入学試験 2
長時間の待機の末、ようやっと受付を終えた二人は、クレアシオンを離れ商店街の方へと足を進めていた。
「ヤック、受付番号は無くすなよ? それ無くしたら明日入れないからな?」
「うん、大丈夫だよ」
前の世界とこことの世界を合わせて二十と五年、そんな凡ミスをするほど僕だってアホではない。忘れ物など絶対にしない!!
それからぶらりと商店街を歩き、装備一式を新調して動きやすい格好になったヤックは、少しばかり馴染ませたいと、商店街からは少し離れた訓練所へと足を運んだ。
「ヤック、準備はいいかー?」
「ちょっと待ってー!」
まだ買ったばかりで硬いところが多々あり、攻撃を防ぐための構造上それは仕方ない。だが、前に使ったグリーの子供の頃の物のお下がりはとても使いやすかった。見た目はボロだがかなり、付けている感じはとても良かった。
「おい、グリーとチビがなんか決闘しようとしてるぞ!」
「え!? まじか!?」
そんな声にギャラリーが集まってきて、八雲は少しばかり緊張する。
「いい機会だ、こういう雰囲気にも慣れておけ。試験は更に緊張するからな。いい勉強だ」
「わ、わかった……それじゃあ始めよう」
グリーと八雲は木剣を構える。構えは同じ。睨み合い、息を読み、すり足で動く。距離は詰めず、一定の距離を保ちながら。
「ヤック、緊張しすぎだ、動きが硬いぞ!」
「う、うるさい!」
八雲は少し油断した。その隙を付いてグリーは地面を蹴り距離を詰める。気後れした八雲は体の重心が少し後ろに下がる。
「しまっ……!」
気づいた時には目の前にグリーが剣を振り上げていた。何とかしなければと、八雲は後ろに倒れるだけの体を強引に動かしバク転をする。グリーの剣は八雲の足をギリギリの所を掠める。
「お、やるなぁヤック」
「危なかった……次はこっちの番!」
「来い!」
それから一時間ほどみっちり体を動かした。新調したばかりの装備は傷だらけになったが、少しは体に馴染んだ。
今は体に付着した砂埃や汗を流すため、訓練所内にあるシャワー室で体を流している。グリーにやられた所がとても痛む。だが、それもまた良いなと八雲は思った。
それから身支度を終え訓練所の外へ出ると、そこには先程のグリーとの戦いを見ていたギャラリー達が、こぞってグリーの周りに集まっていた。
「グリーさん、貴方っていつから子供がいたんですか!?」
「グリー様、あの子は誰なの!? アーシャ様との子供ですか!?」
グリーが質問攻めされていた。流石のグリーも、少し疲れた顔をしていた。質問にも一切返さず「まぁな」の一言で済ませている。
「これは僕は行かない方がいいかな……」
八雲はこっそり逃げようとした所、グリーに見つかり視線を向けられる。振り向いて見てみると、何逃げようとしてんだと言いたそうな目でこちらを見ている。
八雲は、バイバイと口パクで言い手を振って走って逃げる。
「ごめん父さん! 許して!」
「誰が許すかコノヤロウ」
「えっ!?」
流石にビックリして声が裏がえる。さっきまで人に囲まれていたグリーが横に並んで走っているのだから。
八雲は急ブレーキをかけて止まり、ポカーンとした顔でグリーを見つめる。グリーの額に、血管が少しだけ浮き出ている。キレている。
「ヤック。お前だけは助けてくれると思ったのに……逃げるなんてなぁ……?」
「いやほら、ね? 子供にはアレはきついかなって。ね?」
「中身は大人だろ? 帰ったら叩きのめしてやるから覚悟しろ?」
ああ、終わった。そしてその日はコテンパンにしごかれた。アーシャも、ニッコリとした顔で「ガンバって」と言ってくれるだけだった。
そして翌日。八雲は、身体中痛みが走り最悪のコンディションの中、試験へ向けて準備をしている所だった。
「よし、装備は整ったし、受験番号は持ったし、良し!」
「準備出来たか、ヤック?」
「出来たよ!」
八雲は、痛みなんか忘れて玄関へ向かい、靴を履き意気揚々にドアを開けた。そして八雲は、玄関に受験番号を忘れたのである。
それに気づいたのは、クレアシオンに着く手前での事だった。あれだけ忘れないと意気込んだのにも関わらず忘れた。とても焦る。
こんなことはグリーに言えないし……走って取りいけばまだ間に合うか!?
ヤックは、グリーに「トイレ」とだけ言って全速力で受験番号を取りに帰る。人混みの中を、まるで風のように走り抜ける。
「ヤバいヤバいヤバい!」
「まずいわまずいわ!」
狭い抜け道を全速力で駆け抜け、抜け道から出ようとしたその直後、正面から一人の少女が駆け込んでくる。
「「え?」」
そして二人は、正面衝突する。




