入学試験 3
「痛たたた……もう、なんなのよ急いでるのに!!」
「ご、ごめんなさい!」
「何よ、ガキじゃない」
ガキとはなんだガキとは。これでもれっきとした二十代だぞ!!
そんな思いとは裏腹に「ほんとにごめんなさい」と謝り倒す。お互い様なのはわかるが、相手も謝ってこないとなるとなんだか嫌な気分になる。
「いいわ、別に。私急いでるの、じゃあね」
同じくらいの年齢の少女は、そのまま謝りもせずにスタスタと消え去っていった。何だったのかと数秒間考えるが、試験の事を思い出して走り出す。
無事受験番号を持ち帰り、試験に間に合った八雲だったが、結局忘れ物をして取りに帰っていたことをグリーにバレてしまい、ゲンコツを食らった。頭がかち割れんばかりの勢いだったが、そのせいか緊張が吹っ飛んで行った。
「それでは、試験を受けられる方はこちらへお願いしまーす!」
受付員の人達が呼び掛けを始め、八雲もそれを聞き動き出す。すると、グリーが肩に手を置きこう言う。
「頑張ってこい、ヤック」
「うん!」
八雲は笑顔でその場を立ち去る。試験会場へ向かうヤックの背中を見つめるグリーの瞳は、とても心配そうな瞳をしていた。
「受験番号順に呼ばれますので、それまではこの待機室にいてください」
案内された場所はとても広い待機所。施設もかなり整っており、受験番号を呼ばれるまでの間、あまり退屈せずに済みそうだ。
「僕の番号は……526番か……かなり多いなぁ……」
同い年の子供達が千人はいる中、526番だとかなり待たなければならなそうだ。八雲は短いため息を着いた後、待機室を少しだけ歩いて回る。
「あら、貴方はさっきぶつかって来た失礼なガキじゃない」
突然を声をかけられその方を向くと、そこには先程ぶつかった少女が立っていた。少女の割にはカッチリとした体格に、顔も整っている。更に、頭髪も金髪とかなり目立つ。
「やぁ、また会ってね」
「あんたもここに受験?」
「そうだよ。僕はヤック、よろしくね」
「ええ、よろしく。私はクミよ」
「日本人ぽい名前だね。転生者なの?」
「ええそうよ。貴方も?」
「うん、確か今年で二十五歳かな? 見た目は七歳だけど」
「私と同い年じゃない! あんたはここに来る時どんな罰を受けたの?」
「罰?」
「ええ、罰よ。私は年齢を五歳にまで落とされて、弱いユニークスキルを与えられただけなのだけれど……貴方は?」
「僕は……」
ここで言葉が詰まる。全く意味のわからない状況にこれを言ってしまっていいのかと、ふと疑問が湧いた。年齢を戻されたとは何なのか。
八雲は、ここに来る時そんな年齢を戻すなんて話は一切あがらず、ただ目が覚めたら捨てられていたのだ。その為、彼女が言ってる事の理解が出来ないのだ。
「ほら、勿体ぶらず言いなさいよ!」
急かされた八雲は、焦らずクミに質問する。
「その前に聞きたいんだけど、年齢を戻されたって何?」
「はぁ? あんたここに来た時に女神様にあってそう言われたでしょ?」
「女神……様?」
「そうよ。自殺でここへ無理矢理転生をした代償として、年齢と使い物にならないユニークスキルを渡されるの、覚えてないの?」
「覚えてないも何も、僕はそんな話聞いてないし、ましてや女神様にあったことなんて無い」
その話を聞いて、クミは口を開けて呆れた顔をしている。
「あんたね……皆同じ条件でここへ来てるの。そんな嘘は通用しないわよ?」
「って言っても……僕は本当に何も……」
「もう、白々しいわね! いい加減吐きなさい!」
クミがビンタをしようと大きく手をふりかぶる。八雲は、それを咄嗟に躱そうとするが、八雲とクミの間に、一人の男の子が割り込んでくる。
「まぁまぁ、喧嘩はよそうや、兄弟」
「誰が兄弟よ! あんた誰!」
「おっと、自己紹介が送れたね。俺はカイト、同じ転生者だよ。話は聞いてたけど、手を出さなくてもいいんじゃない?」
クミは、おおきく振りかぶった手をなくなく引っ込める。だが、顔はまだ怒っている。最近の若い女の子は分からないと、八雲は親身に感じた。
「さて、話を戻すけど、君が女神様に会ってないって本当かい? えっと……名前なんだっけ?」
「ヤックだよ。話は本当だよ。僕は女神様になんて会っていない。信じてくれよ!」
「正直信じ難いが、嘘は言って無さそうなんだよね〜」
「なんでわかるのよ?」
「まぁそういう能力だから、ユニークスキル『嘘の見分け』これで嘘か本当かわかるってわけ」
「あっそ……なら別にいいわ。でも、女神様に本当に会ってない人間なんているんだね」
「本当だよ、俺も初めて聞いた」
「女神様に会ってないと、それはダメなことなの?」
クミとカイトは、二人合わせて顔を見合わせる。そして二人息を揃えたかのように「「当たり前でしょ?」」と言う。