10:変化していく日々
修矢がサソリに悪夢で釣られてから初めての土曜日。
修矢を含むいつもの三人はカラオケに来ていた。
「にしても、自分の溺死体が海底に沈んでる夢か~」
「それならあんなに気分が悪そうになってたのも納得ね。」
優と浅木が先ほど修矢に聞いた悪夢の話について考えていた。
二人は両親と同じように、修矢の精神状態が芳しくないことに気付いていた。
ただ、もし修矢が本当に困る、気持ちが悪くなる、そのせいで周りに迷惑をかけるなら相談するだろう、と考えていたため、修矢に悟らせない範囲である程度の気遣いをしていたのだ。
悟らせたくなかったのは、気遣いされてると気付かれたとき、修矢はきっと申し訳ない気持ちだとかが生まれるだろうという理由からだった。
「そんであのサソリが助けてくれたんだって?」
「まるで「鶴の恩返し」ならぬ「サソリの恩返し」ね。」
「もしかしたら、あの日のサソリは神様なのかもしれない。」
「?」「なんで神様?」
急に神様を出してきた修矢に二人は戸惑う。
しかし、当の本人も…
「??なんで僕はあのサソリを神様と思ったんだ?」
と、そんなことを思っていた。
「まぁいいわ。ねぇ、今はどんな夢を見ているのかしら?」
「それは……」
浅木の問いに思い出す修矢。
彼はあの悪夢からサソリに釣り上げられた後から、別の夢を見続けている。
ただ、その夢もずっとその夢が続いているのだ。
「誰かにずっと呼ばれてるような夢を見るんだ。誰なのかはわからない。いつも声も聞こえないし、顔も霞がかったように見えない。ただどこかあのサソリと同じような雰囲気を感じて僕を呼んでるように感じるんだ。」
「ふ~ん…」「へぇ…」
修矢の見ている夢に関心を持つ浅木と修矢。
「ん。ん…?僕らは何のためにカラオケに来たんだ?歌うためだよね…」
「……( ゜д゜ )ハッ!そうじゃない、これじゃあせっかく払った1740円が無駄になっちゃうわ!」
「よし。浅木、歌え」「なんで私からなのよ。」「そのあとは修矢な。」「優は?」「そのあと。」
優が順番を決め、浅木が曲を入れる。
「『世界一の乙女様』?」「どんな曲なのかな?」
そして浅木は歌い始めた。
その曲は凄くアイドルらしい曲だった。一言で言うなら、とてもクールなイメージの浅木には合わない曲。ただ、二人は浅木が意外とおっちょこちょい(優にとっては「抜けている」だが。)なのを知っていて、動物のぬいぐるみが好きなことを知っていたためシンプルに似合ってると感じた。
「そういえばさ、明後日だよな。転校生が来るの。」「そういえばそうだね。」
「どんな子だろうな~…女の子とは言ってたよな。」「うん、そして男子が雄叫びを上げた。」
「♪世界一の乙女様 …何の話?」
浅木は歌い終えるとこちらの話に参加してきた。
「ほら、明後日来る転校生の話。」「あ~来るって言ってたわね。」
「そう。その子がどんな子か、っていう話。」
「それもいいけど……修矢、次あなたの曲よ、『アンタレス』」
「ああ、ありがと」
修矢は浅木からマイクを受け取った。
「そういえば、『世界一の乙女様』ってどんな曲なの?」
「知らないの?」「うん、知らん。」「ごめん、知らない。」
修矢と優の言葉を聞いて浅木は呆れたような顔をしてスマホを操作するとその画面を彼らに見せた。
「ほら、最近話題のラブコメアニメ、『純情で何が悪い!』の主題歌で人気アイドルグループ『フラクト』の曲。センターの子が作詞作曲をした上に可愛いって評判なのよ。ほら、この子がセンターの比口坂 音色」
その画面に映し出された子は、ピンク色の髪にはっきりとした黒い目を持つ、普通に「可愛い」の言葉が似合う女の子だった。
「へ~可愛いな。」
「え。優、こういう子がこの好みなの?」
「ちげぇよ、別に客観視したら可愛いってだけの話だ。第一俺は昔も今も百合一筋だ。」
「一途だね。」
そう、優と百合は失踪前まで、付き合っていた。
「俺だって百合に会いたい。だから修矢、お前の家族を捜すための手伝いだったらなんだってする。だから俺を頼ってくれ。」
「ッ……ありがとう。本当に助かるよ」
「そうかよ。それじゃあ、お前の曲だ。行ってこい修矢。」
そして始まる『アンタレス』のイントロ。修矢は急に始まった曲にびっくりしながらも歌い始める。
「♪暑い、暑い、夏の夜に、空を見上げ見つけたのは 赤く強く光る僕の心臓」
修矢は歌いきり、最後のフレーズを口ずさむ。
「♪僕の命はやはり切ない真っ赤な一等星」
カラオケの採点機能は100点をあげた。
誤字脱字報告、批評(批判じゃないよ)コメント、よろしくお願いします。
少し長いです!まぁ、章の転換点ということで。
次回は5月1日 18:00を予定しています。