入学試験 4
「二人してそんな顔して言わないでよ……なんだか僕が変な者みたいじゃないか……」
「そりゃそうでしょ? ここへ来るのにはまず女神様に会う、ここでの目的を聞く。それから色々されるのよ」
「俺もそうだったぜ。俺なんて歳を20も落とされた。それにこの嘘を見分ける力、戦う力なんてほぼ無いようなもんよ」
サムズアップして白い歯を見せ笑う。クミは完全無視で話を続ける。
「私のユニークスキルは……って、今は教えないでおくわ。このあと殺り合うかもしれないんだし」
「殺り合うって、そこまで怖いことしないよ」
「バカね。ここの試験では毎年死人が出てるの。それくらいまでやらされる、逆に言えば、それぐらいじゃないと冒険者は務まらない。違くて?」
「それもそうだが……」
クミの話の通り、この試験では三つの試験がある。まず初めに適性試験、次に戦闘試験、最後に面接だ。適性試験は、戦闘試験前に行われる。そこで適性が出なければ帰宅だ。
次に戦闘試験、この試験が審査の八割りを占めているといってもいい。ここでダメなら落とされる。稀に敗者も面接へ通されるが、ほんのわずかだ。
「ヤック、アンタのユニークスキルはなんなのよ?」
「お前が言わないのにヤックが教えるわけ無いだろ?」
「分かってるわよ、聞いただけ。それで、ユニークスキルはいいけどあんたは何年歳を戻されたの?」
「いや、戻されたと言うより生まれ変わった? の方が正しいかな。目が覚めたら赤ん坊だった。それから七年生きてるよ」
「え? それ本当?」
クミもカイトも同じ疑問を持ったのか、同じ顔をしている。八雲からしたら、自分と同じような育ち方をしたと思っているため、八雲もまた疑問に思う。
「貴方もしかして、前の世界で……その……殺されちゃったの?」
クミが少し申し訳なさそうに尋ねる。カイトも、何も言わないが少し申し訳なさそうにしている。だが、八雲は何も躊躇わず答える。
「そうだよ。コンビニで殺された〜」
アハハと笑いながら答えると、クミとカイトが頭を下げる。
「ごめん、転生者はみんな自殺で来てると思ってたの。それであんな態度取っちゃった」
「俺も悪かった」
「いやいや、二人とも顔を上げて! 別に殺された人なんてそこら辺にいるから! ね?」
二人は顔を上げる。先程までの堂々としていた顔が今ではしょんぼりした顔になっている。それは嫌だと思った八雲は、二人と手を繋ぐ。
「ここで会ったのも何かの縁だよ! これからは友達同士仲良く笑顔で行こ!」
「そう……ね! よろしくね、ヤック!」
「ヤック、お前ってやつは……よろしくな!」
それから三人は、自分の番号が呼ばれるまで仲良く会話をした。前の世界での事や、ここへ来てやらなければならないこと。ここへ来てどう思ったか。その中で、こんな話題が盛り上がった。
「そういえばクミは、ここの世界に来る時に女神様にさ、『ある人を探せ』って言われなかった?」
「あ、私も言われたわ。でも、抽象的過ぎるわよね。どんな人物なのかくらい教えてくれても良いのにね」
「確かにな。ヤック、お前知らないか?」
「ごめん、僕はそんな話すら聞いてないや」
「本当変わってるわよね、貴方……自殺じゃ無かったとしてもそれくらいは女神様も教えたっていいのに」
「もしかして、ヤックがその『ある人』だったりしてな?」
カイトは笑いながら冗談を言う。八雲は、そんなことは絶対にないと「ありえないよ」と返す。きっと、それは勇者とか英雄だとか、そう言った人達のことを指すのだろう。八雲は、そう決めつけた。
それから時間は経ち、初めにクミが呼ばれた。適性試験は無事合格し戦闘試験も合格。続いてカイトも合格。そして、八雲の出番が来る。
「526番、こちらへ」
「はい!」
返事をして少しの緊張感の中案内人の後ろへ着いていく。長い廊下を歩く音だけが聞こえてくる。
クミもカイトも合格したのか……僕も頑張らないと!
「まずは適性検査だ。この水晶に手をかざせ」
「はい」
言われたままに水晶に手をかざす。すると、透明だった水晶が青色に変化する。
「合格、次は戦闘試験だ。ルールは極簡単、倒すか倒されるかだ。剣は木剣を使用する。魔法あり、時間無制限だ。この試験は多くのギャラリーに見られているから、それなりの覚悟はしておけ。準備が出来たら行くといい」
「分かりました、ありがとうございます」
「頑張って」
そして八雲は、木剣を持ち装備を整え、戦闘試験会場へ入場する。薄暗かった廊下の先に、真っ白い世界が待っている。あそこへ行けば戦闘試験が開始される。八雲は、自分の頬を二回叩く。
「良し!」
廊下を進むにつれ歓声の様なものが聞こえてくる。多くのギャラリーが待ち受けるその場所へと、八雲は足を進める。
そして会場に出ると、さらに一際大きな歓声が飛び交った。
「僕の相手は……え?」
そこには、対戦相手となるはずの人はおらず、待ち受けていたのは体長二メートルは超える大きさのオオカミがいるのだった。