第13話 ヨーゼフ殿下の秘密
とりあえず、決めました。
向かいの椅子に高慢ちきな様子でおかけになっている第三王子殿下とクラシーナは無視し、ついでにお盛んな第五王子殿下も見なかったことにして、床に転がされている身動ぎ一つ出来ないであろう第二王子殿下のもとに駆け寄ります。
「大丈夫ですか? 殿下」
エルヴィン殿下の背中に触れた途端、ビリッと痺れるような不思議な感覚を感じました。
これは何らかの魔法……それもかなり、特殊なものです。
私の中に何かが入り込もうとしてくる嫌な感じを受けます。
でも、特に問題はありません。
軽い代償はあるもののいけます。
「立てますか?」
「ああ。何とかな」
エルヴィン殿下はようやく、立ち上がろうとしますが膝をつくのがやっとという感じでした。
まだ、辛そうな表情をされていて、お顔が赤いのが不思議です。
原因は除けたはずなのですが……。
「君の方から、来てくれるとは好都合……でもないか。私の計画は失敗したな」
カスペル殿下は不敵な面構えを崩すことなく、椅子から立ち上がりました。
あの雰囲気から察するに相当、自信がおありなのでしょう。
「ぐっ」
「この力は……」
エルヴィン殿下とクルトの顔には脂汗が浮かんでおり、どことなく苦しそうですし、指一本も動かせないようです。
ファン・ハール卿は声も出せない状況ですから、中々に油断出来ません。
動けるのはヨーゼフ殿下と私だけでしょうか?
「さすがだね。動けるとは驚いたよ。ミナ。ヨハンナ」
「まさか、兄上が魅了の力をお持ちとは知りませんでしたよ」
「ええ!?」
ヨハンナ? ヨーゼフではなく、ヨハンナ?
ギギギと首が妙な軋み音を上げて、ぎこちない動きをして右隣にいるヨーゼフ殿下を見るとヒラヒラと杖を持ってない方の手を振って、はにかむような笑顔を私に向けているではありませんか。
殿下は王子殿下ではなく、王女殿下だったんですね。
「しかし、だ。君達二人では私には勝てんよ」
でも、カスペル殿下の自信にはいさかかの揺らぎもないようでした。
相変わらず、不敵な笑みを浮かべ、邪な炎が宿った瞳が私に向けられているのです。
何でしょう……彼の自信は一体、どこから?
「クラシーナ。二人を捕まえろ」
「はい。ご主人様」
「反抗するようなら、多少の無理は構わん」
「心得ました」
腰に佩く細剣を抜き、こちらに向かってくるクラシーナの瞳にはなぜか、光が一切、感じられません。
まるで自分の意思がない操り人形のようです。
まさか、本当に操られているのかしら?
「ちょっとまずい状況だね」
「まずい割に殿下は慌てていませんね」
「まあね」
ヨーゼフ改めヨハンナ殿下はまだ、諦めていないんですね。
私もまだ、諦める訳にはいきません。
とにかく、ここは少しでも時間を稼いで……皆が動きやすいようにするべきかしら?