表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/36

第8話 心の変化

「や、やめて!」

「君には悪いと思っているよ。でも仕方なかったんだ」


 ケヴィンの腕から逃れようとしても、強く抱き寄せられて逃げられない。エディーナは怖くなってきて、必死で体を捩ると、余計にケヴィンは力を強くした。


「ケヴィン! やめて!!」

「おたわむれが過ぎますよ、旦那様」


 背後で低い声がしたと思ったら、フィルがケヴィンの腕を掴んだ。エディーナをケヴィンから引き剥がし、背後に守るようにすると、ケヴィンを睨み付けた。


「な、なんだ、フィル……」

「お酒が過ぎたようですね。もうお休みになったらいかがですか?」

「……使用人風情が、私に意見するのか」


 聞いたことがないすごむようなケヴィンの低い声に、エディーナはビクリと体を揺らすと、フィルの袖を掴んだ。


「エディは俺の妻です」

「押し付けられただけだろうが」

「だとしても、あなたが触れていい訳じゃない」


 フィルの言葉にケヴィンは酷く顔を歪めたが、それ以上言い合うことはせず、足を踏み鳴らすようにその場を去って行った。

 ケヴィンの姿が見えなくなると、やっと安堵したエディーナは弱く息を吐いた。


「大丈夫か、エディ」

「う、うん……」

「部屋に戻ろう」


 まだ胸の動悸が治まらないエディーナは、コクコクと頷くとフィルと一緒に家に戻った。


「フィル、ありがとう……」

「いや……」


 自分の部屋のベッドに座り、やっと落ち着いたエディーナがフィルに声を掛けると、フィルは床に膝を突いた。


「もう大丈夫か?」

「うん、落ち着いた」

「旦那様は随分酒に酔っていたみたいだな……」


(人はお酒を飲むと本性が出るというけれど、あれがケヴィンの本性なのかしら……)


 今まで少しのお酒を一緒に飲むことはあっても、あれだけ酔った姿は見たことがなかった。だから驚いたし、少し怖いと感じた。


「エディ?」

「あ、ううん……。うちはお父様もあまり深酒をしないから、ちょっと驚いただけ」

「そうか……」


 フィルは静かに頷くと、少しだけ考えてからまた口を開いた。


「旦那様はまだエディのこと、諦められていないのかもしれないな……」

「そんなこと……」

「エディは……、いや、なんでもない」


 フィルは言葉を途切らせると、立ち上がりポンと頭に手を置く。


「疲れただろう? もう寝た方がいい」

「ええ、そうね……」


 子供にするように優しく頭を撫でたフィルは、微かに笑ってそう言うと部屋を出て行った。

 静かにドアが閉まり一人になったエディーナは、大きく息を吐いた。


(ケヴィンはまだ私を想ってくれているのかしら……)


 ミレイユにどこか素っ気ないのも、そういうことだったのだろうか。けれどエディーナはそれが嬉しいと感じていない自分に気付いていた。


(それならなぜお姉様との婚約をあんなにあっさり受けたのよ……)


 あのガーデンパーティーの日、両親やミレイユから何を言われたかは知らない。その時に、もし自分への気持ちがしっかりとあるのなら、断ってくれればよかったのだ。そうすればこんなおかしな状況になどならなかったのに。

 ケヴィンに抱き寄せられた時、嬉しさなんて微塵も感じなかった。一瞬で嫌悪感が身体に広がって、反射的に拒否していた。


(私は……、私はもう……ケヴィンのこと……)


 一緒に住めて嬉しいかと問われて、なんて酷いことを言うんだろうと思った。

 そこに誠実さの欠片もないように感じた。


「フィルがいてくれて良かった……」


 あの時、助けてくれなければ、どうなっていたか分からない。

 舞踏会でも気に掛けてくれて嬉しかった。

 エディーナはフィルの笑顔を思い出すと、笑みを浮かべた。嫌な気持ちが薄れていって、心が軽くなってくる。


「もう寝よう……」


 エディーナは溜め息混じりに呟き立ち上がると、のろのろと着替えを済ませベッドに入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ