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第29話 助け手

 燃え盛る火を見つめ動けずにいたエディーナだったが、間近にある火の熱さに顔を歪めた。


『エディ、ここはもうだめだ。逃げなくちゃ!』


 エディーナは言葉もなく首を振る。


「お姉様……っ……」

『エディ、立つんだ。ミレイユはもう……』


 ノクスの言葉に涙が溢れる。まだ何かできることがあるかもと思ったけれど、また天井が崩れてきてエディーナは慌てて立ち上がった。


『行こう! エディ!!』

「……うん」


 涙を飲んで頷くと、踵を返す。もう廊下はどこもかしこも火が見えている。かろうじて廊下の真ん中が歩ける程度だが、煙が酷く前へ進むには勇気がいった。


「火がもう……」

『まだ大丈夫だ! エディ、走って!!』

「う、うん!」


 励まし続けてくれるノクスにもう一度頷いてみせると、エディーナは勇気を出して走り出した。

 火の熱さを直接感じて顔を歪ませながらも、走り続ける。火や瓦礫が立ち塞がるたびに方向を変え、もはや自分が屋敷のどこにいるのかまったく分からなかった。

 それでもどうにかどこかの部屋に入り、外に向かう窓に近付こうとしたが、もうすべて火に包まれてしまっている。


「これじゃ出られない……」


 床から伸びた火は天井まで届いてしまっている。あの中に飛び込んで窓を開けることなどできそうにない。


「ど、どうしよう……」


 火の隙間からは外の景色が見えている。


(もうすぐそこが外なのに……)


 何か使えるものがないかと周囲を見渡すが、煙と火でもう何も見えない。入ってきたドアもすでに燃え始めていて、他の部屋に移動することもできそうにない。

 もうだめだと思った時、遠くで名前を呼ばれた気がした。


「フィル……?」


 まさかと思ったけれど、フィルの声が聞こえる気がする。


「フィル……、フィル! いるの!? フィル!!」

「エディ!!」


 はっきりと声が聞こえて、エディーナは目を見開くともう一度名前を呼んだ。

 その途端、火を飛び越えるようにフィルが走り込んできた。


「フィル!!」

「エディ!!」


 強い力で抱き締められても、まるで信じられなかった。フィルは洋服のあちこちを焦がしていて、顔も少し黒く汚れている。

 自分を必死で探してくれていたのだろう。


「良かった! 無事で!!」

「フィル、どうして!?」

「話は後で。ここから逃げなければ!」

「でも、火が!」


 フィルが飛び込んできた廊下も、もはや完全に火で塞がれてしまっている。

 フィルは険しい表情で周囲を見渡す。


「窓から出よう」

「どうやって!?」


 フィルはなぜかエディーナの髪にあった簪を抜くと、エディーナに持たせた。


「これが俺たちを守ってくれる」

「え……?」


 意味が分からず声を漏らすが、フィルはエディーナの肩を抱くと、窓に近付いていってしまう。


「フィル!?」

「ノクス! 窓を破壊しろ!!」


(ノクス!?)


 フィルが叫んだ瞬間、窓と壁が激しい音を立てて吹き飛んだ。


「キャッ!!」

「エディ! 行くぞ!!」


 フィルはそう言うと、エディーナの肩をぐっと掴み走り出す。

 訳の分からないエディーナだったが、それでも声に合わせて走り出す。火の熱さを頬に感じるが、不思議なことに火の粉も瓦礫も自分たちの上には落ちてこない。

 そのまま窓から外に出ると、少し離れたところで二人は足を止めた。

 エディーナはその場に座り込み、荒い呼吸のまま屋敷を見上げた。


「家が……」


 見上げた屋敷は、すでに3階の屋根までが燃え、もう所々が崩れ落ち始めている。すべての窓から火が上がり、何もかもを燃やし尽くそうとしていた。


「フィル……、お姉様は? お父様、お母様は?」

「エディ……」


 フィルは悲しげに表情を曇らせると、弱く首を振る。その様子にエディーナはゆっくりと両手で顔を覆った。


「そんな……っ……、どうして……こんなことに……」


 家族から解放されたいと思っていた。けれどこんな風な別れ方がしたかったんじゃない。ただ自由に生きたかっただけだったのに。

 どんなに辛く当たられても、家族は家族だ。18年間、ずっと一緒に暮らしてきた、かけがえのない家族だったのに。

 涙が溢れて止まらない。


「エディ……」

「生き残りがいるぞ!!」


 フィルが慰めるように抱き締めてくれると、ふいに庭の奥から男の声がした。

 助けがきてくれたとパッと顔を上げると、木々の間を走ってくる複数の人影があった。

 エディーナはこれでもしかしたら家族が助かるかもしれないと思ったけれど、フィルはなぜか慌てて立ち上がり腰の剣を引き抜いた。


「何者だ!?」

「お前たちを生かしておく訳にはいかない」


 二人を取り囲んだ6人の男たちは、ゆっくりと剣を引き抜く。


「な、なに……!?」

「エディ! 立つんだ!」


 フィルの怒鳴るような声に驚いて、エディーナは立ち上がろうとするが、上手く体に力が入らない。


「やれ!!」


 エディーナがもたもたしている内に、リーダーらしき男が声を上げると、全員が一斉に切りかかってきた。

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