表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間の俺、だが双子の弟は竜!?  作者: 明夜明琉
第八話 卒業生対抗戦!
73/100

(7)卑怯は俺の領分で、やられるのは御免だ!

 

 俺の前でゴーレムは、その高い背で視界のほとんどを遮っている。当たり前だ。


 まさかこんな狭い闘技場で、ゴーレムを持ち出すとは思わなかった。


 ――さて、どうする?


 俺とジョルデの間には、さっきゴーレムが振り上げた拳で、深い亀裂ができている。


 その溝を越えない限り、俺の剣ではジョルデを直接攻撃はできない。


 ちらっとその亀裂の端を見つめた。中央は広いが、観客席の方に近づくにつれて、だんだんと狭くなっている。


 それでも、壁すれすれまで行かないと無理か。


 ――むしろ、これだけ地割れを起こして観客席が無事だったのが奇跡だ。


 その視線の先に、ユリカの前に立ち、観客席を守るように立っているナディリオンの姿を見つけて、ほっとした。


 ――つまり、わかる限りでは同じ土系の力でも、竜のナディリオンよりは下というわけだ。


 見ていた次の瞬間、その俺の上に大きな黒い影が落ちてきた。


「兄さん!」


 その叫びに、咄嗟に体を影の範囲から後ろにそらした。


 その俺の前で、ゴーレムの手が地響きをあげながら、地面にめりこんでいく。それと同時に地面がひび割れた。


 ――おい、容赦ないな!


 目の前のさっきまで俺がいたところが、完全にめり込んで裂けているじゃないか!


「お前、俺を殺す気か!?」


「去年、俺の頚動脈に剣をつきつけてくれたのは誰だった?」


「俺だよ!」


 くそっ! やっぱりしつこく根にもってやがる!


 だけど、その間にもゴーレムはまた手を振り上げると、今俺のいたところに拳を振り下ろしてくる。


 ――早い!


 マームのダンジョンのゴーレムよりは、小柄だが、その分小回りがきいて、次の動作に速く移っていく。


 それが俺が体をかわした先に、どしんどしんと下ろされて、次々逃げ場を奪われていく。


 ――くそっ! こんなのをどうやって倒せというんだ!?


  俺がもっているのは、剣一本。ダンジョンの時は、アーシャルがゴーレムを引きつけておいてくれたから、その間にゴーレムを動かす紋章を探せたが――


 ――そうだ! 紋章!


 同じゴーレムなら、必ずそれがどこかにある筈だ! それさえ、傷つけて消すことができれば、この土人形を無力化することができる!


 ――どこだ!?


  俺は、狭い闘技場の中で振り下ろされるゴーレムの腕を交わしながら、必死に目を凝らした。


 だが、その間にも相手の腕は、地響きと共に連打で下ろされてきて、とてもゴーレムの本体に近づけない。


 ――くそっ!


「ほらほら、今度こそ逃げ場がないぞ!」


 その悪人面の高笑いはやめろ! 


 それを俺がやるのは大好きだが、人にやられているのを見ると、無性に腹が立つんだよ!


「くっ!」


 だが、どんと土埃を高く上げながら下ろされた腕を避けた途端、背中に煉瓦の壁が当たった。


「兄さん!」


 ――しまった! 闘技場の端まで来ていた!


 その俺の前に、素早く次のゴーレムの手が、遠くのジョルデの杖と共に振り下ろされてくる。


「くそっ!」


 もぐら叩きじゃないんだぞ!


 そう心で悪態をつきながら、壁に沿って走った。けれど、その後ろから俺を叩き潰そうと、ゴーレムの巨大な石でできた茶色の指が降りてくる。


 その直後、俺のすぐ後ろで大きな音と砂埃があがった。


 それと同時に、上の観客席で、女性の悲鳴が聞こえる。


 だけど、それに振り返る暇もない。


「くそったれ!」


 とにかく、なんとかジョルデに近づかないと――


 だけど、それには、あの亀裂をなんとかしなければ!


 俺は、壁の周りを走りながら、広い亀裂の向こうにいるジョルデを見つめた。だが、それはとてもこのまま走って飛び越えられる幅ではない。そうでなくても、今の連打で、闘技場はあちこちが窪んで、縦横無尽に裂け目が走っている。


 ――どうする? 壁にとりついて、向こうまでよじ登るか?


 汗を滲ませながら、必死に考えた。だけど、それは壁の上に指がついた時点で、失格にとられてしまうだろう。かといって、ゆっくりと壁の割れ目を探して進むだけの時間もない!


 その瞬間、上からゴーレムの指が俺に近づいて来た。


「くそっ!」


 目一杯剣を振り上げて、その指の一番細い関節に向かって叩きつける。


 だが、俺が切りつけたところは、わずかに剣先にそって砂がこぼれただけで、当然切れる筈もない。


 ――無理だ!


 直感で、すぐに剣をそのまま斜めに振り下ろした。


 そのおかげで、剣が受け止める力はそのまま流れて、俺の側の地面ぎりぎりにその指の落とす方向を逸らせる。


 足から地響きが伝わってきた。ずずんという鈍い音と共に、舞い上がった砂が煙たい。


 しかし、その灰色の砂埃の向こうで、当のジョルデは杖を持ったまま、余裕で笑っている。


「くそっ!」


 ――駄目だ! このままじゃあ――


 なんとか、あいつを倒さないと!


 だけど、あの亀裂を超えれるだけの物が何もない!


 ――なにか、あの亀裂を越えられるものはないか!?


  必死に周りを見回す。だが、もちろん闘技場の地面には棒も紐も何も落ちているはずがない。あるとすれば、俺とジョルデとそのゴーレムだけだ!


 はあ、と腕で頬をこすり、粗く息をついた。


 そして、地面についた指に俺を逃がしたことに気がついたゴーレムが、こちらにぎぎぎと石の四角い顔を向けてくるのを、必死で息を整えながら見あげる。


 ――うん?


 そこで、俺は腕に唇を当てながら、目を見開いた。


 ――あるじゃないか! そこに最高のはしごになりそうなものが!


 俺は、そのままじっとその闘技場より高いゴーレムの姿に目を輝かせた。そして、にやっと笑うと、剣を構えなおす。


 ――よし! この手しかない!


 そう決意すると、俺は体をゴーレムへと向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ