プロローグ2
現実の話です。
「まりあー、なぁ、おーい、まりあさーん」
んん、うるさい…
「起きろー、ソファでうたた寝してたら風邪引くぞー」
んー…
「お、起きたな。ただいま!」
「…んー、おかえり。寝てた…」
目をこすりながら見上げると、基が腰を屈めて私を覗き込んでいた。
「おお、爆睡してたな。一人か?母さん達どこ行った?」
「出掛けたよ。結婚記念日のディナーだって。基の晩御飯頼まれた」
「そっか、悪いな。はー、疲れたわー」
基が息を吐きながら、私の横に腰掛ける。
「バイト忙しかった?」
「まあ、普通にな。立ち仕事は疲れるわ」
「お疲れ。ご飯直ぐ食べる?」
「おー、食べたいけど、ちょっと休憩しようぜ」
私の肩に基が背中を軽くもたれさせてきたので、目の前にある頭をよしよしと撫ぜてみる。
「眠くなってくるわー」
「私も」
「まりあはさっき寝てただろ。なんだよ、寝不足か?お!まさかゲームのやり過ぎとか!?あのゲーム、楽し過ぎだろ!?」
基が体を起こし、満面の笑顔で聞いてきた。
「うん、まあ、楽しかったかな」
「そうだろ!!諦めないで勧めて良かったぜ!まりあは絶対に気にいると思ってたんだ!」
私が頷くと、更に基の笑みが増した。
こんなに喜ばれるならやった甲斐もあるかも。まあ、散々渋った理由もちゃんとあるにはあったんだけどね。
「絶対気にいると思ったからやらないでおこうと思ってたんだよ」
そう、気にいるとは思っていた。
異国情緒あふれる街並み。辺りに広がる大自然。更に魔法まで使えるという。
気に入らないはずがない!
では、なぜやらなかったのか?
理由は簡単。
「だって、私、はまり過ぎるもん。知ってるでしょ?」
「おお、あれ、すげーよな。一種の特技だろ」
私が拗ねた口調で言うと、変に感心したように基が褒めて?くる。
「全く聞こえなくなるもんな。話しかけても微動だにしないし、すげー集中力」
「嬉しくないよー」
そう、私は集中力があり過ぎる。
集中すると本当に全く何も聞こえず、完全に周りをシャットアウトしてしまう。
無視とかでは全くない。我に帰った時に自分でもびっくりする。
やっちゃった感が凄いのだ。
「まあまあ、あれはまりあの長所だって。ゲーム内でも集中力が高いのは利点だぞ!集中し過ぎるって言ってもいつもけじめはつけてるだろ?大丈夫だよ」
「…森で採取に集中し過ぎてモンスターに殺される未来が見えるけどね」
「…俺が護衛するよ」
私の未来視を否定出来ずに、基が真面目に申し出てくる。
「いいよ。もうゲームが始まってかなり経つし、基は最前線にいるんでしょ?私は最初の街からしばらく出ないし、強くなる予定もないから」
「えー、やっぱりまりあは生産メインか。少しは戦おうぜ。それこそ、素材採取中にモンスターと遭遇したら戦うしかないぞ」
「まあ、私はのんびりやるから。急ぐ必要もその気もないし。むしろ生産メインじゃなく観光メインってくらいにね」
「観光かーまあ、まりあが楽しいならいいけどさ。気を付けろよ」
私がにっこり笑うと、基が諦めのため息を吐いた。
「うん、街の人達はみんないい人だったし、楽しく過ごせそうだから大丈夫だよ!」
「え?いい人?街の人達ってプレイヤーの事か?」
基が不思議そうに聞いてくる。
「違うよ。街の住人さん達だよ。みんな親切に色々教えてくれたり楽しい話とかしてくれて、飴とかくれたよ。お店ではおまけしてくれたし」
「は!?マジで?そんな話今まで聞いた事ないぞ。本物の人間にしか見えない住人達ではあるけど、どこか俺達を遠巻きに見てる感じで、当たり障りない会話しかしないだろ?」
当たり障りない会話?
いやいや、超フレンドリーだったよ?
街に降り立ってキョロキョロしてたら直ぐに話し掛けられたし。
「道を教えてくれた怖そうな隊長さんも、かなりいい人だったよ」
「隊長さんってまさか、いかにも鍛えてそうな体格で背が高くて黒髪短髪に青い目の無表情イケメンか!?」
「んー、多分そうかな。でも無表情ではなかったよ?優しい笑顔だったし」
「……」
基が黙り込んでしまった。
何?そんなに難しい顔する事?
街の人達は他のプレイヤーにはフレンドリーじゃないの?私にだけ…って事?
「まりあ…」
基が真剣な表情で重い口を開いた。
「……ナンパだな」
「え?」
は?何て?
「あのすかしたイケメン隊長だよ!まりあが可愛いからナンパしやがったんだよ!あの野郎ー硬派ですって顔してナンパとかふざけんな!やっぱり俺も始まりの街に戻るぞ!」
「……」
はぁ。さて、晩御飯の用意しようかな。
今日はお子様な基君の好きなオムライスだよー食べるよー
うるさい奴にはあげませんよー
はいはいはいはい、分かったからハウス!