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少女騎士紀伝 誓いと赦しと兵士たちと  作者: 夕佐合
第五幕 触手少女と異世界なダンジョン
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第五幕 その8

 四方八方に伸ばされた触手が、コンクリートによる均整な部屋の天井や壁をたんたんたんっと意外と軽やかな音とともに貫いた。

 部屋の、そして触手の中心には当然、ジェニスタとフィルレ。フィルレがジェニスタと額を合わせながら、じっと目を閉じる一方、ジェニスタはボーとそれを眺めている。

 二人はそのままの姿勢で止まり、ただガリガリ、という何かを削る音が部屋中に響くも、それも少しの間、

「あ、ここつながってます! ナディ様!」

「分かりました!」

 ハッと目を開けたフィルレが上を指させば、隣りにいたナディは構えていた蒼剣をうならせて火球を飛ばす。火球は触手の間をぬって飛翔し、部屋を蒼く染めつつ天井へ直撃した。轟音、というよりもじゅっわっという石が溶ける音が一瞬聞こえ、そのまま火球は直進して天井を貫き、上階の部屋まで繋がる大穴をうがった。

「ふむ、問題なし。フィルレ、ジェニスタに皆を運ばせてください」

「了解です! ジェニスタ!」

 そうして開けた穴の先へ先行したナディの指示を受け、フィルレはジェニスタの触手を握る。すると、ジェニスタは四方八方に伸びていた触手を収め、事前に絡めていたファスたちとフィルレ全員を抱えて、上階への穴に触手をかけてシュルシュルと登っていく。

 ジェニスタがループ空間でやったように、触手で辺りを掘って天井や壁の向こうに部屋などの空間があるか探索する。そして空間があるなら先程の通り、ナディが穴を開けて通路を作る。これなら下手にこの地下遺跡を壊して土砂などを崩落させたりする危険を侵さず、大幅なショートカットが可能で、実際、非常に上手くいっている。

「うーん、便利ですごいわねぇ!」

 鈍色の金属のようで存外柔らかい触手に抱えられたユピテラのシンプルな感嘆は、ファスたち全員が共有するところだ。

 フィルレがちょっと恥ずかしそうに丸い頬をかきつつ、

「本当なら、穴を掘って外まで出れるといいんですけど」

「ジェニスタが調べたらかなり深かったんだろ。しゃーねーさ」

「兄貴の言う通りっすよ! あれ、こうしてどんどん上に行けるだけすごいっす!」

「そ、そう言っていただけると何よりです。えへへ、良かったね、ジェニスタ」

 ジィーとファスに両側から褒められたフィルレは、ジェニスタの頭をなでつつ自分の顔を隠すように顔を合わせる。ジェニスタの方は、やっぱりなんかボーとしてるが、フィルレに頭を撫でられ顔を寄せられたからか、うにうにと彼女へ頬ずりした。

「重い荷物ごとまとめて運んでくれるから楽できてるし、ほんとジェニスタはすごいよね」

「おめえはフィルレが大丈夫っつってんのに、ユピテラ様の肩みたいに潰されるかもしれないってピーピーうるさかったけどな」

 それはしょうがないでしょう、とトマスがやさ顔をふくれさせたのを、甲高い声だしてなぁ男だってんなら、と「ニタニタとからかい続けるルゥグゥだが、そうだ、とその鱗が生えた手を打てば、

「ユピテラ様よぉ、ジェニスタとフィルレもこの功績で騎士にしたらいいんじゃないっすか!?」

「いい考えじゃないルゥグゥ! 従士からいきなりになっちゃうけど、些細なことよね!  帰ったら城伯殿の前で宣誓しましょう! あ! どうせだったら叙任式ってのもやりたいわね! ファスとベルゼのもやってなかったし!」

「騎士って、え、え、え?」

 突然、湧き出た叙任話に、フィルレが驚くのも無理からぬ話、なのだが、何故か紅潮していた頬が真っ青になった。

 ユピテラも気づいて、

「ん!? 騎士にするのはまずかったかしら!? 何かこう、戦で知り合いが騎士に、とか!? だとしたら何か別の役職を」

「い、いえ、そうではなく、その、じぇ、ジェニスタが! ジェニスタが全部やってくれたことですから! わ、私はちょっとお願いしてるだけで! こ、この子の功を盗むような真似はできなくて! それで!」

「言いたいことは分かるけど、謙遜が過ぎると思うわ! だって私たち、誰もジェニスタへ頼むことが出来ないのだし! あなたの貢献はナディだって文句をつけないわよ!」

「なんで私を引き合いに出すのですか」

 そんな話をしているうちに上階までたどりついていて、仏頂面のナディが迎えてくれる。

「だってあなた、フィルレのことを何を企んでるだの何だの腐すじゃない!」

「どこの浮浪児かもわからぬ輩が、謎の剣から生まれた子どもを操れば怪しむのは当然でしょう。経歴の説明もどこまで本当かどうか」

「あなたね!」

「ただ、彼女に功績があるのは私も認めるところです、フィルレ」

 ナディはその謹直な表情は崩さなかったが、その高い背を屈ませ視線をフィルレに合わすと柔らかに、

「何があなたにあるかは知りません。ただ、少なくとも今はあなたのお陰で私もユピテラ様も助かっています。感謝を」

「っ! 私、私は!」

 そう叫んだフィルレだが、それ以上の言葉は続かず、ただ丸い灰色の瞳を濡らしてうつむいてしまった。

 どうしたもんか? ファスはトマスや他の兵士たちと顔を見合わせるが、全員互いにうーむと唸るばかりで、ほんとどうしたものだろうか?

「ま! フィルレが話したくなるまで待つしかないかしら! 敵地で悩んでるのもどうかと思うし! こういう時はなんていうんだっけ! なんとか上げよ、えーと、胴上げ!」

「……いや、胴上げしてどうするんすか、楽しい気分にはなるかもしれませんが、ってうお!」

 ファスがユピテラの無理に捻り出してくれたまとめに突っ込んだら、何故かジェニスタが触手で全員を持ち上げて上下させる。

「おいおい胴上げのつもりかよ! 実際にやらなくていいから! というか胴上げ分かるんだな!」

「おおおおおお!? おおおおおおおお!? 上下してるだけなのになんか楽しいわね! もっと速く出来な、おお!?」

 ユピテラの注文に応えて、ブンブンっと音がなるくらいのスピードで上下させ、て流石に危ねぇって!

「すごいわすごいわ! 流石ジェニスね!」

「ちょ、止めて! 止めてぇ!」

 ユピテラの歓声とトマスの悲鳴が黄色く響く中、フィルレも目を見開き呆気にとられ、

「あなたって子は、本当にもう! やり過ぎだよ!」

 そう笑うのだが、やはり瞳には涙がまだ溜まったままだった。

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