受けた。しかも再生している)
遊ぶようにして戦っているレイにユリアの本能が警鐘を鳴らす。こいつはここでなんとかしないといけない。でないと将来大きな脅威になる気がした。
「今はお姉さんの相手をするつもりはないんだ、時が来たらどの道戦うことになるよ」
「逃がさない……!!」
「この怖いお姉さんの足止めをお願い、僕の可愛いしもべ達」
レイの言葉と共に何体かの魔物が出てくる。皆、合成された魔物だった。
「待て!!」
「じゃあね~」
ユリアが止めるのも聞かず、レイはその場から姿を消した。ユリアは追おうとするもレイが差し向けた魔物達に阻まれ、追いかけることは出来なかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白かったと思って頂けたら画面下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価したり、ブックマークして頂けると嬉しいです。少しのポイントでも作者の励みになりますのでどうかお願いします!




