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実践演習③

「さて皆さん、ちゃんとついて来ていますね」


 迎えた魔物討伐の当日、ユリアは教え子達を連れて問題となっていた森林地区までやって来ていた。


(皆やっぱり少し緊張しているかな)


 ユリアはじっくりと生徒達の様子を観察する。生徒の中にはまだ怯えるように周囲をきょろきょろ見回しているような子もいくらかいた。

「皆さん、大丈夫ですよ」


 ユリアは生徒達を安心させるように語りかける。


「前も言ったように万が一の事態があれば私が皆さんと絶対に守りますから。それに皆さん自身も私の授業で成長しています。今回相手をする魔物達は僕の授業で戦ったグレイウルフと同じくらいの強さです。きちんと鍛えてきた皆さんならちゃんと倒せます」


 ユリアの言葉を生徒達はじっと聞いていたがやがて頷いて落ちつきを取り戻した。


(よし、これなら大丈夫だろう)


 ユリアがそう思った時、がさりと音が響く。現れたのは狼のような魔物――グレイウルフだ。


(まさか授業で戦った相手そのものが出てくるなんて)


 少し笑ってしまったが最初に遭遇する魔物としてはよかったかもしれない。


(さあ、皆がどれだけ強くなったかを見せておくれ)


 ユリアがじっと見守っていると生徒の一人が魔法を発動した。発動した魔法は見事にグレイウルフを仕留めている。

 

(うん、いい感じだね)


 この行動をきっかけに生徒達は行動を始めた、自分達から魔物を探しに行きだしたのだ。


(やっぱり自分達の受けてきたことの成果が見えたのがよかったんだろうね)


 人間は実際に体感しないとなかなか動けない。今回の場合、先程の生徒が魔物を討伐したことが皆が動き出すいいきっかけとなってくれた。


(さて、それじゃ僕は皆を見守るとしますか)


 魔物が相手である以上なにが怒るか分からない。ユリアは生徒達から距離をとると、人型の人形を何体か生み出す。


「万が一なにかあったら皆のことを守ってあげてね、これは大事なことだから」


 生み出された人形はこくりと頷く、そして生徒達を少し離れた場所から見守り始めた。自分の手が回らない時にこの人形を生み出せば勝手に動いて命令をこなしてくれるがいい。

 

「僕もちゃんと監督をしないとね」

 

 皆を見守るのにいい場所はないかユリアは探す。


「あそこがいいか」


 近くに少し高くなっている場所を見つけたユリアはそこへと向かう。見渡しながら生徒達の魔物討伐の様子を見ていた。


「さて皆の様子は……」

 

 一番最初に見つけたのはシルヴィだった。爆発音が響いているので分かりやすい。


「また、あの子は派手にやっちゃって」


 音をあまり派手に立てすぎると魔物が集まってくるので派手にやるのは普通なら悪手になるのだが。


「いや……これは」


 ユリアが予想した通り、魔物達が音のしたほうへと集まってくる。その様子を見てシルヴィはにやりと笑った。


「皆、今だよ!」


 その声と共に他の生徒達が一斉に攻撃を始めた。攻撃を受けた魔物達はそのまま絶命していく。


「へえ、なるほど。わざと音を立てておびき出したのか。そして出てきたところを一網打尽にすると」


 他に人がいるからこそ出来る作戦だ。シルヴィはやはりあんなふうに見えてきちんと状況を踏まえて行動している。


「こっちは問題なさそうだね、他の子達は……」


 ユリアは他の生徒達の様子を確認する。シルヴィの他に二つほど集団が出来ていた。率いているのはリーシャとアダムだ。


「やっぱり中心になって動くのはあの三人になっていくかな」


 ユリアはぽつりと呟く。一番最初にいい成績を残していた生徒の3人がこのクラスの中心になっていくのだろう。


「でも他の子達もいい動きをしてる。鍛えた甲斐があったね」


 万が一のことを考えて人形を生徒達につけていたけれどこれならあまり心配はいらそうだ、気は抜けないけれど。


「それじゃ僕はゆっくりと皆がどう戦うか見させてもらおうかな」


 ユリアは少し胸を撫で下ろしながら引き続き生徒達の様子を観察する。


「まずはリーシャ達の集団」


 ユリアはリーシャが率いている集団に目をつける。リーシャの率いている集団はシルヴィと違って遭遇した魔物を一体一体仕留めていっているようだ。


「ん? あれは……」


 ユリアはリーシャが率いている集団のメンバーに小さな人型の炎のようなものが一緒についているのを見た。


「あれはもしかして……僕の人形を見てリーシャが真似たのかな」


 以前ユリアはリーシャの炎の巨人を真似て魔法を使った。今度はリーシャがそれをやっている。


「しかもちゃんと動いている、なかなかの魔法の精度だ」


 リーシャが魔法で生み出した人型の炎は生徒達が魔物に不意を突かれそうになった時に的確にそれをカバーして魔物を焼き払っている。集団守るとなるとかなりの精度が必要だがリーシャはそれをきちんとこなしていた。


「やるね、リーシャ。ここまで出来るなんて」


 決して努力を怠らない彼女の姿にユリアは嬉しくなる。こういう教え子を持ててよかったと思った。


「ふふ、これからが本当に楽しみだね。さてアダムのほうはどうかな」


 リーシャの成長に満足したユリアは次はアダムの率いている集団へと注意を移す。

 彼の率いている集団は何人かで固まりそれぞれ役割を決めて魔物に当たっていた。一人で戦わせないようにアダムがきちんと体制を構築したようだ。


「うん、派手さはないけれどリスクを考えて皆に指示を出しているね。素晴らしい」


 他二人より派手さはないがきちんと皆が死なないように基本を重視して動かしている。生真面目な彼らしい運用だ。


(……うーん、この調子で魔物の討伐が進むのなら僕の出番はないかな)


 心の中でユリアがそう思った時、


「ん……?」


 なにやらシルヴィのほうが騒がしい。ユリアはそちらに視線を向ける。

 そこにいたのは不気味なモンスターだった。大きな狼の体に翼が映えていて空を飛んでいる。通常ならあんな生き物は存在していない。


「……!? あれは……」


 しかしユリアはそれを可能にする存在を知っている。


(まさか、あいつが……)


 慌てて周囲を天眼で確認するも大きなマナの反応はない。


(直接は来ていないってことかな。それでも)


 あの魔物はおそらく複数の魔物を混ぜて作った合成獣のようなものだ。普通の魔物よりも肉体の強度も高く、合成に用いた魔物の能力を引き継ぐため強さも圧倒的だ。おそらく今の生徒達じゃ太刀打ち出来ない。


「安心出来るかと思ったらこれだ」


 自分の出番が回ってきたことに複雑な感情を覚えながらもユリアは生徒達の救出に向かった。

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