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少女騎士紀伝 誓いと赦しと兵士たちと  作者: 夕佐合
第四幕 ゾンビVS兵士たち
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第四幕 その6

 ーー少し時間は戻って、

「それで、どうするんだべか?」

「どうするもなにも、追うしかねぇだろうなぁ」

 皆が湖の前で所在なさげに佇む中で発された、マクの問いにファスはため息をつく。

 大爆発をしたため死体のゴーレムは既になく戦闘は終了、後はユピテラたちの帰還待ちなのだが、帰ってくるどころか音沙汰すらない。

「も、もう少し待ってみたら? ナディ様がお入りになられたんだし、きっと大丈夫だよ?」

 おっかなびっくりなトマスの言葉は、そうかもしれないし、そうじゃねぇかもしれない。

 それを確認しないといけない。

「そ、そうだけど、でも転移魔法陣があるって言っても、どこに繋がってるか、どうなってるか、何も全然分からないよ」

 トマスはチラチラとユピテラたちが消えた湖を見ながら述べる。一見すると何の変哲もない淀んだ水が広がってるだけで、魔法陣が仕掛けられているとは思えない。上手く隠匿されてるのか、覗いても水があるだけで、聞き耳を立てても何も聞こえない。

「ま、そういうのは行ってみてからのお楽しみさ。とりあえず俺が先行して大丈夫そうだったら合図するから、それで」

「っ!? 繋がった!? どうして!?」

「どうし、ました、か? フィルレ?」

 いきなりあがった声にベルゼが心配そうに問いかけ、ファスたちもなんだと視線を集中させると同時に、フィルレは走り出した。

「え、あ、おい!?」

 突如のことに誰も彼もが一歩も動けなかった結果、フィルレは勝手に湖に飛び込み、そのまま転移魔法陣とやらで消えてしまうのを見送ってしまうこととなった。

「ちょ、あれ! ベルゼさん! フィルレのやつ、あれ、どういうことっすか!?」

「わ、わかりま、せん! ど、どうしま、しょう!?」

「落ち着け落ち着け、なんかよく分かんねぇけどやるこたぁ変わらねぇよ」

 泡を食ったジィーとベルゼにそう声をかけ、ファスは指示を続ける。

「ちょっと賭けだが、俺とトマス、ルゥグゥで行ってくる。マク、後事を任すぞ。質問は?」

「了解だべっと」「う、うん、分かった」「たく、しゃーねーな!」

「あ、兄貴! あれ! 俺も! 俺も行きます!」

 うなずく3人の後ろでジィーがそう主張するが、ああっと、まぁいいか。

「分かった、来い。じゃあ行ってきますかねぇっと」

 ーーそうして、転送魔法陣があるらしい湖に飛び込んだわけだが、さて、どういう状況だ?

 なんか紫色にぼんやり光る少女がユピテラを尻にひいて、ええっと、ナディと対峙してて、こっちを、じゃなくてフィルレへと顔を向けている、のか?

 とりあえず、?マークしかファスたちの頭には浮かばないのだが、

「何を悠長な! 敵です! あの紫の女! ユピテラ様に攻撃して!」

「ち、違う! そ、そんなことするわけなくて!」

「違うことがあるか! 現にユピテラ様の腕を握りつぶしたのだぞ!」

「う、え、あ! そ、それはたぶん違くて!」

 ワンキャンやりだしたナディとフィルレを他所に、紫の少女はなんというか、ボーとしてる。腕を握りつぶしたとか言っていたが、敵意どころか意識があるかも怪しいのだが……。

 ふと気づくと、紫少女の下で手がパタパタとしている。ユピテラの腕で、どうやら手招きしているらしい。

「ん、じゃあ近づきますんで!」

「騎士ファス!」

 ナディの鋭い声へ片手をあげて制止しつつ、ファスは極力のんびりと歩く。

 紫に光るやたら胸の大きな少女は、それを特に無表情に、いや、どこか不思議そうに眺めている。数歩のところでニュルンと灰色の触手が動いたので、攻撃の意思なしと手を広げ両手をあげて更に歩調を緩めれば、それ以上の反応は特になかった。

「ええっと、どーも、こんにちは」

「……」

 そして傍らに立ったので、しゃがんで視線を合わせつつ挨拶してみるが、特に反応はない。ただじっとこちらを見つめている瞳は、柔らかな月光のような紫の輝きを発している。

 やはり邪悪さも悪意も感じないが、ううむ。

「言葉は分かるか? 分かんないか?」

「……」

「あーと、じゃあちょっとどいてくれないか? 下が潰れてるし」

「……」

 そうユピテラを指差してひょいっと動かすジェスチャーをすると、少女は小首を傾げたままだったが、触手どころか体をピクリとも動かさず、氷の上を滑る氷像のようにするりと平行移動してどいてくれた。

 ……魔術かなんかなのか? 謎だ。

「まぁいいか。で、大丈夫っすか? ユピテラ様?」

 下で踏まれたカエルみたいに潰れていたユピテラは、今まで見たこともないような顔色の悪さではあったが、わずかに微笑んで、

「大丈夫って、いいたいところ、だけど」

 ぐぅううう、と無表情だった紫の少女が仰け反るくらいの音がなった。

「何か、食べ物」

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