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どうやら捨てられたらしい

 ここは何処だろう。寒い。とても寒い。雨が降っている。大きな粒が僕を打ち付ける。喋れない、動こうにも動けない。手は動かせ……って、あれ!? 手が小さい!?


 転生して赤ん坊になった八雲は、目が覚めると土砂降りの雨の中の道端に置き去りにされていた。人が通りそうな気配は無く、カゴの中に入って毛布で包まれた状態では身動きも出来ない。


 ここはどこなんだ!? 僕は死んだんじゃ無かったのか!?


 思い返してみるもやはり死んだ記憶が最後であとの事が分からない。だが少ししてもう一つ思い出す。死後の世界があるという話。


 まさか、ここが死後の世界って奴!? 本当にあるなんて……っていうか、寒い!


 気温はとても低い。毛布があるからと言って、雨で濡れて冷えきっていてはなんの意味もない。寧ろ逆効果だ。


 どうしてこんな所に置いていかれてるんだ!! 誰か通りかからないのか!?


 必死に願うも叶わず、誰一人として通ることは無い。


 やばい、かなり冷えて意識が遠のいて来た……赤子の体でこの寒さはちとキツイ! 何とかならないのか!?


 転生して一時間もしないうちに二度目の人生を終わらせるなんてとんだ笑い話だ。どうしてこんなところに転生させたのか、神様に聞いてみたいものだ。


 クソっ! ここは異世界なんだろ!? 魔法の一つや二つくらい発動しやがれこの野郎!


 そう思って両手を空に掲げた直後、両手の甲に小さな模様が浮かび上がる。その模様は様々な色に変化している。


 これは……ええい、この際だから何でもいいからこの雨を何とかしてくれぇ!


 そう願った途端、両手の平から丸いオーブの様な物が空へと飛んでいき、直ぐに消えてしまった。


 何だよ! 今の魔法とかじゃないのかよ!? クソッタレ! 異世界転生したら最強とかそういう設定にしとけよ……! やばい……急に眠気が……もう、死ぬのか……はぁ。


 八雲は意識を失った。何かを起こそうと頑張った結果がこれじゃ最悪だと思いながら。


 一人の冒険者が土砂降りの雨の中歩いていると、突然見えたオーブの様な明るい球体が現れ、それは一瞬で消え、その直後に土砂降りの雨が止み雲が晴れて、日差しが出てきたのだ。


 そのオーブが見えた場所へ近寄ると、意識を失った状態の赤ん坊が居たのだ。辺りには何も無く、オーブが発生するような物も人も何も無い。


『雨が……この子が何かをしてから直ぐだ、まさかな……そんな事が有り得るわけが無い……』


 その冒険者はその子を抱き抱え、来た道を戻って行った。


 目が覚めると、視線の先には木でできた天井が見えた。とても暖かく心地よい。先程まで外にいたのに、次はどこか建物の中。何が何だかさっぱりだ。


「お、目を覚ましたな坊主」


「貴方、坊主じゃないでしょ? 全く、これだから男の人は……」


「良いじゃねぇか小せぇことは! ほら坊主、飯だ!」


「そんなもの赤ん坊に食べさせるバカがどこに居ますか!?」


 賑やかな場所だ。死ぬ前の世界の母さんや父さんみたいで懐かしい。


「あら、貴方。この子笑ってるわ! とても可愛いわ〜」


「おお、これが食いてぇんだな? よしよし待ってろよ〜」


「あ、な、た? それを食べさせようとしたらその腕切り落とすわよ?」


 そう言われると、男は直ぐに手を引っ込めた。どうやらこの人は奥さんの尻に敷かれてるらしい。


「でも、どうして捨てられてたのでしょう……それにこの子の模様……」


「ああ、これはかなり厄介なことになるかもしれねぇな。だがな……」


「分かってる。この子は私達で育てるのよ。将来有望なこの子をね」


 将来有望? 厄介? 話が掴めない。僕が厄介って事? これは生まれて初日から大変な事になりそうだな……。


 八雲は転生初日からとんだ災難にあって精神的に疲弊した。その後も二人の会話を聞きづけた。他愛ない会話が八雲には嬉しかった。拾ってくれたのがこの人達で良かったと、そう思った。


 それから数時間後、辺りはすっかり暗くなった。風が少し出ていて、木のドアを風が叩きつける。


「風が出てきたわね」


「ああ、ちょっと嫌な風だな」


「ええ。一応結界は貼ってはいるのだけれど、念の為見てきてもらえる?」


「分かった」


 そう言うと夫は椅子から立ち上がり、奥の部屋へと行ってしまった。暫くして戻ってくると、ガッチリとした装備をして登場した。


「それじゃ、行ってくる」


「気をつけてね、貴方」


 ニコッと笑い、夫は外へと旅立った。扉が空いた時、隙間から流れ込んできた風は、震えるような寒さだった。


「坊やも、あの人の無事を祈ってね」


 優しく撫でられたのは何年ぶりだろうか。その手は細くてとても冷えている。だが不思議と暖かい気持ちになる。そしてその暖かさは眠気を誘い、瞬く間に眠りについた。


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