第1話 姉に恋人を奪われて
新しいお話です! よろしくお願いします!
エディーナ・ユゴーの18年間の人生は、とにかく姉ミレイユの世話だけがすべてだった。自分が生まれる前、ミレイユが3歳の時にメイドに階段から落とされて以来、両親はメイドたちを信用することがなくなった。そうして妹として生まれたエディーナを、右半身が不自由になった姉の世話係とした。
両親は花のように可愛らしいミレイユを溺愛し、地味で平凡なエディーナはまるで使用人のように扱った。なぜ自分がミレイユの世話をしなければならないのか、ずっと疑問だった。けれど毎日する内にそんな疑問は消え、今では当たり前にミレイユの世話をする毎日を続けている。
(でももしかしたら、今日でその日々は終わるかもしれない……)
エディーナは期待に胸を膨らませて今日を迎えた。伯爵家恒例のガーデンパーティーは初夏の手前、過ごしやすいこの時期に毎年行われる行事で、周辺の貴族が数多く出席する。
家の中では使用人のような扱われ方をしているエディーナも、パーティーに出ている時は、伯爵令嬢として振る舞うことを許される。もちろんミレイユのサポートを一番にすることに変わりはないが、それでもほんの短い時間、ミレイユから離れパーティーを楽しめた。
そうして半年ほど前、エディーナは素晴らしい出会いを経験した。
(ケヴィンはもう来ているかしら……)
ミレイユが友人たちに囲まれて楽しくおしゃべりを始めて、少しだけそばを離れていいと言われたエディーナは、ケヴィンの姿を探して周囲を見回す。
すると男性たちが談笑する中に、ケヴィンの姿を見つけてエディーナは目を輝かせた。
「ケヴィン!」
「エディーナ。今日はお招きありがとう。すごい人だね」
ふんわりとした茶色の髪に、灰色の瞳がとても優しそうな印象のケヴィンは、笑ってそう言うと周囲に視線を移した。
昨年両親を事故で亡くし、21歳の若き公爵となったケヴィンは、今もっとも女性たちの中で噂される男性だが、その彼の心を射止めたのはエディーナだった。
半年前の舞踏会で偶然出会い、ケヴィンの方から交際を申し込んできたのだ。
「今年はいつもより少し多いかも。ね、今日はお父様に挨拶をしてくれるのよね?」
「伯爵はどこに?」
「あそこ」
ケヴィンが少し緊張した面持ちで視線を向ける先には、両親と車いすに乗ったミレイユがいる。
エディーナもケヴィンの緊張が移ったのか、突然胸がドキドキしてきた。
ケヴィンとの関係は両親には隠してきた。なんだか気恥ずかしかったし、ミレイユより先にそういう話をするのは叱られそうで怖かった。けれどケヴィンがそろそろ両親に挨拶し婚約しようと言ってくれたことで、やっと話す勇気が持てた。
(ケヴィンは公爵だし、きっとお父様もお母様も喜んでくれるわ)
ケヴィンが継いだ公爵家は3代前の国王の親戚で、その時に公爵の爵位を賜った由緒ある家だ。そんな人が自分と一緒になりたいと言ってくれることが、今でも奇跡のように感じる。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
二人並んで家族の元へ行くと、ミレイユと目が合った。美しい眉を歪めてこちらを見ている。
両親がこちらに気付くと、父は笑顔になった。
「君はエイムズ公爵ではないか」
「初めまして、ユゴー伯爵、伯爵夫人。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ああ。君の噂は聞いているよ。ご両親のことは大変だっただろうが、公爵としてこれから頑張っていきなさい」
「はい。あの、それで今日はお二人にお話があって……」
ケヴィンはそう言うと、ちらりとエディーナを見た。エディーナはその視線を受けて、ケヴィンの隣に並ぶ。
「なんだ、二人で……。まさか……」
「エディーナ……、あなたまさか……」
それまで黙っていた母が顔を顰めた。その顔を見てエディーナは一気に不安になったが、ケヴィンはそれには気付かず言葉を続けた。
「エディーナとの婚約をお許しいただきたく、今日は参りました」
「エディ!」
驚いた声を上げたのはミレイユだった。険しい顔でエディーナを睨み付けている。
「お、お姉様……」
「突然の話だな……。いつからそんな話に?」
「半年ほど前の舞踏会で初めて会ってからです。両親を亡くした私を、エディーナは優しく労わってくれました。とても慰められたのです。それで、妻にするのなら彼女だと」
ケヴィンの言葉に両親は顔を見合わせる。その顔は明らかに喜んでいるようには見えない。
エディーナは不安になって両手を握り締めた。
「話は分かった。もう少し詳しい話がしたい。ちょっと中へ行こうか」
「は、はい」
「ミレイユ、いらっしゃい」
なぜか母がミレイユを呼ぶ。家族でもう少し話し合うのかと思って、エディーナがミレイユの車いすを押そうとすると母がそれを止めた。
「エディーナはここにいなさい」
「え? でも……」
「いいから。ここにいなさい」
厳しい声でぴしゃりと母は言うと、ミレイユを連れて行ってしまう。ケヴィンも怪訝な顔をしながらも、父の後を追って歩いて行ってしまった。
ポツンと取り残されたエディーナは、屋敷の中へ入って行く4人を見つめて立ち尽くした。
(どういうこと……? なんでこんなこと……)
自分が想定していたものとはまったく違う展開になって、エディーナはとても動揺した。
怒られるとか、最悪反対されるとか、そういうことは考えていた。けれどケヴィンだけを連れて行って、何を話すのだろうか。
(嫌な予感がする……)
エディーナは胸に渦巻く不安を押し殺して、ただケヴィンが戻ってくるのを待つしかなかった。
そうして30分が過ぎた頃、4人が屋敷から出てきた。
「ケヴィン」
「皆様! 今日は皆様にとても嬉しい発表がございます!」
エディーナがケヴィンに走り寄ろうとすると、突然父が声を上げた。
談笑をしていた大勢の人が、話を止めて父に視線を送る。エディーナも足を止めて父を食い入るように見つめる。
「私の愛娘ミレイユと、ここにいるケヴィン・エイムズ公爵の婚約が決まりました!!」
「え……!?」
父の言葉に拍手と歓声が沸き上がる。
エディーナは父の言っている意味が分からず、呆然とケヴィンの顔を見つめた。
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