02:「今」の日常‐1 一日の始まり
「いい加減、あの夢も見たくないな…」
彼…天遊 修矢は徐々に意識を覚醒させた。そして、あの夢をもう見たくないと独り言ちている。修矢があの悪夢について考えていると、扉の向こうから声がした。
「修矢!もう朝だぞ!起きろ!」
修矢はそれに対し、
「分かった!今行くよ、優!」
と、返した。
彼は扉を開けて、いつも通りに顔を洗っていた。
修矢は黒髪黒目の10月24日生まれの14歳。まだ中等部三年になったばかりで、今日は始業式から約2週間がたった春の日である。
修矢には家族がいない。正確には、家族がいなくなった。5か月前のある日、親友との遊びを終えて家に帰るとそこはもぬけの殻となっていた。
母である天遊 美夜も、父である天遊 能屋も、妹である天遊 百合もまるで元からいなかったかのようにいなくなっていた。
それから紆余曲折あり、今では親友である神坂 優とその双子の妹である神坂 浅木の家で居候している。
修矢は洗面所で顔を洗うとそのままリビングへの扉を開く。
「おはようございます。葉さん、夜宵さん。」
リビングにはこの優達の父である神坂 葉と神坂 夜宵が朝ごはんを先に食べていた。そして修矢は食卓につく。すると夜宵は食卓を離れ、修矢の分の朝食を準備し始める。
「おはよう、修矢くん。もう「さん」付けじゃなくて「お父さん」、って呼んでもいいって言ってるのに。」
「葉くん、それじゃあ、結局「さん」付けしてるじゃない。」
「おや、こりゃいけない」
とても明るい神坂夫妻。修矢とは彼と優が知り合った幼稚園からの縁である。
そのためか、修矢に対する洞察力は自分らの子である優と浅木と同じレベルである。つまり最近、修矢の精神状態が芳しくないことを察しており、明るくふるまうことで少しでも元気づけようとしてくれているのだ。
そしてそのことは、修矢も察しており、そのささやかな気遣いに感謝していると同時に、少し照れくさくなっている。
「ウチの親は夫婦仲のいいことで。」
呆れたように声を出したのは浅木を起こしてきた優である。亜麻色の髪を持つ彼の癖毛は直すのを諦めたらしい。
彼はリビングの扉を閉めると食卓についた。
そして二人が同じ側の椅子に座ると、ほぼ同時に夜宵がテーブルに二人分の食事を用意した。
「あら、浅木は?」
夜宵が優に聞く。
「あいつなら今、顔洗ってる。あいつ、最近ずっとそうだよ。悪いものでも食ったんじゃないの」
「そんなにおかしいことかい?」
「おかしいんだよ、修矢。なんせあいつは私生活じゃ意外とズボラな面が多いからな。」
「そう?僕にはそう思わないけど。」
「だからおかしいんだ。あいつ、あんなかんじじゃないはずなんだけど…」
「コホンッ」
浅木が扉の前で咳払いをした。優と同じ髪色でセミロングにしている彼女は優に冷ややかな目線を向けながら、食卓についた。
夜宵は浅木に朝食を運んであげたのだが、彼女に対する目線はニヤニヤしている。
天遊 修矢の「今」の日常はこんな朝から始まる。
誤字脱字方向、批評(批判じゃないよ)コメント、よろしくお願いします。
次の投稿日は3月19日を予定しています