4部
バディとタラは家のテーブルで向かい合い、暗い顔で何かを話していた。
そんなことはつゆ知らず、アリアは部屋のベッドでゴロゴロしながらひとつの絵本を見つけて読み始めた。
『これはむかしむかしのおはなし。
ある村にひとりの女の子がいました。
女の子は村1番の魔女になることが夢でした。
砂浜で行く日も行く日も魔術の修行をしていました。
他の子にその事をからかわれて泣いてしまう日もありましたが、めげずに頑張っていました。
ある日、村の男の子が修行中の女の子を見て
「なんでそんなにがんばっているの?」
と聞きました。すると女の子は
「みんなを守るために強くなりたいの」
と答えました。
「なら僕も強くなりたいから混ぜてよ」
「いいよ」
こうして一緒に修行し続けました。
陽が差す暑い日も。
肌の痛さを感じる寒い日も。
それから何年も経ち、大人になった2人はその村で1番強い魔術のペアになり、からかう人は誰もいなくなりました。
その後2人は・・・』
ガチャ
残りを読み終わる前にバディが部屋に入ってきた。
「もうっ。今本読んでたのに!」
「ははっ。そうだったのか。いきなりごめんな」
そう言うと相変わらず頬を膨らませるアリアをバディはきつく抱きしめた。
「お父さん?どうしたの?」
バディの肩の上からキョトンとする彼女。
「アリア。お父さんは明日からお仕事で少し遠くに行くことになりそうなんだ。だからいつ戻れるかも分からなくてな」
「え。そんなのやだよ」
先程と顔を全く変えずに率直な気持ちを言うアリアを不安にさせないように優しい顔を向けるバディ。
その瞳には今にもこぼれそうな程の大粒の涙の塊が落ちようとしていた。
「やだやだやだやだやだ!」
バディの涙に呼応するかのようにアリアも顔が緩んでいき、洪水のような涙が流れる。
水滴に映るバディの瞳のアリアは瞬きをすると同時に床へ零れた。
そして
アリアにとって全てが終わり
この国にとっての終焉が始まる日
いつものように朝支度を終えたバディをタラはなんとも言えない面持ちで見ていた。
「アリアはまだ寝てるか。タラ、これからアリアをよろしくな」
バディは階段に目を向けてにこやかな表情で呟いた。
「ええ・・・」
「ったく。そんな暗い顔すんなって。死ぬ訳じゃあるまいし」
「もうっ・・・そうだけど・・・」
バディはタラの真っ直ぐ綺麗に整った髪を耳にかけた。
「また会えるさ」
「そうねっ」
ドッドッドッ
アリアが階段を下ってきた。
「お父さんっ」
「おお!アリア!今日は早く起きたんだな!」
「これっ」
そう言うとアリアはおもむろに小さな手に持っていたブレスレットをバディに渡した。
「これアリアが作ったのか?」
「うんっ!お母さんと作ったんだ!あげる!」
先日アリアが丘でタラと作ったブレスレット。
ネメシアの花が樹脂で固められている。
「アリア、タラありがとうな」
バディはそう言うとアリアとタラを強く抱きしめた。
「それじゃ行ってくる!」
いつもは大きな背中に見えるバディの後ろ姿がその日、アリアには小さく見えた。
趣味で小説書いてます。不定期更新ですが、何卒よろしくお願いします。