師弟〜更なる飛躍へ〜(真上に飛び上がったので一歩も進んでません)
「…へえ、そんな人がねえ。困ったなあ。」
「へい!そこの神妙なにーちゃん!どんな悩みも吹き飛ぶくらいの奴が見つかったぜ!」
「いや、同い年だからね?…で、その子がその同類?」
「いや此奴は大した奴だよ本当。今一番欲しい奴だよ本当!」
「へえー。その子をどうするの?」
「取り敢えず研究部屋で談笑に花を咲かそうと思ってるよ。」
「ねえー。大丈夫ー?無理矢理連れてこられた、とかじゃないー?知らないおじさんにはついて言っちゃ駄目だよー?」
誰が知らないおっさんじゃ!と言うか信用ねぇな!
(『おじさん嫉妬しちゃう!』とかきもい事言ってたのにー?あと信用は、まぁ、ドーリだからねぇー?)
うぐ!!
「あ?え?いや、ごめんなさい?」
「今度から気をつけようねー?」
「有難うございます」
「分かれば良いんだよー。それで、何について話すってー?」
「知識共有したいと思ってますよ!数字の謎とか言葉とか、珍しい現象とか、神とか魔法とかについて一杯話してみたいです!折角理解者と出逢えた訳ですから!」
(…純粋な子を騙して拉致するなんて、こんな子に育てた覚えはありませんよー?)
(誤解だし貴女に育てられた憶えも有りません!)
(小学生の時から衣食住の面倒見ていてもー?)
うぐぐ!
(あれ?でもそうすると、貴家は全員私に育てられているのではー?寧ろ、私が大家主ー?)
グハァ!
梨花が旅行行った時にカロリーメイトと水だけで終末的な生活をしていた記憶が蘇る…なんであれは五本入りなんだ?お陰で家の中で小銃(自作)を振り回す羽目になったぞ!戦争だったぞ!
…滅茶怒られました。警察怖い。梨花にも怒られました。梨花恐すぎる。あれなんだろ?…魔王…かな?
俺らの家族のヒエラルキーの最上位は梨花であると、心に刻まれた屈辱でもあった。屈辱とか言える余裕ないぐらい怖かったけど…魔神…かな?
「急に吐血したけど大丈夫ですか⁉︎やっぱり迷惑でしたか⁉︎」
「大丈夫だよー恐らくトラウマで舌切っただけだからー」
「…それなら大丈夫…ではないですよね?」
「心配しなくて良いよー。抉ったの私だからー。」
「え?…」
「それよりー今からー…」
バチッ!
ん?また魔力光?魔法?いや、『研究者』が反応しないって事は魔法ではないのか?気になる。
気になる物は悪魔でも追うのが私達。んー、あそこからかな?一見ただの石畳なんだけどなーと道端にしゃがむと
「きゃあああ!!」
なんだ?通り魔?スリ?それともプリウス?何にせよ助けに行くぞ!このハイパー研究員であり魔法マスターである森田導理が颯爽ヘブッ!
(何やってるの⁉︎)
「どうした⁉︎」
「覗き魔です!」
「んだとコニャロー!ウチのカミさんに手ェだしやがって!」
いや、誤解です。魔力が見えてしまったら、魔法マスターを目指す俺は、火の中水の中草の中森の中と言った具合に調査をしようとするのは自明ではないですか。だからその『魔』はいらないです。
と言うかそんな中年のスカートの中なんて誰が興味あるグフェ!
「許さんぞ!鉄拳制裁!」
「アナタ…」
(これはもうダメですね救いよーのない阿保ですねー。そのまま殴られてその頭も…良くなると良いですねー。)
ちょっ!グハ!助けグフ!死ぬ死んじゃボゲラ!あとそこのおばさんときめいている場合じゃないです死人でます「聞いとんのか!ボケ!」グアッハ〜!!綺麗な放物線だと良いな…。
「分かり合えると思ったのに、最低な男ですね。」
ゴッフ!最後の言葉が一番痛かった…。
街の人全員からの冷ややかな視線に耐え、研究部屋へ戻ってきました。研究部屋は俺の功績のよって押し付けられ…与えられた城内の離れ、もとい倉庫を改造した一室である。あれーおかしいなぁ?あげた成果と報酬が釣り合ってないのは俺だけの感想?
梨花達は『ちょっと気になった事があるので』と城内へ消えていった。気になった事というのは何か、興味を持ったが好奇心は猫をも殺すとも言うしやめておいた。
誰に殺されるって…勿論あの魔王梨花だよ。
「うおー凄い数ですね!感動です!」
さっきまでの冷眼はどこえやら、今ではキラキラしてこの棚にある魔法陣を眺めていく。
「右に火魔法、その奥に水魔法。向かいの棚は風魔法…あれ?」
テニスの熱い人もびっくりの熱意で見ていた彼の目が一箇所で止まる。
「どうした?」
「これ火魔法なんですか?風魔法では?」
「え?そう?」
彼が取り出したのはドライの魔法だった。確かにこの魔法は僅かばかり温風が出ている、そうすると風魔法…かな?
「それから…うん、やっぱり、風魔法にアポーツがないです。物を引き寄せる奴です。」
「え?あれ風属性なの?地属性じゃない?」
「え?あーうーん…言われてみれば、そうかもしれません。」
「これは驚いた、人によって基準が違うんだ。」
「そうですね。これは興味深いです。」
もしかしたら正しく分類できてない説が浮上したぞ。そう考えると今まで法則性が見つからないのも納得出来るし。
「よし!とことんこうなったら分類し直すか!」
「はい!そうしましょう!」
こうして盛り上がった、盛り上がってしまったこの馬鹿達は早速、雑談を混ぜながら数十もある魔法陣を一つ一つあーでもないこーでもないと丁寧に吟味した結果、終わる頃には太陽はもう西にあった。
ああ、そうそうこの世界は太陽は西から昇るよ。
研究部屋に帰ったのは夕方だから…半日かかってる…!
「ふいーー結構時間掛かりましたね。でも、そうか法則性かぁ。言われてみれば、この世界って凄い秩序立ってますね。てっきり神がその勢いで創ったと思ってました。」
「ある偉い人が『万物の根源は数である』って言ってたくらいだからね。世の中案外分かりやすくできてるんだよ。」
まぁ、そいつ、無理数を見つけたことで自分で自分の説を否定したんだけどね。
「でも結局魔法陣の法則は見つかりませんね…」
「まぁそう簡単に見つかるとは思えないさ、気長にやって行こう!」
「そうですね!」
でも、これで何も進展がないとすると…彼が言っていたように本当に神の気紛れかも知れないなぁ。実際に威厳溢れるジジイがいたし。
「それはそうと君」
「プロフ」
「え?」
「プロフとお呼び下さい、師匠。そして貴方を師匠と呼ぶ事をお許し下さい。」
「…いやいや、俺そんな頭良くないんだけど?皆から馬鹿とか穀潰しとか言われてるけど?大丈夫?」
「いいや師匠と呼ばせて頂きます。」
「君の脳まで疑われちゃうよ?覗き魔ってさっき言われたばかりだよ?」
「『天才の行動は大多数には理解出来ない』と神様も仰っておりました。きっとどの突飛な行動も深い意味があるのでしょう。」
えええぇぇ…
「私はあの僅かな時間に余りにも多くの真理を学んだのです。それを授けてくれた人を師と呼ばずして誰を師と呼べるでしょう?いいや、貴方以外に師に相応しい者はおりません!どうか、愚かな一凡人である私に貴方の教えを!お願いします。弟子にして下さい!」
凄い押しが強い!ていうか人生で初めてこんなに熱烈なアプローチを受けたわ。
て、近い近い!あ、この子獣人だ!だって捕食者の目をしてるもん!犬歯剥き出しで息荒げてるもん!
間違えたこれアプローチやない、プレデーションや!食べないで下さいいいぃぃ!
「分かった!分かったから!もう少し離れて!」
「…ッハ!すみません、つい。」
はぁ、まだ心臓がバクバク言ってる。怖かった。何故かは分からんが、サーバルキャットが見えた。
まぁでも、この熱意は、いい事だよね、研究にそういうの必要だし。
「では君の事はプロフ君と呼ばせてもらおう。これからよろしく。」
「ッ!はい、よろしくお願いします!」
うん、いい返事だ。
「ところでプロフ君、あの本棚につけた魔法陣ってどれくらいの大きさかね?」
やっと本題に入れた。実に遭遇から丸一日が経過している。どうしてこうなった…。
「ああ、あれですか。ええと、本の表紙ぐらいです!」
ほう、まあまあ良い大きさだな。だとすると…大体初期のコンピュータぐらいになりそうだな、どうにか背負える様にしたい。
実はあの魔法陣を使って、ある者を作ろうと思ったんだよね、と言うか市場へ行った理由がその魔法陣を探す事だったんだよね。
うーん、魔法陣の大きさは威力、消費魔力に比例しないようだし、本当は極小にしたいんだけど、ある程度より小さくすると点で成功しないんだよ。
でもそれ最後に試したの三ヶ月前だから、今ならいけるかも!あとは飛んでくる勢いの調整と…どう言うギミックにするか、かな?リモコン操作は片手が塞がるし、敢えてボタンを埋め込んでみる…いや、背負い式だと手が届かないか…。戦闘中の使用を想定しているから、射出角も大事だな、飛んできた物が誰かさんみたいに顔面直撃になったら目もあてられまい。あとは、重さもどうにか出来ないか…。
「師匠!師匠!」
「ハ!すまない、思考が逸れていた。」
「大丈夫です!それで、何を作るおつもりですか?」
「ああ、それはね…研究者に相応しい、武器を造るつもりさ。」
「武器…ですか?本を高速で射出するとか?そんなに速度出ませんよあの魔法。」
「確かに本を直接衝突させても立派な武器になるが、私が考えてるのは違う物だ。どんな物だと思う?」
「ええーと…剣を飛ばす?いや、本と余り変わらない…何かを落とす…それなら他の魔法でいいよね…」
「ぐるりと良く見回してご覧。分かる筈さ、君が僕と同類ならね。」
「うーん周りなんて、魔法陣しか…あ!」
「どう思う?」
「これは天才ですよ!全く思いつきませんでした!ただ重さが…」
「うーん、やっぱりそこだよねぇ。」
「いやでも完成させましょう!これが出来たら、魔導士の呪文の詠唱が要りません!実質無詠唱です。なんとしてでも作りましょう!」
「ああそうだな、焦らずやって行こう。」
明日齎される報告によって急がざる負えない状況になることを、今はまだ知らなかった。