いつものように・・・
早朝七時、少しずつ電車を待つ人が増えだすいつもの駅。
一人の少女が電車を待ち、ホームに立っていた。
少女は思う、(退屈だ)と。
少女はこの普通の生活、普通の人生にどこかつまらなささを感じていた。
いつものように起床し、いつものように朝食を食べ、いつものように身支度を済ませ、いつものように家をでて、いつものように電車を待ち、いつものように学校へ向かう。
いつもいつも同じことの繰り返し。
逆に考えればそれは幸せなことなのかも知れない。
変化がないというのは安定しているとも言えるのだ。
平和に過ぎていく生活、それも一つの幸運なのだろう。
だが、少女にとってはこの生活、いや人生は退屈そのものであった。
(どうしてみんな毎日同じように過ごせるのだろうか?私には窮屈で退屈で、なんだか苦しい・・・)
少女は常にそう考えていた。
そしていつも想像する。
漫画のようにアニメのように、とんでもないことがおきないかと。
(異世界転移に異世界転生。楽しそうだなあ。まあ、そんなわけないけどね)
そんなことを考えている内に、いつものように通過電車がホームに入ってくる。
この電車が過ぎた後、少女が乗る電車が来るのである。
いつものように進み、白線の後ろに立った。
また今日も同じように通過電車を見送り、次の電車に乗り一日が始まる。
そう思っていた。
ふと隣にいた女性に目がいく。
綺麗な女性だった。
(こんなに綺麗な女性なら、毎日楽しいんだろうな。私は・・・比べるだけ無駄だよね)
自分と女性の容姿を天秤にかけ、心の中で自傷した。
プアーン!と音がなり、電車が駅を通過しようとしたその時だった。
少女の目に、線路へと飛び込む女性が映り込む。
(え・・・・・・)
それは一瞬の出来事だった。
女性の体は弾け、紅い花を咲かせた。
近くにいた少女はそれを全身に浴びることとなった。
(・・・・・・)
不思議なことに少女は落ち着いていた。
周りからは悲鳴が飛び交い、電車のブレーキ音が響き渡るこの状況で。
それどころか少女は高揚していた、この状況に。
(普通が壊れた・・・壊れた?ああ、そうか壊せばいいんだ!)
少女は恐ろしく、妖しい笑みを浮かべるのであった。
飛び込み事故から数日が経った駅。
凄惨な現場となったホームは、電車を待つ人達をはじめとし、いつもの光景を取り戻していた。
そしてその人達の中に、あの少女がいた。
少女はいつものように起床し、いつものように朝食を食べ、いつものように身支度を済ませ、いつものように家をでて、いつものようにこの駅のホームに来た。
しかし、いつもと違い少女は白線の後ろに立っていない。
少女が立っていたのは、白線の後ろに立つ、名前も顔も知らない誰かの後ろだった。
いつものように駅に通過電車がやってくる。
そして警笛と共にホームを通過しようとする。
少女は・・・動いた。
ドン!!と、知らない誰かの背中を押した。
電車が迫りくる線路へと突き落とす。
それは弾け、吹き飛び、砕け、紅い花を咲かせた。そう、先日の女性と同じように。
(これ、これだよこれ。この花が見たかったんだ)
あの時と同じ笑みを浮かべた少女がそこにはいた。
そして深紅に染まった少女はしゃべりだす・・・
「咲いた♪咲いた♪綺麗な花が咲いたよ!!あははははははははははははははははははは」
朝のいつもの駅のホーム、紅く染まった風景と、悲鳴と笑い声がいつまでも続くのであった。