第五幕 その14
ーー少し、時間は戻って、
「おい! 何やってんだよ!」
ルゥグゥは怒鳴り声を響かせる。
ジィーが鳴らした太鼓のお陰で、ユピテラたちの窮地に陥ってるのが分かったのだ。本来ならすぐさまにでも駆けつけないといけないところを、何故かファスは座り込み、背嚢から鈍色の金属で出来た何かの部品を取り出し、組み立て始めたのだ。
「フィルレもジェニスタもやべえし! ユピテラ様もあんなんぜってぇ保たねぇぞ!」
「分かってる」
「だったら早く助けねぇと!」
「俺は分かってるといったぞ、ルゥグゥ」
こんな時だというのに、いつもと変わらぬ淡々とした物言い。だが、その中に包まれた厳かな圧力に気づき、ルゥグゥはうっと言葉を詰まらせる。
その間にも手際よくファスは手を動かしていき、みるみるとよく分からないパーツたちは組み合わさり抱え筒、一抱えはある手持ち大砲らしきものが出来上がっていく。
大砲と明らかに違うのは、脇に置かれた砲弾は、球状の球ではなく、長い朱銀の鉄杭だということか。
「それ、まさか、攻城槍で、城壁崩し!? また見れるなんて!」
まるで伝説の武器でも見たかのように興奮するトマスへ、ルゥグゥは切れ長の目を寄せて問い質す。
「なんだそりゃ? なんか前にジィーが騎士さんから聞いたとか言ってような」
「うん、ファスの異名の一つ。この攻城槍の名前に因んだものだね。北の防人に謳われる赤雪戦役の栄光が一つ、かの悪名高き血と吹雪の君たる赤氷姫の、彼女を守護する鉄壁と言われた朱銀の城魔をを打ち貫いた徹甲擊。あるいは噂が本当ならナイ」
「オメェは誰に話を聞いてきたんだ、トマス。巨人の開拓者やホラ吹き男爵みたいな盛り方だぞ」
苦笑をしつつ、ファスは組み上がった鈍色の筒に、朱銀の鉄杭を押し込む。
「トマス、ユピテラ様とフィルレを任せる。俺の背嚢からマナポーションなり好きに使え。ルゥグゥは神族様を連れて退避。従者はいい。足も一応、忘れるなよ。最優先は城伯様への報告だ」
最後に組み立てた攻城槍をガチりと前腕に取り付けて、ファスはその取手を握った。