表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソリプ魔は石化する  作者: 本間帯刀
《第6章》 ディミオス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/19

第15話 お姉ちゃん

 冷たい夜の大気の上に三日月がひっそりと輝く。夜空が黄色い口で(わら)っているようにも見えた。クリスマスイブの夜も更けてきた。

 廃墟で瑠々(るる)のメッセージ動画を撮り終わり、トロールに投稿したディミオスは歩いてくる瑠々のほうを向く。


「ディミオス。……あたし疲れちゃった」


 漆黒のドレスをまとった瑠々が呟く。

 今日は長距離をおぶさって移動したのだ。無理もない。


「神よ。早くお休みください。私たちはこれからもクソリプを送る奴らを石化させ、砕き続けなければなりません」


 瑠々は(うつむ)き、胸元に手を当てた。


「うん……そうだね。トロールの平和は……あたしが……守る……」

「そうです。お話した通りトロールの平和は神にしか守れません」


 瑠々はキッとディミオスを見据みすえる。


「なんかうまく言いくるめてない?」

「え?」


 ディミオスの額に冷や汗が浮かんだ。


「あんたに(さら)われてから『クソリプ魔がいかに悪か』について延々と聞かされてさっきの動画も嫌々撮ったけど。あんたの動機が全然解らないの。なんでそこまでしてクソリプ魔を憎むの?」


 ディミオスはイライラしている瑠々にあたふたしている。


「わ、解りました神よ。お話致します。これは私の胸に秘めておきたかったことなのですが」


 瑠々は近くの倒木に腰を下ろした。


「解った。でもふざけた話だったらいますぐあんたを警察に突き出すから!」


 ディミオスはほっと息を吐いた。


「え~っと、あれは四年前……私が中学三年生の頃の話です。いま私は女子大生やってるんですけど」

「……全然見えへん! じゃあ大人しく女子大生やってなよ! あたしはとっとと研究所に戻って自分の罪を償ってるから!」


 ディミオスはおろおろするばかりだ。


「そんなあ神よ! せっかくお知り合いになれたのに! 行かないで! ディミオスさびしい!」


 抱きついてきたディミオスをぐいぐいっと片手で引き()がして()く。


「こんな凶悪なことしてる動機は?」


 ディミオスは染みわたるような微笑みを見せた。


「ではお話しします。私のお姉ちゃんのお話を」


 言って両目を(つぶ)る。


「私のお姉ちゃんは国民的アイドルでした。私の憧れでもありました。いつも自信満々で言いたいことはズバッと言う。内気な私にはまさに神のように見えたものです」

「あんたそれで内気だったの」


 ディミオスは瑠々(るる)の突っ込みをスルー。


「ですがいつからか姉の歯に衣着せぬ発言がアンチを呼び始めて……トロールの投稿にもクソリプが付くようになりました」

「ふむふむ」


 瑠々は相槌あいづちを打ちながら人には想像もしなかった過去の一つや二つあるものだと思った。


「そんなあるとき誰かが『こいつ過去に薬やってたんだぜ』と事実無根のクソリプを付けて……瞬く間にお姉ちゃんのトロールは大炎上」

「……!」


 ディミオスは拳を握りしめた。


「そこから本格的に誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)が始まりました。報告機能がないトロールでの炎上が効いたのでしょう。お姉ちゃんは日に日に憔悴(しょうすい)していき……警察もろくな対応をせずに! ある日……!」

「ディミオス……」


 見るとディミオスの目に悔し涙が浮かんでいた。


「起きてこないお姉ちゃんを心配して……部屋のドアを開けたら……開けたら‼」


 ディミオスがマスクの下に(はな)(すす)る。

 しゃくり上げるディミオスを見て、瑠々はこいつも女の子なんだな、と思った。

 ディミオスの姉は……手首を切って死んでいた。どす黒い絨毯じゅうたんに沈んだ姉を見て、中学生のディミオスは呆然ぼうぜんと立ち尽くしたらしい。

 うずくまり、両手を顔に当ててむせび泣くディミオスの頭を、瑠々は優しく()でる。


「なにより……っ……腹立たしかったのは……っ!」


 ディミオスの姉の訃報(ふほう)に付いたクソリプ。



『勝った!』



「私は悟りましたよ……。トロールは邪悪な空間であると」


 かっと目を見開いたディミオスの殺気に、瑠々は気圧(けお)されて尻もちをついた。




 嗚咽おえつするディミオスを瑠々はしばらく抱きしめていた。ディミオスはスマホを取り出し、トロールを開く。たくさんのDMが届いていた。誰からでも届く設定にしてあるものの、通話機能は切ってあった。瑠々(るる)もスマホを一緒になって眺めていたが、そのなかの一文に目が吸い寄せられる。



『我が名は【勇者メソテース】。本名を石岡楼(いしおかろう)。ディミオス! オレから逃れられると思うな!』



「――貸して!」


 ディミオスからスマホを奪い、楼と思われる相手にDMを送る。


高橋(たかはし)瑠々です。楼? 楼なの?』


 しばらくして通知音が鳴り、返信が返ってきた。


『え? 瑠々? マジで⁉』


 瑠々は涙ぐむ。


『楼! あたし自分の罪を償いもせず……! 後悔してる!』

『大丈夫だよ瑠々。瑠々の反省の気持ちは十分に伝わってる……! ところで』


 少し間があって、石化した人間の画像が表示された。


『おじさんが石化したからディミオスに頼んどいて。オレこいつ嫌い』


 見るも無残に石化した佳景(よしかげ)の姿がそこにあった。天に両手を突き上げ、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべている。

 瑠々は沸き起こる笑いを抑えられずに噴き出してしまった。


『あははー! いいザマだわ。あたしもそいつ嫌いだから真っ先に頼んどくね! 場所は?』

東都(とうと)スカイビル六十六階、傾和(けいわ)証券(しょうけん)株式会社』

『あの海沿いのめっちゃ高いおしゃれなビルね、オッケー! ディミオスがそいつぶっ壊してからあたし罪を償うから』

『決まりだね。頼むよ! オレは家でトロールしてる』


 瑠々はご機嫌でDMを終えた。瑠々はディミオスの腕に抱きつく。


「ねえディミオス! 明日さぁ、東都スカイビルまで行こうよぉ!」


 ディミオスは顔をしかめた。


「ぇええ⁉ 明日はクリスマスなんで家でゆっくりしときたかったですぅ。そして神と一緒にコタツで丸くなってテレビの特番観ながらフライドチキンでも食べてほっこり……」


 どうでもいいことをぶつぶつと呟くディミオスに瑠々は石化した佳景の画像を見せる。


「このオッサンぶっ壊せるよ?」

「……? うーん、これは醜いオッサンですねえ。いや……こいつは……!」


 ディミオスの眼が憎悪に染まった。

 瑠々は背筋が凍り付き震える。


「神よ。行きましょう。ぜひとも行きましょう! この男はなにがなんでも絶対に始末しなければならない!」


 ディミオスはおぞましく(うな)る声でそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ