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英雄のお話

 あの後、夫は何も無かったと家に帰宅したそうだ。僕は何も知らない。寝ていたから。ただ、変な夢を見た。全く知らない顔の女性に撫でられる夢を。


 その女性は僕の事をこう呼んだ。


「ヤック」


 それは高校の友達から呼ばれた名前であった。もしそいつが女性になりかわり出てきたのだとしたら最悪だ。気持ち悪くなりそう。


 その人物が誰なのか、それは分からないまま八雲は目を覚ました。外は青く澄んだ空が広がり、小鳥が鳴いている。


「あら、起きたの。おはよう」


「おう起きたか! ……そーいや、こいつの名前は何だ?」


「確かに分からないねぇ……何かわかるものがあるか、昨日のカゴの中を調べてみよう」


「俺らの事もこの子に教えなきゃな! 俺はグリー、そんで嫁はアーシャだ!」


「……ん!」


「この子、今喋った……?」


 全力の返事がこれだとこの先が思いやられる。そう思いながらも反応すると、グリーとアーシャは大喜びしながら覗いてくる。


「そのまま坊主の名前を言っちまえ!」


「バカかいあんたは!? そんな事出来る赤ん坊がいてたまるかい!」


「いや、でも噂にはいるって聞いたしよ……」


「それはもう異世界人か魔族かのどちからさね! 私は嫌いだよどっちも。突然現れて英雄扱いされて。そうしたら上からもの言ってきて……」


「まぁそう言うな。あんな力見せられちゃどうにもな……」


「……ん、ん!」


 その話がどうしても気になる。同じ転生者としてこの先会うことになるかもしれない。だから今は情報が欲しいのだ。


「ん? 何だい坊や。……あぁ、もしかして英雄の話を聞きたいのかい?」


 違うと思いながらも否定が出来ないためどうにもならない。アーシャは席を立つと、本棚に置かれていた一つの大きな絵本を取り出したのだった。


「これはね、本物の英雄様が主人公の絵本でね。私はこの絵本が好きなのよ」


 アーシャは、ページをめくり話し始める。


 昔、ある所に一人の冒険者がいました。彼はとても勇敢で、恐怖に負けず挑む姿は誰しもが憧れました。強敵を倒し、村を守り、時には村の復興を手伝い。彼はとても人気者でした。


 彼の願いは世界が平和になり、皆が一つとなって楽しく暮らすことでした。そんな日々を送るために、彼は努力と訓練を続けました。


 そんなある日、彼の元に一通の手紙が届きました。その内容は、魔王を倒して欲しいというものでした。ですが、魔王は本来勇者が倒すもの。普通の冒険者に来るような手紙ではありませんでした。


 ですが、主人公は魔王を倒そうと決意しました。皆からはやめた方がいい、そう言われました。でも主人公は意志を曲げず、戦うことにしたのです。


 仲間を集めようと大きな都市へ行き、呼びかけました。ですが、誰も魔王を倒そうと言う者はおりません。


 もう諦めて、一人で何とかしようと思ったところに、一人の商人がやってきました。


『こんにちは、勇敢な戦士よ。これから魔王を倒しに行くんだろ? それならこれを持って行った方がいい』


 そう言って小さな瓶に入った薬を貰いました。そしてその商人はどこかへ旅立って行きました。


 主人公は、長い月日を掛けて魔王の元へと向かい、時には辞めようと思った時もありました。ですが、主人公はめげずに魔王の元へと向かいました。


 そして、主人公は魔王の元へとたどり着いたのです。


『よくぞ来たな、英雄よ。ここに来た事を褒めたたえ、ここで殺してやろう』


 魔王は、とても強かったのです。今の主人公では太刀打ち出来ないほどに強かったのです。


 ですが、主人公は今までの努力と才能で魔王に反撃をしました。ですが、魔王の力はもっと強かったのです。


『英雄よ、これで最後だ!』


 最後の攻撃をしようとした魔王に、やられそうな主人公でしたが、ある時貰った薬を思い出しました。主人公は、それを急いで飲み干すと、今まで戦ってきた傷が治ったのです。


『な、なんだその力は!?』


 魔王は、段々と強くなる主人公の力の前に恐怖しました。主人公は、溢れ出す力を使い、魔王を倒したのです。


 これでようやく、この世界が平和になる。主人公の願いは果たされたのです。そして主人公は、力尽き天へと旅立って行ったのでした。


「おしまい」


 なんとも悲しいお話だった。人のために努力を続け、魔王を倒した結果、最後に力尽きてしまっては悲しすぎる。だけれど、八雲はそんな英雄に憧れた。かっこいいと思った。


「悲しいお話だろ? なんで天に旅立ったのかは書かれていないんだ。私の解釈はね、きっと薬をくれた商人が神様で、魔王倒す力を与える代わりにお前はこっちへ来いと。こっちで皆を見守れと、そう言って薬を渡して主人公は倒れてしまったのだと思うのだよ」


 何故そこが描かれなかったのか、未だにその真相はわかっていないのだと言う。八雲もアーシャと同じで、その解釈が正しいのだと思った。


「お前も、こんなかっこいい英雄みたいになっておくれよ」


 アーシャは笑顔で八雲の頭を撫でるのだった。

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