プロローグ
「赤毛にします」
「かしこまりました。どのお色味になさいますか?」
目の前に色々な赤毛のサンプルが映し出され、耳触りのいい女性の声で尋ねてくる。
優しいリラックスを促すような声は、とても人工的に造られた声とは思えない。
いわゆる人工知能(AI)の創り出した声。
おそらく私の脳波を感知して、私が一番落ち着く声音や話し方、言葉使いなどが選ばれているのだろう。
至れり尽くせり。正にこの言葉がぴったりはまる。
そんな声に促されて、今私は"キャラクリエイト"というものをしている。
《もう一人の自分を創る》のは想像以上に楽しいものだ。
そして、この子として私は別世界の中でもう一つの人生を生きる事になる。
大袈裟かも知れないが、高揚感と共に不安も同じくらい湧いてくる。
まあ、ゲームの話なのだけれど…
たかがゲーム、されどゲーム。
この最新のVRゲームは現実の感覚と変わらない感覚でゲームの世界に"召喚"されるのだという。
「ふふ」
なんだか楽しくなってきた。
誘ってくれた彼氏にお礼を言わないといけないのかもしれない。
散々渋ったけど…
まあ、女の子なんてそんなもの。
女心と秋の空なのは、常識で自明の理。仕方のない事です。
「楽しそうでございますね?」
私の小さな笑いに気付いたAIが静かな声音で尋ねてくる。
決して急かす雰囲気ではなく響いてくる声も、私に合わせてなのかどこか楽しそうだ。
「あっと、お待たせしてますね。このNo.8とNo.11とNo.26とNo.33の色味を実際に付けて試してみます」
気になった色味を何点か選ぶ。
目の前に立っている最初は私の姿を写していた"ドール"を作り変え、試していくのだ。
顔は既に私の面影を残しつつも、私の望んだ通りに変化している。
完璧ですね。くふふ。
そして、これから更に迷いに迷った楽し過ぎるキャラクリエイトの後、私は異世界に旅立った。