ユリア先生の実践授業②
魔法の解説をした後、ユリアは生徒達を連れて魔法学院内にある訓練場へと移動した。ここはかなり広く、耐久性も高い施設で実戦の訓練を行うのに適した場所だ。
「さてここで皆さんの実戦訓練をこれから行っていきますよ」
そういってユリアは指を鳴らして狼のようなものを何体も生み出す。グレイウルフという比較的どこでも見かける魔物に力と姿を似せた人形だ。
「これはグレイウルフという魔物に似せた人形です。まずはこれを倒せるようになってください。まずは戦う際の恐怖心に負けないようになることを覚えてもらいます。こいつを倒せるようになれば次へと進みますよ」
「ええ!?」
悲鳴を上げる生徒達を無視してユリアはにこりと笑いながら宣言する。生徒達は少し怯えながらもユリアの課題をこなし始めた。
「えい!」
生徒の一人が炎を生み出してグレイウルフを燃やそうとする。しかしグレイウルフはそれを素早い動きでかわし、生徒に襲いかかった。
「きゃ……」
生徒に攻撃する直前でグレイウルフは動きを止めた。
「安心してください、皆に直接危害を加えることはしません。ただ攻撃してくる動作は完全に本物と同じと思ってくださいね。それでは授業スタートです」
ユリアの言葉を合図に人形のグレイウルフ達は生徒達に襲いかかった。
*
「さて」
ユリアは生徒達の状態を確認する。
「……うう」
「もう無理、動けない……」
「これ以上は厳しい……」
そこには疲れ果ててぼろぼろの生徒達がいた。皆ユリアが作り出した人形との戦いで気力を使い果たしぐったりとしている。
(うん、思ったより皆頑張ったね)
最初はユリアの生み出した人形の魔物に怯えていたが戦っていくにつれて皆積極的に相手を観察して対処法を考えるようになっていった。まだまだ粗は目立つけれどそれはこれから育てていくしかない。
「皆さん、お疲れ様でした。今日はここまで。グレイウルフの人形を多く倒せた人は次の授業はもっと難しい魔物を模倣した人形を相手にしてもらいます」
ユリアの宣言に生徒達はがくりと肩を落とす。しかし嫌だと嘆くものはいなかった。
授業を終了した生徒達はそのまま休み時間に入る、皆足早にその場を去っていった。
「? どうしました? リーシャさん?」
そんな中、リーシャ一人が教室に残っていた。彼女は他の生徒と違い、疲労困憊といった様子ではない。むしろ余裕すらある。
「いえ……自分の魔法をもっと高めるにはどうしたらいいかと考えていまして」
「今日の授業では君が一番グレイウルフを倒していました。焦る必要はないと思いますが」
「……そう、ですね……」
「……なにか悩んでいるのですか?」
「違います。その……」
ぎゅっと胸の前で手を握りしめるリーシャ、前に手合わせした時にも感じたけれど彼女からはどうしても強くなりたいという意思を感じる。それがあの魔法の明確なイメージを作る助けにもなっているのだろうけれど
「その……正直今日の相手では物足りませんでした」
言いにくそうにリーシャはユリアに告げてくる。それは先生という立場の相手に対する遠慮だったのだろう。
「あはは、まあ簡単に倒してましたからね。リーシャさん」
「うう……すみません、失礼なことを言ってしまって。先生が生徒全員のことを考えて今日の授業を設定されたのは分かります。でももっと強い相手と戦ったほうが自分を高められる気がしてしまって」
「いいえ、あなたのその感覚は正しいと思います。今日は始めてだったので皆さん同じ相手と戦ってもらいましたけれど次からは個人に合わせて戦う相手のレベルと変えてみようとは思っていますよ」
「本当ですか?」
リーシャが期待に満ちた目でユリアを見つめてくる。
(本当に向上心が強い子だね)
そのひたむきさにユリアは感心していた。彼女は今後とても伸びるだろう。
「リーシャさんはなぜ強くなりたいのですか?」
「えっ?」
少しリーシャとの距離も縮まったかなと考えたユリアは疑問に思っていたことを訪ねてみた。答えてもらえない可能性もあったが生徒のことを知っていくためにはプライベートなこともある程度話してもらえるくらいにはならないと駄目だろう。
「いえ、他の方より熱心に取り組んでいるなと思って。なにか理由があるのかなと」
「大したことではありませんよ」
リーシャは少し照れながら頬をかく。
「私の家は一家全員宮廷魔法士なんです。だから私も一族の皆みたいに立派な魔法士になりたいというだけですよ」
彼女の言葉を聞いてユリアはああと納得した。クロックフォード家は確かに魔法士として才能溢れる人材を排出している家だ。そんな中で育ったから魔法の向上にも熱心なのだろう。
「私なんて家族の皆に比べたらまだまだ未熟者です。私は家族に恥じないくらい強くなりたい。至極単純な理由なんです、私が強くなりたい理由は」
一族の名に恥じない魔法士になりたい、それが今のリーシャを突き動かしている原動力だった。
「成程、あなたが強くなりたいと思っている理由はよく分かりました」
ユリアは微笑みながらリーシャに語りかける。
「きっと君は優秀な魔法士になれます」
「またお世辞を……」
「お世辞ではありませんよ、本心です」
「えっ?」
「あなたは私が見てきた魔法士の中でも真面目で努力家です。私が見てきた魔法士の中には才能はあっても努力を怠ったばかりに駄目になる者も多かった。その中であなたは才能がありながら頑張って自分を鍛えようとしている。それは普通の魔法士に出来ることではありません」
「先生……」
「だからあなたはもっと自分のことを誇っていいんです。自分を信じてあげられればもっといい魔法士になれますから。思いの強さが魔法の腕にも影響しますからね」
「……はい!」
ユリアから褒められたことが嬉しかったのかリーシャは満点の笑みで返事をした。




