付録と男のロマン(バスト的に)
「付録を付けるのはどうですかねっ」
「付録?」
「はいっ」
結衣ちゃんはニコニコしながら、
「コスメ系の雑誌には可愛いポーチやメイクグッズ、アニメ系にはキャラの缶バッジやアクリルスタンドとか、それぞれに合った付録を付けてるじゃないですか」
「そうだね」
「ほしくなるような付録があったら、それを目当てについ買っちゃいません?」
「あー、確かに」
なるほど、つまり課題図書にもちょっとした付録で読書欲をさらに上げ、貸し出しを増やす作戦か。ベタだけど良いかもな。
「じゃあ、栞やブックカバーとかかな」
俺は無難な品をあげてみる。すると結衣ちゃんは、はぁー、っと小さくため息をついた。
「爽太先輩、そんなありきたり、つまらないですよ〜」
「むむっ」
ほほぅ、じゃあ結衣ちゃんは良い案があるんでしょうねぇ??
「ふっふっふっ、結衣には秘策があるのです」
「じゃあ聞かせてもらおうじゃないの」
結衣ちゃんは小さな胸を自信ありげに張った。
「作者やタイトルに関係したモノを付録にするんですっ」
「えっ?? な、なにそれ??」
結衣ちゃんは得意げに話を続ける。
「課題図書を選ぶとき、知っている作者さんやタイトルで決める人もいると思うんですよ」
「まあ確かにね、少しでも知ってる図書の方が取っ付きやすいし」
「ふっ、ふっ、ふっ。先輩、そこがポイントですよ。知っている作者さんやタイトルに関係した付録だったら、読書欲もさらに上がると思いません?」
「お〜、なるほど………」
俺は少し考えた。つまり、
「ヤングジャン◯やマガジ◯とかで、好きなグラビアアイドルの表紙や特集があったら絶対買う、俺の心理と似ているってことか」
読書欲はもうボインボインです。
「警察に通報したい最低な例えですっ!! で、でもそんな感じですかね………、あーもうっ! とりあえず、一つ一つの課題図書に関係した付録を考えていきますよ!!」
「「「おおっ〜」」」
パチパチパチパと、思わず3人で結衣ちゃんを拍手で讃えていた。春奈や穂花先輩、そして俺が期待で見守るなか、結衣ちゃんは声を張る。
「ではまず夏目漱石さんからいきます!」
課題図書の定番の人がきた!! 坊ちゃん団子、列車、猫と頭に浮かぶが、結衣ちゃんはどんな付録を!
「千円札!!」
「現金きたぁぁぁぁぁぁー‼︎‼︎ ってダメだよ!!結衣ちゃん!!」
俺は全力で止める。結衣ちゃんは口を尖らせ、
「むぅー、何でですか??」
「お金は付録の域を超えてるから!! 物品じゃないと!!」
「お金も物品の一つですよ」
「否定しづらい!!」
「千円札を付けたら全生徒が夏目漱石さんの課題図書を読みますよ」
「でしょうねっ!! あと壮絶なバトル・ロワイア◯が目に浮かぶ!!」
「あっ、それも課題図書に入れます? 役立ちそうですよ」
「付録に武器付けるつもり!?」
「はい、水鉄砲です」
「意外と安全! いや本とお札には致命的!! ぐちゃぐちゃに!!」
「そして気づくんです。自分たちは、醜くて愚かな人間、人間失格と………」
「全生徒が闇堕ち!? あとそれの付録がヤバそう!!」
お酒、薬物、女、ろくなものしか頭に出てこない!!
「人間失格はさすがにまずいので課題図書から省きます」
「おー、良かった………」
「代わりに、学問のすすめ、を読んでもらいます、見識を深め平和な世に」
「逆だよ結衣ちゃん!! 付録の一万円札をめぐってさらに激しいバトル・ロワイ◯ルが繰り広げられるから!!」
図書室で水の掛け合い大合戦! 本とお札はもちろん、全生徒の衣服も無事ではあるまい。
ん?
俺の高性能な脳が急に熱をおび稼働を始めた。
夏、水鉄砲、制服、そして、女子。すけすけ………、なんてこった。
「結衣さんや」
「は、はい??」
「採用しよう」
「えっ! 良いんですか!!」
「ただし、女子限定として」
「なぜです!?」
「男のロマンがあるから」
「よ、良くわからないですっ!!」
「あと付録にスクール水着を追加しよう」
「より分からないです!! いりますかそれ!?」
「男のロマンのために絶対にいる!! ビキニもさらに追加しよう! いかん!! そうなると全女子生徒のバストサイズを調べないと! まずは春奈! 教えて!」
「な・ん・で、急にエッチな方向に持っていくのよッ!!」
「あだっ!?!?」
春奈にハードカバーの本で頭をしばかれた。ほんと痛い! 本だけに。
「付録は先生と色々相談しなきゃだし、結衣ちゃんには悪いけど、実現は無理かも」
「そ、そうですか」
春奈の言葉に、結衣ちゃんは静かに口を閉じた。まあ、用意するのに時間とお金がかかりすぎるからなぁ。あと男のロマンも残念。
「穂花さんは、何か良い案ありますかね?」
俺は話が途切れないように、次は穂花先輩に聞いてみる。すると穂花先輩は、人差し指であごに軽く触れながら思案し、ふわっと微笑む。
「じゃあ、私の案なんだけど」
と、楽しげに口を開いた。




