第四幕 その2
そして、そんなこんなでしばらくしばらく、木橋をずんちゃかずんちゃか渡り石畳で整った平らな道を歩いていく。
「ところでえーと、ダックだっけ!? あんたの村ってのはまだなのかしら!」
「だいたい四半時くらいかかりますかあの。何もねぇ村で恐縮ですが、おもてなしさせていただきますだべ」
案内の竜人はそうのんびり答える。格好的にはボロ布わら帽子といった作業着。靴だけはしっかりした作りの代物で、ピカピカと光る鱗がなかなか見事な一品。後で聞いたら家畜にしている陸トカゲの革だとか。
「あら! ありがとう! 流石に歩き疲れたからねー! あ、そういうの受けたら、下賜とかが必要なんだっけね! 何がいい!? 小刀とかで大丈夫かしら!?」
「いやいやいや、恐れ多いですだべ。それに城伯様の名代としていらっしゃってるんだべから、お気遣いなくても大丈夫ですだべ」
「そんなもんかしらね! それなら事件、はさっき聞いたから、ううん、こう! 力仕事とかあるかしら! 大工とかは出来ないけど! 力はすごくなったから邪魔な岩とかぶっ壊したり穴掘るのは得意よ、たぶん!」
「そ、そうだべなぁ」
とりあえず、なにか後々、無礼だなんだと難癖ついたら怖いから何もしてほしくないというのがありありと伝わってくるが、まぁ杞憂だし静観でよかろう。
湿った風がゆるりととどまる湿地帯を、どーんどーんとなかなかいい音を出し始めたジィーの鼓と共に、おいっちにーおいっちにーという屈託なく元気な掛け声が響く。平和だ。
などと思ったから影が刺したのかどうなのか。
「ん? 誰か来るわね!」
ユピテラの声に前を見やれば、空の荷馬車をパカパカゴロゴロ走らせる竜人が一人、格好はダックと似たようなものなので村人か?
「ダットじゃねぇか! 荷物も積まずどうしたんだべ!」
「ダック! それにそちらの騎士様も! た、大変、大変なんだべ!」
「落ち着け、何があった?」
「ま、魔物が! 魔物の群れが! こ、子供もいなくて!」
そんな竜人の必死の叫びとは裏腹に、沼地の水浮き芋はプカプカと平和に浮いているのだった。