(6)何だこの夢!?
ここはどこだろう。
俺は見慣れない暗い建物の内側で、その天井を見回した。
さっき落ちてきたそこは、ここから竜の体で見回してもはっきり見えないほど高く、ところどころに灯された松明だけが、その暗い室内を彩っている。
アーシャルはいない。
ただその明かりが、俺の側にある泉の水面に歪みながら輝いている。冷たい石の床は、さっき俺があげた水しぶきでまだ濡れている。けれど、そのしぶきのかかった蛇の像の向こうから緑の髪の女性は、忌ま忌ましそうに俺を睨みつけていた。
「だから何度も言っているでしょう? 私じゃあ、無理だって!」
――何の話だ?
俺は夢うつつの中で、竜の視線で見る光景に小さく呟いた。
けれども、夢の中でマームは、俺を鋭く睨みあげている。
「それなのに何度も何度も私のダンジョンを壊しに来て! いい加減にしないと本気で竜駆除剤の発明をするわよ!?」
おおっ! 相変わらず殺気全開だ。
だけど、俺はそんなダンジョン主に丁寧に頭を下げると、まるで宥めるように頼んでいる。
「それについては申し訳ないとは思わないが、約束しよう。教えてくれたらもう二度と来ないと」
「頼むなら嘘でも申し訳ないと言いなさいよ! どこまでも根性が悪いわね!?」
おい、こいつにだけは言われたくないぞ?
それなのに、俺は竜の頭を更に低く下げている。
「頼む――もう、ほかに心当たりがないんだ」
それにマームは、緑色の瞳を細くすると忌々しそうに見つめている。
「本当に、話したら二度と来ないのね?」
「ああ、約束しよう」
それにすっとマームの瞳が面白そうに歪んだ。その瞳がひどく残酷な愉悦を含んで、適当なおもちゃを見つけたように俺を見つめている。
「いいわ――じゃあ、教えてあげるわ」
だけど、その瞬間真っ黒な闇に意識は呑み込まれた。
その中で、鋭い矢をつがえた人間が、竜のアーシャルを狙っている。
「危ない! アーシャル!」
けれど俺の手が、夢の中でアーシャルに届く前に、その光景は全て靄の中に消えた。
重たいような灰色の靄の中で、見えない何かが俺の体の上に乗り、身動きができないようにしている。
何が起こっているのかなんてわからない。夢の中の目を凝らしても、何も見えない。
それなのに、体の内側に何かがはっきりと入ってくる感触がする。その冷たさと微かな生温かさが、怖気がするほど気持ち悪い。
痛い!
それに声にならない叫びがあがった。
逃げよう。そう思うのに、手も足も動かない!
それどころか首元を這い回る湿った音、ざわりと体の内側に入ってくる何かに俺の理性は焼ききれていく寸前だ。
気持ち悪い。
嫌だ、触るな!
まるで体の内側を探られているような気持ち悪さが、こみ上げてきて吐きたいほどだ。
――嫌だ!
その自分の内側に入ってきている何かを無理矢理払うように、俺は無理矢理意識を眠りから引き剥がした。それと同時に、体が寝かされていた寝台の上で飛び起きる。
はあ、と大きな息をつくと、額には汗が滲んでいた。
「目が覚めたかい?」
聞こえた声にどうやら見知らぬ室内にいるらしい俺の頭をあげると、目の前にはあの変態医者がいるではないか! しかも、その手は明らかに突然飛び起きた俺に驚いているように、今まで触れていた姿勢でその場に固まっている。
「げっ!」
――ナディリオン!
さっきの嫌な夢はこいつのせいか!?
俺は明らかに俺に触れていたらしいその手の持ち主に心の中で叫んだ。




