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少女騎士紀伝 誓いと赦しと兵士たちと  作者: 夕佐合
第三幕 睨んでも分からないものは分からない
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第三幕 その4

「支部長殿!? いらっしゃいますか!?」

 重い石扉を叩き明け、アルマ・シュルティ・ジラス伯爵はこと更に甲高い声を張り上げる。

 それは、しっくいの塗られた石造りの大部屋がやたら広いということもあるが、理由としては副次的なものだ。

(相変わらず趣味が悪い!)

 巨大な金づくりの聖印。

 吹き抜けの天井の半分を超えて届き、壁一面を占拠するそれは、光は周囲から差す薄い窓明かりのみだというのに、ぎらぎらと輝いている。

 不快だ。

 本来は古帝国の皇帝が創地の五神より賜った、人々をあらゆる厄災から守る聖なる印を模したもの。しかし目の前にあるそれは、圧倒こそされるが荘厳さよりも成金的な悪趣味さをあえて誇示してるかのよう。

 神跡調査騎士団へと貸し出した建物であるし、内装や小物などにいちいち口出すほど暇ではないが、自分の館の一角にこんな代物を置かれるとは。

 その前でひざまずき、今ゆっくりと振り返る汚れ一つすらない白いロープの男、神蹟調査騎士団支部長スート・アマツ・メィティが、更にいけ好かない。

「これはこれは伯爵殿? 今日もご壮健で」

「ご壮健で! ではないでしょう!」

 フードの奥からのぞく、まるで鋳型にはめたような整いすぎた顔は、耳をつんざくような大音声でも、一切眉一つ動かない。

(相変わらず、なんなのですか、こいつは!)

 同じユラシアの民ではない、何か別の生き物と話しているのかのような感覚。神秘的で威厳がある、などと評価する家臣もいるが、ジラス伯にとっては気持ち悪さすら感じる。

「先日の五爵領での件! 既に領主会議で議題が提出されております! 何故、他の領主にバレるような真似を!」

「無論、全ては契約通りに」

「何が契約であると!」

「平和ボケした五爵たちも悪魔がいるとあれば、盟主の庇護が必要であることを思い出すでしょう」

「だがしかし! あの古トカゲはそれを治めた! これではますます五爵領の不心得者共を」

「皇帝陛下直々にお預かりになられた子女を、危険にさらしたことが無事に治めたといえるでしょうか?」

「それはっ!」

「それに、悪魔が現れ、魔族の蠢動がありうるという事実だけで、脆弱な子爵、城伯たちへ揺さぶりをかけるには十分かと存じます」

 慇懃に頭を下げる男に、ジラスは歯噛みをする。

 反論なんぞいくらでもある。だがしかし、思うように口が動かない。それは、彼女自身が口も頭も良い方ではないからと自覚はあるし、西方府とヘメライ大公の後ろ盾があるからというのもある。だがそれ以上に、目の前の男が淡々と迷いなく断言を下すからだ。

 あまりに揺るぎなく、大斧のように鋭く重い言葉。それは一本の筋を感じさせ、揺るぎない礼節がそれを補強する。

 ……それに頼もしさを感じてないといえば嘘になる。しかし、その言葉にあまりに迷いがない。

 その正しさは、一体どこから来ているというのだ。

 そんなジラスの疑念は、しかし傍から見ると意固地にしかみえないのか、少なくとも彼女に慌ててついてきた家臣たちは、

「うむ、さすがは聖蹟騎士団の一員」「ヘメライ大公がお認めになるだけはある」「やはりお嬢様、ここは支部長殿の言うとおりに」

 などとスートに感服いったかのような態度を取ったのを、ジラスがじろりと睨めばひっと息を飲んで一歩下がった。

 ふんっと鼻を鳴らす。 

「とにかく! 契約とそれに基づく計画を今一度、確認する必要があります! よろしいですね!」

「もちろん、伯爵殿がご納得いただけるまでご説明するのは私の義務でございます。それと幸い拠点はアイリス城伯にバレずに移せましたし、次の手に関しても説明いたしましょう」

 威圧的な高声にも一切、その礼儀は崩れず、ただその白衣のロープの下を、やはり丁寧に会釈させた。

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