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人間の俺、だが双子の弟は竜!?  作者: 明夜明琉
第十一話 甦ってくる過去
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(10)目の前に現われた過去

 

 俺は、落ちた地中のドームの中で膝をついたまま、目の前にいる姿を睨みつけていた。


 周囲は、いつかの神殿と同じように地面をくりぬいて作られた白い空間だ。名前も知らない白い材質の床が、俺の靴の下で輝き、唇を噛んでいる俺の姿を映し出している。けれど、俺はドーム状になった白い土壁の中に立っているナディリオンから目を離せなかった。


 銀色の髪をいつもと同じように揺らしながら、俺を微笑んで見つめている。


「その顔――どうやら思い出したみたいだね?」


「貴様……」


 ――そうだ! 俺はこの竜を倒すためにドラゴンスレイヤーになりたかったんだ!


 小さい頃からあれほど憧れたのも! どうしても記憶から竜を倒す話を忘れられなかったのも、今になれば合点がいく!


 だから、俺はこれ以上ない殺意をこめてナディリオンを見つめた。


「よくも――俺を騙したな!!」


 ――前世だけじゃない! 人間になった今生までよくもぬけぬけと!


 あの優しかった姿も、親切に教えてくれた姿も全てが嘘!


 それなのに、怒る俺の前でナディリオンはさらりと銀の髪を掻き揚げている。その顔は、最初に出会った時に比べると、三十台ぐらいにまで若返っているではないか。


 ――俺の魔力を吸収したからだ!


 見せつけられた事実が改めて悔しい!


 唇を噛む俺を、ナディリオンは面白そうに見つめている。


「別に、騙してはいないよ。契約通り、私は君からアーシャル君の治療費をいただきに来ただけだ。正直、まさかあんな状態の君に逃げられるとは思わなかったからね」


「屁理屈を……!」


 あまりの怒りに声が震えてくる。その思いのまま、俺の足は駆け出していた。


 そしてナディリオンの正面に一気に走りよると、腰から剣を引き抜く。その勢いのまま、長い袖を纏っただけの腕に切りかかった。


 だけど、さすが本来は竜の鱗だ。布は裂けても、白い皮膚には傷一つ負わせることができない。


「くそっ!」


 それどころか、腕の表面で止められた俺の刃先は、伸ばしてきたナディリオンのもう片方の指で優しく摘まれたではないか。


「嘘は言っていないよ?」


 くすっとナディリオンが笑った。――昔と同じように。


「だから君に家族になろうって言っただろう? 魂が私の中に入って、これからずっと一緒に生きていけば、家族同然なんだし」


「絶対に御免蒙る!」


 ――くそっ! セクハラ臭い台詞に誤魔化されて本心に気づかなかった!


 咄嗟に、握っているナディリオンの指から力任せに剣先を後ろに引き抜いた。


 怒りのまま、思い切りやった。それなのに、白い肌には赤い筋一つ入らない。


 それに、強く瞳を寄せてしまう。


 ――あれも嘘!


 嬉しかったのに。誰を信じたらいいのかわからなくて、家族も全てなくした時に言われて。どれだけ、その一言が気づかない支えになっていたか!


 それなのに、こいつが騙していたのはそれだけじゃない!


 ――今から思えば、教わりに行くたびにあの部屋で俺を待つように用意されていた菓子も! 周りを疑うように仕向ける言葉も! 全てが俺の魂を手に入れるためだったんだ!


 それなのに、灰色のマントを疑っていたから、それから助けられたことですっかり警戒を解いてしまった!


 ――あれは、俺を殺すために邪魔者を排除しただけだったのに!


 それがひどく悔しくて。


 泣きたくなる気持ちで、歯を噛みしめると、もう一度剣を握りなおした。そして連打でナディリオンに打ち込んでいく。


 それなのに、右に左にかわされる。


 ――くそっ!


 この思いのやり場さえない。


「だから、ユリカまで攫ったのか!?」


「ああ、君の妹さん? 安心したまえ、ちゃんとここにいるから」


 その言葉に、持ち上げられた左手の方角を見た。すると、ナディリオンの後ろで、見慣れた茶色の巻き毛の幼い姿が、サリフォンと折り重なるようにして意識を失っているではないか。


「ユリカ!」


 その姿に思わず叫んだ。


 けれどもぴくとも動かない。


 ――まさか……


 嫌な予感が襲ってくる。しかし、俺の顔色を見て、ナディリオンは優しく笑っている。


「大丈夫、傷つけたりはしていないよ。本当は、君の妹だけを狙ったのにね。君の血を目印にしたから、もう一人同じ血の香りがする相手まで死導屍達が連れてきてしまった」


 ――同じ血の香り!


 その言葉に、思わず俺の動きが止まった。


 それは――――つまりそういうことだ。


「そうか。そういうことか……」


 俺はナディリオンに剣を向けたまま、瞼を伏せた。


 ――じゃあ、この体の父親はやっぱり……


「君達の関係は知らない。まあ……普段のアーシャル君の様子を見ていれば、薄々わかるけれど」


 だけど、その言葉にはっと前を見た。しかし、ナディリオンは、そんな俺を面白そうに見つめている。


「でも、君の魂さえ手に入れば二人とも用済みだ。君がこのまま私に、おとなしく魂を食われてくれるのなら、無事に地上に帰してあげるから。そんなに卑劣な話でもないだろう?」


「冗談じゃない! 誰がお前などに!」


 はっと俺は意識を戻すと、慌ててナディリオンの前から飛びのいた。


 そして、改めて目の前にいる敵を見つめる。


 ――ダメだ! 余計なことを考えている場合じゃない!


 今ここで俺がやられたら、次はアーシャルが食われる!


 今の悲しい気持ちも! ナディリオンへの悔しくて辛い気持ちも! すべては先ずこいつを倒してからだ!


 だから俺を心を決めると、もう一度、剣を握りなおした。そして唇に剣身を当てる。


「アーシャル!」


 ――ファルシャーイオス・フレイル!


 その瞬間、俺に呼応して剣がどんと焔を纏った。


「これなら、どうだ!?」


 ――アーシャル、俺に力を貸せ!


 だが、全身の力で切りつけたそれは、ナディリオンの出した腕に止められて体まで届かない。


 それでも、今までとは違い、腕に細い赤い線が入る。


「やったか!?」


 それなのに、ナディリオンは微笑んだ。そして持ち上げると、自分の舌で舐めている。


「ふん。アーシャル君の剣か。アーシャル君が魂を迎えに行ってからはひどく素直な反応だね? 私に出会ってからは、魂が隠れて呼応しないようだったのに」


「なに!?」


 ――そういえば、最初は確かによく使えていたのに、途中からまったく反応しなくなっていた!


 あれは無意識に、俺が体の中に魂を隠したから!?


 だけど、ナディリオンはそんな俺を面白そうに見つめている。


「けれど、どれだけ竜の力を宿した剣といっても、たかが鱗一枚。そんなもので私を倒せると思っているのかい?」


 それと同時に、俺に向かってナディリオンの足元から、夥しい蔦のようなものが這って来る。いや、違う。黒い蔦のようだが、太い黒い蛇だ。


 それが竜の鱗のような輝きで、俺に巻きつこうと近寄ってくるではないか!


「ちっ!」


 切ろうと思ったが、固い。まさに岩石の固さだ。


 アーシャルの剣で一匹一匹を傷口から溶かすことはできるが、その間にも俺を絡めとろうと、手に足に容赦なく巻きついてくる!


「模造品とはいえ、成竜の鱗に次ぐ固さだよ。子竜の鱗で簡単に切れる代物じゃない」


 ――くそっ!


 だめだ。これじゃあ!


 とても一匹一匹を切り倒していたのではキリがない。それなのに、その間にも、俺の隙を狙って足に巻きつこうとしている。


 足に絡み付こうとした幾つめかの黒い頭を剣で突き刺し、俺は荒い息をついた。


 ――きりがない!


「くそっ!」


 ――ならば、これならどうだ!?


  どんと、俺は地下に眠る水脈を導いた。水の匂いは、ここにいても濃厚にわかる。


 案の定、俺が望んだ通り、白い床を破って勢いよく噴出すと、俺の前にいた無数の蛇たちをその水流で吹き飛ばしていく。


 ――このまま、ナディリオンまでいけるか!?


  だから俺は持てる水竜の力を、全てナディリオンに向けて水の流れをそちらに変えた。


 それなのに、迫ってくる水の轟音を見つめて、ナディリオンは微笑んでいる。


「悪い子だな……。だから、水竜の魔力は地竜には効かないとちゃんと教えたのに……」


 その瞬間、ぱんとナディリオンが手を叩いた。


 それだけで、今割れた床が一瞬で塞がり、今の今までナディリオンに向かって白い牙を向けていた波は、一瞬で土の中へ吸い込まれていく。


 ――くそっ!


 ダメだ、俺一人の魔力じゃあ!


 だけど、ほかにこいつを倒す方法なんて――


 その時、握っている剣の刀身が赤く明滅した。


 俺がアーシャルの魔力を発動させたことに気がついたのだろう。


 必死でアーシャルが行方のわからなくなった俺に向かって呼びかけている。


 それを俺はしばらく、じっと見つめた。


 ――本当は、どんな危険にも晒したくはない……


 危険とは程遠いところで、幸せに笑って生きていって欲しいんだ。


「だけど……」


 ――お前は、それを望んでいないんだよな?


 必死に光って、俺に応答を求めている剣の明滅に、俺はぽつりと呟いた。


 ――そして、俺のそんな間違った思いこみが、この災厄を招いた。


 だったら――と俺は、アーシャルの魔力が宿った剣を構えた。


「来い!! アーシャル!」


 俺はここだ!


 剣に自分の魔力を流し込んで応えてやる。


 ――今、俺が食われたら次はお前が殺される!


 だったら、これは絶対に二人で戦わないといけない相手だ!


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