英雄に憧れて
僕は小さい頃から英雄だとかヒーローだとか、そういう物にとてもなってみたかった。前の世界ではそんな事を口にしたことは無い。でも、心の中でいつも思っていた。英雄になってみたいと。
強い者が悪者を退治するのがとてもかっこよかった。小学生の時は英雄になる事ですと作文を読んだこともあった。ただ、僕はあまり運動に向いた体では無かった。
少し残念だと思いながらも、それでも少しは努力した。走り込んだり、筋トレしてみたり。だが、結果はあまりいいとは言えなかった。
そんな僕に、ここに来て初めてであったアーシャは、英雄になりなさいと言ってくれた。今はまだ赤ん坊ではあるが、僕は頑張ろうと思った。アーシャの期待に応えるためにも。
時は経ち、八雲は七歳になった。あの後、結局カゴの中からは何も見つからず、その時は名前は分からなかった。ただ、八雲には八雲という名前があった為それを喋るようになってから、二人に教えた。二人はとても嬉しそうだった
喋るようになるまでは、坊ちゃんと呼ばれていたから僕は僕で恥ずかしさが消えてよかった。
僕が転生者だと言うことは二人には伝えた。転生者を嫌う二人に受け入れられるのか不安だった。それを聞いた時、二人は驚いた顔をしていた。だが、二人は僕を笑顔で受け入れてくれた。
家族その物のような気がした。とても暖かかった。この二人は僕の自慢の父と母だ。本当の父と母では無いけれどね。
四歳になると、僕の事が転生者だと分かっていたから、グリーが僕に剣を握らせて稽古を付けてくれた。最初は木の剣から始めた。ろくに振り方なんて知らなかったから、僕はグリーにコテンパンにされた。
だが、特訓を重ねる事に筋力や体力が増し、ある程度は形になった。だが、やはりグリーからは一本も取ることが出来なかった。
そんな稽古のある日、グリーは聞いてきた。
「ヤクモ、お前にはユニークスキルは無いのか?」
「ユニークスキル?」
「そう。ここに来る転生者はみんな持ってるとか言っててな。実際見たものもいるらしい。お前にはあるのか?」
「そう言われても……どうやって確認したらいいのかわからない」
「そうか……俺が聞いた話では、転生者みんなして『オープン』って呟いていたらしいんだが、関係あるか?」
「やって見る。『オープン』」
そう唱えると、八雲の目の前に小さな画面のようなものが出現する。手で触れたり動かしたりできるようで、色々な項目が並んでいる。
「出てきた! えっと……あった、ステータス。これだな……」
そこにはこう書かれている。
名前……ヤック Lv.3
力……12
防御……8
敏捷……12
知能……5
技術……8
スキル……無し
保有ポイント……10
ユニークスキル……レベルシステム。愛される者。
「僕にもあるよ、ユニークスキル。ええっと、レベルシステムってやつと、愛される者ってやつ。これは良い物なのかな?」
「俺に聞かれても分からねぇよ。まぁでも、あるのならそれを上手く活用すれば強くなれるんじゃないのか?」
「わかった、上手く使ってみる。っていうかそれより、僕の名前はどうやらヤックって名前みたい。昔のあだ名と一緒だ」
「ヤックか! 呼びやすくていいな! 俺もこれからそう呼ぶかな!」
「なんか恥ずかしいな……」
「照れるなバカ!」
グリーと八雲は大きな声で笑い合う。とても暖かい時間が流れた。そして七歳になった今、初めてのモンスターとの実践だ。
「今日は七歳になってそろそろ狩りを覚える年頃だからな。モンスターを狩りに行く」
「モンスターか……」
少しだけ緊張して手が震える。初めての経験で何も分からない為、色々な想像をしてしまう。だが、グリーはそっと肩に手を当てて「大丈夫」と声をかけてくれた。
その言葉を聞くと、自然と震えが止まった。アーシャも後ろから頭をさすってくれた。見た目は七歳だが実際だと二十代半ばだ。さすがに照れくさかった。けれどちょっぴり嬉しくもあった。
「さぁ、行っといで!」
アーシャは力強く背中を教えくれた。それが勇気に変わったような気がした。
初めての狩りにはグリーが同行してくれる。だが、モンスターと接的して戦うのは八雲一人だ。緊急時のみグリーが助ける手筈になっている。
住んでいる所が森ということもあり、付近にはモンスターもそれなりにいるそうだ。住処に襲ってこないのはアーシャの魔法防御壁のおかげらしい。僕の義父と義母はどうやらすごい人のようだ。
家を離れてから十五分、グリーの歩みが止まり剣を構える。
「ヤック、気をつけろ。いるぞ」
「わかった」
八雲も武器を構えて周りに気を配る。ガサガサと近くで音がする。数は二つ。大きな音ではないから大型のモンスターではない。
様々な特徴から八雲は相手を分析する。そして、その二つの音は更に大きくなり、モンスターは姿を現す。
人生初めてのモンスターは、二匹のゴブリンだった。