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危機(バスト的な意味ではなく)

「お、重い……、ぜえ、ぜえ……」


 学校に遅刻した日の放課後。


 俺は両手に本の束を抱え、静かな廊下を歩いていた。周囲に他の生徒はいない。窓の外からは部活動に励んでる奴らが見える。暑い中ご苦労なこった。その点、帰宅部の俺は勝ち組だ。家に帰って、クーラーガンガンに効いた部屋でくつろいで、


「るはずなのに……、うがぁぁぁ!! なんで1人で大量の本を備品庫に運ばなきゃいけないんだッ!!」


 遅刻の罰とはいえ重すぎるだろ!!(重量的な意味でも!!)


 図書室の本の入れ替え作業とやらで、俺は居残りを課せられていた。夏の暑さがこもっている廊下を一体何往復したと思ってる!! あのクソ担任め……! 俺がへこんでる気持ちを切り替えて帰ろうとしたら、両肩をがっしり掴みやがって!! 


『頼みたいことがある、OKしてくれるだろ? 特に今日とかな?』


「ほんと今日は最悪な日だ!! なんて日だぁぁっ!!」


 廊下は暑いし、本は重いし、担任に遅刻で怒られるし、朝は猛ダッシュで学校行かにゃならんかったし、汗だくになるわ、朝飯を食えなかったわで、午前の授業中は疲れて寝落ち……、また先生に怒られるわで……、


「あ~くそ!! 腹立つ!! なんでこんな目にあわなきゃいけねぇんだよッ!!」


 誰が悪い? 怒った担任? いや、怒る原因を作った、俺…………、いや、違う!!

 

「ぜ・ん・ぶ!! 春奈のせいだっ!!」


 俺は、春奈に対して怒りをぶつけていた。だってそうだろ!? 春奈が、俺の夢に勝手に何度も出てくるからこんなことになったんだ!! 紳士的な精神の塊である俺を、あ、あの凶器おっぱいで脅してきやがって!!


『爽太ぁ〜♡』


 い、いくら夢とはいえ、超可愛い声で、俺のこと呼びながら、ぽよん、ぽよん、揺らすなっての!! しまいには俺の顔にギュッと押し付ける暴力まで振るいおってからにぃぃ!!


「け、けしからんっ! お、俺の安眠を奪うあ、あのバストが憎いっ!! うぐぐ……! ふふっ……、いいだろう、俺だって、男だっ!! また春奈が同じことしてきたら……」


  俺は紳士を捨てる!! 春奈のお、おっぱいを、も、揉んでやるっ!! い、嫌がるくらいにな!! ふははははっ!! まさに外道!! うりぃぃぃ!!


「ふふふっ、あはははっ!! 春奈の悲痛な顔が目に浮かぶぜっ!! あはははは……!! ははっ…………は、はあ〜…………」


 俺、何考えてんだ…………。


「アホなのか、俺は…………」


 たかが夢だろ……。春奈が出てくるくらいで、テンパって……。いやでも、あのふっくらバスト様を見せつけられると、無理なわけで……。


「俺は……、夢の中で、春奈にどうしてあげればいいのだろうか…………」


 ……、やっぱ揉むしかないか(夢の中で)。


「こ、困りますっ……!」


 はうっ!? 女子の声!? てか、心の声を聞かれた!? 


「嘘です!冗談です!通報しないで!お金いくらほしいですか!?!?」


 俺はテンパった。今までにないほどに。


 慌てながら周囲を見渡すと、


「あっ、あれ?」


 廊下には誰もいない? いやでも聞こえたぞ? 

 

 そう思ったときだった。


「えーなんで困るの? 手伝いあったほうが良いじゃん」

「そうそう、その方が早く終わるしさぁ」


 男子の声がした。廊下を真っ直ぐ行って、右に曲がったとこ。

 

 どくん。


 嫌に、鼓動が大きくなる。


 男子達のどこか嫌な含みのある声音に、


「ほ、ほんとに良いですからっ!」


 困っている女子の声。


 聞き慣れすぎた声音が、震えているように感じた。


「おいおい、嘘だろっ……!?」


 早足で廊下を進み、右手の角を曲がるとそこには―――、


 上級生の男子生徒2人に絡まれている、春奈の姿があった。

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