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少女騎士紀伝 誓いと赦しと兵士たちと  作者: 夕佐合
第五幕 触手少女と異世界なダンジョン
43/46

第五幕 その17

 ーーそしてまたまた少し、時間が戻って、

 ファスは突如として転送されてきたゾンビたちに囲まれていた。

「やぁやぁ、お見事お見事。城壁破りだっけ? トマスちゃんが言ってたけど、有名人なの? そっちのバカは北方府出身の癖に知らなかったみたいだけど」

 親しげに話しかけてくるゾンビの声、湖のゾンビ軍団で聞いた声だ。ガコンっ、と右腕から攻城槍を外して地面に落としつつ、ファスは肩をすくめる。

「確かに北じゃちょっとした武功はあるが、平民傭兵の知名度なんて知れたもんだろ。トマスが誰に聞いたかしらねぇが、北の防人どもは冬は雪で暇だからってすぐ話を盛るもんよ」

「てめぇ死体女! 邪魔するんじゃねぇ! 俺はまだやれっが」

 胸を穿たれ倒れ伏していた優男の額へ、ファスの投げたナイフがこんっと軽い音と共に突き立った。そうすれば当然、胸を穿たれた癖にうるさく喚いていた男の声は止まり、二度と叫ぶことはできなくなった。

「おやおや、これはひどい。既に勝負はついてたというのに、哀れな」

「庇いもしなかったくせに何言ってやがる」

「邪魔をするな、と言われたのでね。これでも繊細だから、怒鳴られると萎縮してしまうのだよ。彼の死体も人形用に欲しかっしね。それに、彼女が、ふふふふふふ」

「何がそれにか分からんが、しおらしいふりするならせめて最後まで取り繕えよ、と!」

 一斉に飛びかかってきた2体のゾンビを、回り込むように避けつつ一体を蹴り倒す。すると、足元が腐ってやわかくなってたか、ゾンビはドミノを倒すように隣も巻き込んで倒れ、ボロボロと崩れていく。

「こんな腐らせ過ぎなもん、どっから出して来たんだよ。逆に珍しいぞ」

「死んだばかりだったりするんだけどね、これでも」

「……別の悪魔でもいるってのか?」

「どうだろうかね。なんであれ、今の君にはこれで十分でしょう?」

 ま、当たり前だが気づかれるわな。今のファスは、悪魔を止めた時よりはましにせよ、刻印の過剰励起のせいで体全体が痺れと痛みに包まれ、動くのも辛い状態なのだ。特に右手は攻城槍こそ外せたものの、もうまったく動かず筋が切れたかのようにだらんと垂れてしまっている。

(死霊術師がいるんだから、予想できた展開だろうに。後先考えられないとは。新米かよ俺は。魔力も足りねぇから頭痛がひでえし)

 フィルレと、何よりユピテラの惨状を見て、自分でもおかしいくらいプチンときてしまったからに。ちったぁ落ち着いたとは思ったが、やはりそう上手くはいかんよなとファスは自嘲せざるえない。

 さて、確認すればゾンビの数は8。いずれも人型で成人男性並、装備なし。普段なら脅威ではないが、さてどうするか、などと考えていたら、ゾンビたちは弾け飛んだ。

 触手だ。

「おっと、思ったよりお目覚めが早かったか」

 体を貫かれて吹き飛び、頭だけが近くに転がったゾンビがやれやれと呟く。足元から一斉に槍のように生えてきた触手によって、ゾンビたちは全て串刺しになって崩れ落ちてしまったのである。

「頼りになるやつで助かるよ、ジェニスタは」

 視線を向ければ、ジェニスタは頭を押さえて涙目のままだったが、手を伸ばしてゾンビたちをにらんでいた。

 と、同時に夜の闇に覆われ始めた荒野が、突如、蒼く染まるや否や暴風が吹きすさぶ。

「な、なんじゃい!? ナディ様か!? どんな魔法使ってるんだよ!?」

「……いや、あれは彼女ではなく竜甲冑、アイリス城伯様のドラゴンブレスだよ」

「竜甲冑って、噂のあれか! 暇だったら見れたんだがなぁっと!」

 ちぎれ転がっていた腕の幾つかが、蒼い光に紛れてファスと後ろのジェニスタたちへと飛んでいくのを鉄串で撃ち落とせば、うーんとゾンビはーーというよりゾンビを操ってる魔術師、というべきか?ーー苦笑する。

「もう少し油断してもいいと思うよ? せっかくの仕掛けをこうも簡単に対処されるとねぇ、盛り上がらないよ」

「うっさいわ。手抜きの仕掛けで何を企んでやがる」

「何って、そうだねぇ。よくぞ気づいたと驚けば悩んでくれる? それとももう打つ手なしだよムキーと悔しがったほうが怖いかい?」

 小馬鹿にする声音ももちろんだが、ゾンビの崩れた顔を仰々しい表情をわざわざ作ってくるのがとてもうざいしヘドが出る。

「ったく、はいはい。どっちも結構だよ。黙って去ね。それと亡骸で遊ぶな不心得者が」

「つれないなぁ。これから長い付き合いかもしれないのに」

「お前みたいのが敵でも味方でも困るっての。できれば二度と」

「エデリグ」

 ファスの拒絶へおっ被せるように、死霊術師は続ける。

「エデリグ・チャリャ・モート。以降、お見知りおきを」

「はぁ、ファスだよ。エデリグでモートで人形云々ってえと、てめぇもしかして人形作りかよ?」

 東の方だったか、人の死体で人形を作るのが趣味、というイカれた賞金首の名前と一致するはずだ。聞いた話によると、元々は貴族が不慮に死んだ場合などで、影武者や思い出としてその人形を作ったりする術師であったが、趣味が高じて生きた貴族の子女などに手をだし、だったか。

「ご明察。流石は歴戦の傭兵、詳しく知っててくれて嬉しいよ」

「気持ち悪いから知りたくもなかったけどな。てめぇの賞金額は小さな領主の税収並にクソ高いんだから、せいぜい依頼人に売られないようにな」

 ま、その程度の心配は聖人に説法の類ではあろうが、いやこいつは悪人だけど。

「ふふふふふ、違いない。君はどうなのかな?」

「傭兵に聖人がいるかよ」

「なら仲間ということで、君が腐って死ななければ、今後ともよろしく」

「ご忠告には感謝するが、今後なんてねぇし、勝手に仲間にすんな」

 とファスは断ったものの、既に元の死体に戻ったらしく、腐った元ゾンビの頭は答えることはなく、そのまま優男の死体も含めた他の死体ごと、闇に溶けるように消えてしまった。

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