転生と新たな始まり
「ん……」
重い瞼をあげる。柔らかな光が差し込んできてユリアンは思わず目を細めた。
「ここは……」
辺りを見回すとどうやらどこかの建物の中にいるらしい。しかも自分は寝ている状態だったため、とりあえず起き上がる。周囲には自分が寝ている寝台以外はあまり物が置いていない部屋だった。
「って、なんで生きてるんだろう、僕……魔王との戦いで僕は……」
自分はあの魔王との戦いで確かに死んだはずだった。それなのになぜ生きているのか、加えてここは最後に死んだはずの魔王の城でもないようだ。
「いったいなんでこんなことになっているんだ……? 誰がなんのために死んだ人間を生き返らせるなんてことを……」
考えても分からないことばかりだ。なにも分からないから不安ばかりが募っていく。
「いけない、とりあえずどういう状況なのかだけでも確認しないと」
とりあえず行動することに決めたユリアン、そうすれば不安も消えるだろう。建物から出たら人も見つかるだろうし。出会った人に聞き込みでもして情報を仕入れていくしかないなと思いながらユリアンは立ち上がる。
「そういえば、声に違和感があるような……僕の声ってこんなだったっけ?」
気のせいだろうか、声のトーンが高い気がする。自分はこんなに高い声ではなかったはずだとユリアンは訝しんだ。
ふと視線の先に鏡があることに気がついた、そこに映った自分の姿にユリアンは悲鳴をあげそうになる。
「こ、これが僕!?」
鏡に駆けより、自分の姿を凝視してしまうユリアン。そこに映っていたのは腰まである黒い髪に赤い瞳を持つ美しい少女の姿だった。服に関しては一般的な魔法士が着るようなローブのようなものを着ている。
「ど、どうして女の子になってるんだーーーーーーーーー!!」
素っ頓狂なユリアンの絶叫が部屋の中に響き渡った。
*
「はあ、はあ……」
あまりの事態に思わず大声で叫んでしまった。とりあえず自分がどうなったのかを必死に受け止めるために深呼吸をする、ようやく落ち着いてきた。しかしこれは……。
「一体これは僕になにが起きたんだ、生きていること自体も謎だけど女の子になってるなんて余計に意味が分からないんだけど……」
なにからなにまでさっぱり分からない。けれど今確かに言えることは一つだけだ。自分は確かに生きていて姿がなぜか女性になっているということだ。誰がなんのためにこんなことをしたのかは相変わらず不明という状況だが。
「とりあえず自分の状態は分かったけれど今の周囲の状況についても把握しないと」
最後に自分が死んだのは魔王との戦いの場だ、けれど今いるこの場所はどう考えてもその場所には見えない。
改めて自分の体を確認する。鏡に映った自分の姿は間違いなく女性だ、均整のとれた肉体に綺麗な顔立ち、街を歩けば振り向く人間がいるかも知れないと思えるくらいには美人だった。
「まあ、醜いよりはいいかな……それだけで話が出来ない時があるし。人から情報を引き出したい時とかは利用出来そう」
見た目が悪くて他人に避けられるよりはいいだろう。とりあえずここから出て街でも探そうと思い、ユリアンは部屋の出口を探す。
「あ、そういえば」
なにかを思い出したようにユリアンは呟き立ち止まる。
「魔法ってまだ使えるのかな、この体」
魔法、それはこの世界のあらゆるものを書き換える術。
この世界はマナと呼ばれる物質で構成されている、それに干渉してあらゆる現象を起こすことが出来るのが魔法だ。このマナに干渉する力がある人間は数が限られているため、その力を持った者は魔法士と呼ばれる。前世のユリアンもその魔法士の一人だった。
「……んっ……」
意識を集中してユリアンはマナへの干渉を開始する。起こそうとする現象は発火だ。頭の中にイメージを作り、魔法を発動させる。
少し経つとなにもない空間に火が灯る。どうやら前と同じようにこの肉体でも魔法は使えるらしい。
「魔法が使えるのはよかった。なにも出来なかったらどうしようかと思ったよ」
もし魔法が使えなかったらこの肉体で生きていくことに不安を覚えていたかもしれない。それくらいユリアンにとって魔法は心強いものだった。
「よし、魔法が使えることも確認したし出発しますか。とりあえず人を見つけて情報を手に入れないと。大きな行動方針を決めるにしてもそれからだ」
とりあえずの目標を立てて、ユリアンは目覚めた建物を後にした。
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