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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちょっと珍しいレースエッセイ集

こんな寒い日は思いきって氷上レースの世界を覗いてみないか?



 こんばんは、若しくはおはようございます。私は珍しいモータースポーツレースを気紛れにご紹介している、稲村某で御座います。


 毎日寒いですね。皆さんの御住まいの場所は雪は降りますか? んん、降らない? そりゃ良かった。雪が降れば車は走り難いし電車は停まる、ろくな事は有りません。ええ、その通り。


 でもまぁ、それでも雪の降った休みの朝。思いきって外に出て雪と戯れてみるのも一興かと……案外楽しい事もありますって。そう、たまにはウィンタースポーツと洒落込んでみるのも宜しいかと思います。


 ……しかし、そうは言っても雪道は滑ります。車で遠出もなかなか難しいかもしれません。でも、日本より雪が良く降る国も沢山御座いまして、各々の国では各々の独特な雪の楽しみ方を模索しているのも、また事実で御座います。


 例えばフランスでは、四輪ではラリー格式の中に【アンドロス・ラリー】というレースが有るんですが、その規格はやや常軌を逸しておりまして……




 ……1990年代。ラリーを開催していく中で、雪に閉ざされる冬にレースが行えない事は、運営側から見ても利益損失が生じる訳ですが、


 【レース? いや雪道でもラリーが出来るんだったら、開催してみない?】


 と誰が言ったかは判らんが、実際にやってみた結果は……あらまぁビックリ大盛況! 雪の積もった道の両端に人が列を連ねる中、スリリングなレースをラリーカー(当時は一定の販売数が有ればアホみたいなチート車で競技可能なクラスが有った)が横滑りしながら繰り広げ、人気となったのです。


 それから競技は幾度かルールが改定され、出場車両も更に過激になり、雪上レース専用車(パイプで組み上げられた車体にV63リッターのエンジン!+ハリボテみたいなボディ載せただけ!!)が350馬力も振り絞ったりと、様変わり。そして現在はEV車が走るようになったそうです。


 まあ、それは確かに非日常ではあります。実際に動画を見れば、それなりに迫力ある光景ではあります……が。





 ぬるい。ぬるいんですよ、ええ。稲村某の脳内じゃ、こんなモンじゃないんです。確かに馬力や速度的な数字は凄いかもしれないが、本当の【スリル】はそんなもんじゃない。更に上がある筈だと思いながら、色々と探していたら……ありました。コッチが本命だと言えます。






 ……旧ソビエト連邦時代から、ロシアでも凍った路面で競技するレースは盛んに行われてきました。が、ロシアのアイスレースは一味も二味も違う!!


 まず、バイクでやる。いや、そりゃあ身体を保護するボディが無いからスリリングでしょ? と言われれば確かにそうなんだが、問題はその走り方です。


 レース会場は、オーバルコース(学校の校庭と同じ楕円形)をグルグル回るだけのシンプルな構成ですが、乗るバイクの形状は最新の構造とは違い、少々旧さを感じさせるオールドタイプ。しかし、そのタイヤにはビッシリと(スパイク)が付けられています。いや、勿論前記したアンドロス・ラリーの車両のタイヤにも鋲は有りますが、それがバイクのタイヤに付いているのです。雪を固く締めて作られた路面で展開されるレースでは、互いに身体がぶつかるかどうかの超接戦が当たり前。当然、転倒もすればスリップして滑走してしまうのもザラ……





 ……つまり、何台も巻き込むような接触が発生すれば、鋲がビッシリ生えたタイヤが転倒したライダー目掛けて……っ!? ひえええぇ!! おっかねぇ!!!



 勿論、少しでも接触による負傷を軽減させる為、前後のタイヤにはほぼ全体を覆うカバーは付いていますが、逆に野暮ったい見た目の上、路面に接する箇所は開いている。その隙間から2センチ程の画ビョウのような鋲が飛び出しているのだから……ねぇ?


 当然ですが、そうした接触を想定してライダーはプロテクターを装着していますが、そうは言っても……危険な事に変わりは有りません。




 ……では、何故にそんなレースが開催されるのでしょうか? そして危険が付き物のレースに何故、観客が惹かれるのか?




 ーーーーーー ー ー




 留学先の街から少し離れた郊外で催されるレースを見に行こう、とサーシャに誘われた時、私は余り気乗りはしなかった。


 そもそもロシア語を会得する留学なんて、別れたクソ男と1キロでも離れたかった為だし、留学先をロシアにしたのも単純に学費が安かったから。ただ、それだけ。


 それでも現地の食べ物は好みに近かったし、一番早く仲良くなれたサーシャは、女の私から見ても信じられない程の可愛らしさ以外、気兼ねせず付き合える子だ。けれどそんなサーシャはロシア語のクセが強く、未だ良く判らない。


 それでも白夜の薄明かりの下、サーシャと二人でバスに揺られながら目的地に辿り着き、屋台のホットワインを買って飲んでみたり、ケバブを二人で一本買って齧ったりしながらはしゃぎつつ、レース会場に着いたのだけど……




 【Эй Эй! Этот игрок не красавчик!?(ほらほら! あの選手イケメンじゃない!?)】


 サーシャに手を引かれながら会場に入り、笑顔で手を振るレーサー達を見ても、いまいちピンと来ない私をそっちのけで彼女ははしゃぐ。それとサーシャのロシア語は、今いち判らない。私は曖昧に笑いながら、そうだねと頷いた。




 そんな私を余所に、レースが始まる。まず、何のレースか全く判ってないけれど、バイクが一斉に走り出したから、きっとそうだ……えっ? ちょっと待って……真っ白な雪の上を真っ直ぐ走って、ホントに曲がれるのっ!?


 私達が見ている客席目掛け、爆音と共に近付くバイク! 幾ら透明樹脂製の板が防壁の上にも立ってたって、滑って勢い良く飛んで来たら防げる訳ないって!! ぎゃあああぁーーっ!!



 ……目を開けるより早く、爆音が遠退きながら離れて行き、自分もサーシャも無事だと理解した。でも、直ぐにまた爆音が近付いて来る!


 っ!? あ、ああ……今度は見てられた。でも……ウソでしょ? バイク、殆ど横倒しのまんま飛んでくみたいに滑って……走っていくなんて。


 聞けば、タイヤにスパイクが付いてるらしく、ガリガリと滑りながらでも平気で走れるみたい。横で見ていたオジサンが教えてくれたけど、サーシャ以上に訛りが凄くて半分位しか判らない。たぶん、だけど。


 でも、油断してたら一台のバイクが転倒して、私達の方にふっ飛んで目の前の壁にバイクとレーサーが叩き付けられた時は、本当に大きな音がした。……あれ? さっきまでの恐ろしさは何処にいったんだろう。


 私の横でサーシャが笑いながらレーサーに何か叫び、何杯目か判らないワインが無くなる。私も負けじとどさくさ紛れにクソ野郎死ねと叫びながらバンザイし、横のオジサンにハイタッチ。何だか私も楽しくなってきた。



 ……危ない筈の氷の上を、スパイクを付けたバイクが一斉に走っていく。それを観客が総立ちになりながら歓声を上げて眺め、盛り上がる。みんなの熱気が湯気になり、氷点下のレース会場の上に靄になっていく。


 ああ、こうやってみんなで何かで大騒ぎしてく内に、ストレス発散してるのかな、ロシアの人達は。


 ……帰る頃になって、クソ野郎の事はもう忘れてた。どうでもいいんだよね、良く考えれば。私は私だし。



 帰りにサーシャがロシア語で、ちょっと難しい言い回しをしてきた。たぶん長さの好みみたいな事を尋ねてきたようだったので、ケバブだと思い【もう少し短いのを一人で食べたい】と言うと、サーシャが爆笑した……違うの?


 (※注・サーシャは男性の好みを尋ねた)





 危険と隣り合わせのレース。それを見に行く観客。常軌を逸した乗り物を平然と乗りこなすレーサー達が、氷点下の会場を沸かす。


 前日の内にローラー車で踏み締めて、更に水を撒いて固めたアイスバーン上を、二輪四輪を問わず、命知らずの選手が駆け抜ける。


 何故、そんな事をするか。何故、そんな物を観るか。理由は単純だ。


 ……危険な事は、興奮するんだよ。観る方も、やる方も。






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[良い点] おもしろかったです、物語仕立てだと、それまでの説明が画として思い浮かんでいいですね! 所変わればいろいろなスポーツがあるんだなあ 雪国住みですが、2センチのスパイクタイヤというのはさすがに…
[良い点] アンドロス・トロフィーって2輪も走るんですね! 知らなかった! クレイジー過ぎる!
[良い点] そんなレースがあるなんて! 面白かったです! [一言] 最後のはロシアンジョークですかい!? やはり面白かったです!
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