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5部

ある日の夕方。

トントントン

夕食の準備をタラがしていると扉を3度ノックする音が聞こえて手を止めた。


「ど、どちら様でしょうか?」

震えるようなタラの問いかけにその男は答えた。


「私はザハです。あなた達を王都に連行しに来ました」

タラにいきなりそう告げてきた相手が4雷の1人だと理解するのに時間はかからなかった。


「しゅ、主人は・・・」

タラは自分の心臓の強い鼓動を感じながらも質問した。


「あー、殺しました」

いきなりのバディの訃報。悲しみよりも先に、なんの悪気も後悔も感じられないその喋り方にタラはふつふつと怒りを覚えた。


「・・・な、なにか最後に言っていましたか?」


「んー、後は頼んだとか言ってたけど。あとあなた達には手を出すな、とか?」


「そうでしたか・・・」

ドア越しでの会話にタラは大粒の涙を流した。


「まぁ無理なんだけどね。情報吐いてもらったら殺すことになってるもん。危険分子がどうたらで・・・ってこれ言っちゃいけないんだった」


するとドアの術鍵が開き、ゆっくりとドアが開いた。


タラの手には料理で使用していた包丁を持っていた。

ザハのほうに向けられているそれを両手で力強く握り、涙を流しながら鬼の形相で突進した。

「死ねぇぇぇぇ!!」


その刹那。


「グフッ・・・」

ザハの足元から光が発し、その光が電気を纏った細い槍のような形容に変わったかと思うと腹部を一瞬で貫ぬき、タラの身体が少し浮く


「ダメだよ。僕に触れて良いのは神様だけだから」


刺さった箇所から段々と血が滲む。

刺さっていた光の槍はまたザハの足元に戻り、支えを無くしたタラの身体は後ろへと倒れた。


部屋で本を読んでいたアリアは、タラの初めて聞く奇声に、ぬいぐるみを持ってドアの方へ向かった。


「おかあ・・・さん?」


玄関に行くと、広がっていく血溜まりの中心にタラが仰向けで倒れている状態にアリアは頭の整理がつかなかった。


そのタラを跨いでザハが家に入ってきた。


「どーもこんばんは。君がアリアだね?」


倒れているタラに見向きもしないで話しかける。

そんな奇妙な光景に呆然と立ち尽くすことしかできないアリアは持っていた本を力強く抱きしめた。


最初に整った感情は恐怖。

ザハに対してでは無い。

タラの無惨な姿に対してである。


その時、まだ意識を寸前で保っていたタラが片手でザハの衣服を掴んだ。

「ア・・・リア・・・逃げ・・・てっ」


「だーかーらー」

その手を直ぐに払い除けるとザハは怒りの表情を浮かべた。


「僕に触れるなって言ってるだろうが!!」

そう言うと足元から再び光が発した。

光の槍が次はゆっくり現れたかと思うとそれを片手に持ち、タラの胸を一突きした。


アリアにも分かるタラの確実な死は次第にザハに対しての憎悪へと変わっていった。


ザハは怒りによって乱れた呼吸を整え、もう一度アリアの方を振り返る。


アリアは持っていた本をさらに強く握りしめ、涙を垂れ流しながらザハを睨んだ。


「ゆるさない・・・」


「ん?なに?」


「ゆるさない・・・」


「あー。別に許さなくて良いけどちゃんと着いてきてもらうよ」

ザハは面倒くさそうに頭をかいた。


「ほらおいで」


アリアに近づこうと足を前に出そうとするとその違和感にザハは気づいた。

足を引っ張られる感覚。


「・・・?」


とどめを刺され、既に絶命しているであろうタラの身体に向かって血溜まりがゆっくりゆっくりと光を帯びながら戻ろうとしていた。

スライムのように動くその血液はタラが掴んだ時に付いたザハの衣服と靴底の血液すらも引きづり込もうとする。


「復元魔術?死んでるんじゃないの?」


タラが死の前に発動させた回復魔術の1つ。

対象者の血液を体内に戻すこの魔術は光回復術師の中でも実演させるのは困難な高等魔術である。

王都立病院に元々勤めていたタラだからこそできる所業であった。


だが、死んでいる場合はその魔術を使ったからといって対象が蘇る訳では無い。


ただ娘を守る為、その1点でその魔術が発動されていた。


そんな事を知る由もないアリアはザハへの憎悪ある目を変えずに佇む。


「ゆるさない・・・」


するとアリアの周りに紫煙が渦を巻いて現れ始め、持っていた本が見る見るうちに黒ずんでいった。

そして灰のように消え失せた。


「!?」

ザハはその光景に戦慄したが、その後に不敵な笑みを浮かべる。


「まさかそんな・・・?」


紫煙の渦は段々と広がっていき、今にもザハに触れるか触れないかの距離まで達した。


「ゆるさない!!」


その刹那


シュトンッ

アリアのこめかみあたりに弾丸のようなものが直撃した。

それを受けて紫煙は消え、アリアは意識を失った。




「手荒な真似してごめんな嬢ちゃん」

どこから現れたか、その男はアリアが床に倒れる前に優しく抱き抱えた。


そして動けないザハを1度睨みつけた。


「ザハ、次会った時は殺す」


そう言うと背中から風を纏った翼が生えてきて、アリアを抱えたまま一気に空に舞い上がった。


家の周りには王都兵が何十人も囲むように待機していたが、その男が現れてから外は猛烈な風に襲われており、立っているのがやっとだった。


「待て!」


ザハは動けない身体を揺らしながら光の槍を幾つも発射したがヒラリと全て避けられた。


「クソっ!クソッ!」


悔しがるザハをよそに、アリア達はその場から離脱した。

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