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入学試験

「こ、ここは!?」


「ここがこの国の最大都市セントラル。多くの冒険者、商人、一般人が住み出入りする最高の都市だ」


「すごい……」


 通る人の大半は冒険者の格好をした人達だ。その中に大きな荷物を運ぶ商人らしき人達もいる。最大都市と言われるだけの事はあるなと、八雲は感心した。


「まだ入学手続きが済んでないから、少し出るぞヤック」


「わかった」


 八雲はこの世界に来て初めての場所に、少しだけ緊張する。グリーとアーシャ以外の人間とは一人も会わずに生活してきたため、上手く人と話せるかが心配になる。


 それに気づいたのか、アーシャはヤックの肩にそっと手を当て、優しく「大丈夫だよ。あんたならね」と声をかけてくれた。それだけで、緊張が解れた気がする。


「よし、ヤック行くぞ!」


 八雲はゴクリと唾を飲み込み、一歩外へと足を踏み出す。人の多さに少し酔いそうにもなるが、そこはぐっと堪えてグリーの後ろを着いて行く。


 グリーが人混みの真ん中を通る度、チラホラと「あれはグリーじゃないか?」「嘘だろ? グリーがなんでこんな所に?」「後ろのチビは誰だ?」と、グリーの事ばかりを呟く声が聞こえてきた。


 中には、グリーに近寄り「グリー様のファンです! 握手をお願いします!」という熱烈な女の子とファンもいた。グリーは笑いもせず、優しく手を握り「ありがとう」と答える。


 普段のグリーからは到底考えられない行動に、八雲は困惑する。


「と、父さん、なんでこんな有名なの……?」


「ん? まぁ、何だ。お前には言ってなかったけど、俺は冒険者の中でもかなり上のランクにいてな。昔にこの都市をアーシャと救ってからこんな事になっちまってな」


 冒険者ランクとは、成人(又は冒険者教育学校卒業)し、冒険者ギルドに登録された冒険者に与えられる、FからSSまでのランクのことを言う。ランクは日々の任務や依頼のクリア数や成果によって格付けされる。


 ランクは上がれば滅多な事がない限り降格はされない。実力があればあるほどランクは高く、強さはランクを見れは一目瞭然なのだ。弱い冒険者が低ランク帯にいる、という事はまずない。


「そんなにすごい人だったなんて……もっと早く教えてくれれば良かったのに……視線が集まって恥ずかしい……」


「そう背を丸めるな。弱く見えちまうぞ! ここはお前と同じような転生者も数多くいる。舐められたらそれこそ恥ずかしいぞ?」


「そ、それもそうか……」


 そう言えばそうか。僕はここへ来て初めての転生者に出会うんだ。皆どんな見た目で前世はどんな人だったのか、ちょっと気になるなー。


 八雲は自分以外の日本人に出会えるのが少し楽しみになる。学校にも、自分と同じような人はいるのだろうか。


 と言っても、二十代半ばになって学校に行くのも何だかなと少しだけ思いもするが、これは座学だけの学校とは違って冒険者教育機関である。そこを踏まえれば、全くの別物だ。多少の覚悟は必要になってくる。


「もう着くぞ、ヤック。堂々としてろよ」


「うん」


 人混みの合間を縫うように歩き、次第に人混みの奥に一際大きな建物が見えてくる。そこには、自分と同じくらいの背丈の人間が大勢集まっており、一回り大きい人も一緒に並んでいた。


「ここが冒険者教育機関、通称『クレアシオン』だ。ここが冒険者の始まりの場所。ここに冒険者になる為の全てが詰まってる。覚悟は出来てるか?」


 八雲は改めて確認する。新しい人生が始まったのだと。前世とは全く違った、実力者が食っていけるこの世界。八雲は、ぎゅっと拳を握りしめた後、グリーの目を見て深く頷く。


「よし。行くか!」


 グリーと八雲は、クレアシオンの受付前の長蛇の列に並ぶ。周りを見ると、皆親子で来ている。中には一人でいる子供もいる。そして皆、冒険者の格好をしている。少しだけ対抗意識が芽生え始める。


 列に並んでいると、グリーの元に二人の親子が近寄ってくる。大人の男性と子供の女の子。どちらも、グリーを見て目を輝かせている。


「あ、あのもしかして、グリー様でいらっしゃいますか?」


「ん? そうだが?」


「私たち家族皆でグリー様のファンなんですよ! グリー様のご活躍をこの目で見れたらと何度思ったことか……」


「いや何。大したことはしていないよ。あなた方も入学を?」


「はい! 今ちょうど受付を終えて帰るとこだったのです!」


「そうだったのか。お互い頑張りましょう」


「ありがとうございます! ほら、エレナも挨拶を!」


「よ、よろしくお願いします!」


 緊張しているのか、声が震えている。そんな女の子に、グリーは腰を下ろして目線を合わせる。


「お互い、入学出来るように頑張ろうな」


 グリーの優しい笑顔が、エレナの緊張を解す。エレナはニッコリと笑顔で「うん!」と答え、二人は去っていった。


「かっこいいじゃん」


「まぁな」


 二人は、そっとグータッチをした。

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