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少女騎士紀伝 誓いと赦しと兵士たちと  作者: 夕佐合
第二幕 悪魔狩りと再びの出会い
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第二幕 その1

 2ヶ月ほど前、宮廷伯爵へパトス・アマツ・ファイレードの一人娘が侯爵ジュピタ・ジュルティ・ファベイを殺害したらしい。

 らしい、というのは本来ならば即座に戦争すら起こりうるはずなのに、被害者のファベイ家は沈黙を貫き、邪神女帝ティウラ・アマツ・ユラシアを討った英雄にして、今上帝ホゥイ・テオゴニア・ユラシアもまた、この事件がなかったかのように振る舞ったからだ。

 真相のほどは、分からない。

 ある人は後継者が暗殺を頼んだとか、ある人はその一人娘に手を出そうとして返り討ちにあったとか、そもそも殺害すら起こってないとか、いや実は謀反を企んでたのを知った身内が暗殺しようとしたのを彼女に見られた、とか人それぞれに様々な説を述べ立てるが、噂の域は出ない。

 ただ、なにかあったことは確からしく、その娘を人々の視線を避けさせるかのように、皇帝は直々に、田舎の城伯へ彼女を預けた。

 その一人娘の名がユピテラ・アマツ・ファイレード。

「遅いわよ! 私の騎士!」

 今、十数人の兵士がひざまずく前で、えへんと胸を張っている少女である。

 ユピテラから騎士に任ぜられてから夜が一つ明け、日差しが暖かく差し込みだした朝の時分である。

 騎士とか言ってたけどねぇ、いやあの貴族様が復讐に来ないよな? しかし侯爵殺しね、などということをつらつらと考えつつ、ファスは、普段どおり朝食の粥ーー切ったイモと野菜をどろどろになるまで煮込んだもの。うっすい塩味ーーを食べていたのであるが、

「ふぁ、ファス! ちょっと来て!」

 息を切らせたトマスに呼ばれ、なんだなんだと中央の広場に来たら、こうしてユピテラが胸を張っていたわけだ。

「お待たせして申し訳ありません」

「ええとっても待ったわよ! 呼ばれたらすぐ来れるよう、寝る時も側に控えていなさいな! 城伯殿にも言っておかないと! あ、そうそう」

 少しばかりしかめっ面を作っていた顔は、まだ薄い朝日の下でもはっきり輝いてほころび、

「おはようファス! 今日もいい日ね!」

「おはようございます、団長」

 ……まぁなんだ、色々とあるのかもしれないが、単なる平民の自分には関係ないことだ。

 そう一人納得しつつ、とりあえず、ファスは周りに倣ってひざまずき、軽く兵士たちへ視線を巡らせておく。

 木の前当てや兜や小手をなんとか着込んだ不揃いな格好で、互いに視線をきょろきょろと見るからに不安げな様子。食事はいいのか肌の色艶はいいが、兵士というには些かぼんやりという印象。

 要は見るからに不慣れな新兵が集まってるわけだが、さて、どういう状況なのだろうか?

「城伯から兵をもらったの! 騎士団には兵士がいないと話にならないでしょう!?」

「そ、そうですね」

「それで最強の騎士団を作る第一歩として、こいつらを鍛えるの! ファスも協力しなさい!」

 そんなユピテラの宣言に合わせて、横目で確認していた兵士たちの顔は、予想はつくと思うが、

(ええ?)(全然聞いてないよ)(勘弁してくれ)

 という戸惑いと迷惑げな無言の声を、ひしひしと響かせてきた。

 まぁ先日、自分や仲間の兵士たちをボコった貴族のお嬢様から、いきなり集められて鍛えるだの騎士団の兵士だの言われては当然だろう。

「ふぁ、ファスぅ」

 トマスがやさ顔を情けなく真っ青にして、ユピテラに聞こえないくらいの、小さな震え声で名前を呼ぶ。

 ま、頼まれずとも、だ。

「というわけで訓練するわよ! まずは」

「ああその、訓練に関してですが、私に一案あるので、お聞き願えませんか」

「ん!? 言ってみなさい!?」

「兵士たちを半分に分け、私とユピテラ様でそれぞれ交代で教えるようにしませんか?」

「別にいいけど、なんでよ!?」

 昨日のファスと同じように新兵たちがボコられるのは忍びないから、とは口に出さない。代わりにえーと、それっぽいことをひねり出して曰く、

「兵士には2つの技能が必要です。それは個人の武芸と、集団での戦闘方法です」

「ああ、なんか陣形とか色々とあるって以前にあなた言ってたわね! 旗手が重要なんでしょ、確か!」

 そんなこと言ったっけ? まぁ主題ではないからいいか。

「よくご存知で。私は長年、傭兵をしておりまして集団の訓練について、多少ではありますが知っております。そこで、私が集団での動き方を教え、ユピテラ様が個々人の力を鍛えていただければ存じます」

 いや、そうじゃなくてちゃんと止めてよ、とでも言うような視線をトマスが横から向けてくるが、無視だ無視。もう兵士まで集めちまったもんをそう簡単に止められるかい。

 何、なるべく無事にすむよう考えはあるさ。

「ふーん、ま、いいんじゃない! 面白そうだし! 後で私にも教えなさい!」

「無論です。それと、団長が鍛錬をお教えする際は、ぜひこちらをお使いください」

 そう、ファスが腰に吊るした袋の一つから取り出したのは……。

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