表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間の俺、だが双子の弟は竜!?  作者: 明夜明琉
第二話 夢か現か、どれが本当だ !?
23/100

(4)一つは決定!


 明日の朝一で、おばばを訪ねることにした俺たちは狭い俺の部屋で一緒に眠っていた。


 隣りにいるアーシャルはダンジョンでの疲れがでたのか、俺にくっつくようにしてすっかり眠ってしまっている。


 正直、これだけくっつかれるとベッドが二台でもきつい。


 ――だけど、離れるのを怖がっていたしな……


 来客用に組み立て式の簡易ベッドがあったのが助かった。古くて小さいせいか、さっきからアーシャルが寝返りをうつ度にきしきしと音をたてているが、なければ一つのベッドでもっと狭いことになっていただろう。


 だけど眠れないのはそのせいだけじゃない。


 今日急に甦った竜としての記憶。そして、十六年間生きてきた人間としての記憶。


 竜としての記憶は、正直まだ切れ切れで、特に最後の方は霞がかかったように思い出せない。


 ――俺は、なんで竜だったのに人間として暮らしているんだろう?


 優しくて無口な竜の父さんと、豪気な竜の母さん。


 明るくて朗らかな人間の父さんと、穏やかで控えめな人間の母さん。


 ――どっちが、本当の俺の親なのだろう?


 それにと、側で寝息をあげている静かなあどけない面差しを暗闇の中に見つめた。その顔は、ひどく嬉しそうに俺の側に寄せられている。


 竜の弟と人間の妹。


 どちらが今の俺の家族なのだろうか?


 今でも、どちらがより大切かなんて選べないのに――


「うん、兄さん……」


 だけどむにゃむにゃと寝言を言っているアーシャルの姿は昔と同じで、暗闇の中で俺は思わず微笑んでしまった。


「今度はうまく焼くから……」


 おい、お前。やっぱり俺に砂漠蟻地獄焼きを再挑戦させる気なのか?


 やめてくれ。今度こそ、確実に二度と会えない地に旅立つぞ?


 だけど、そのよだれを垂らした姿に、俺は冷え始めた空気に出ている肩に布団をかけなおしてやる。


「まったく、いくら本当は竜だからって、寒さには弱いくせに……」


 アーシャルが火竜なことを思い出して、そう苦笑しながら布団を直してやる。


 ――そういえば、俺の竜の体はどうなったのだろう?


 俺が人間に化けているのでなければ、どこかにある筈だか。


 それとも、ひょっとして死んでしまって、それでないのか?


 考えれば考えるほどわからなくなる。どうすればいいのか――


 ふうと溜息を一つついて、布団の上にごろりと寝転んで暗い天井の板を見上げたときだった。


 突然、どさっと音がした。苦しい!


 引きつりながら目を開けると、隣で寝ていた筈のアーシャルが寝返りをうって、俺の腹にもたれかかると、そこでよだれを垂らしているではないか!


「てめえ……!」


 離れろと押し戻そうとするが、びくともしない!


 そうだった! 本体は竜じゃないか!


 つまり、重い! それも半端じゃない重さだ。


 このままじゃあ確実に圧死させられてしまう。


「離れろって言ってるだろうがー!!」


 生死をかけた戦いに俺が全力で布団ごと蹴り飛ばすと、それが見事にアーシャルの頬に入って、そのままベットの端まで弾き飛ばしていく。


「見たか! 俺の実力!」


 全身で息をしながら俺は決めた。


 やっぱり初志貫徹で、ドラゴンスレイヤーにはなろう。そうでないと、確実に寝ぼけたアーシャルに息の根を止められてしまう!


 取り敢えずそれだけは決定事項だ!


 ふんと大きく息をすると、一つははっきりしたことができたせいか、少しだけ気持ちが晴れた。


 だから、俺は転がったアーシャルに今俺が着ていた布団を投げてやると、そのままベットにもぐりこんだ。そしてアーシャルが着ていた布団を引っ張ると、そこに残る懐かしい体温に気持ちが落ち着いて、閉じた俺の瞼に急速に眠りが落ちてくる。


 いつの間にか俺はアーシャルの体温に包まれて寝息を立てていた。




「ちょっとだけ出かけてくる」


 そう軽く声をかけて家を出ると、俺が昨日歩いた街の通りには白い光が溢れ、空には秋の澄んだ青い空が輝いていた。


「兄さん、なんで僕の顔に大きな足型がついているの?」


「お前が、夜中に俺を殺そうとするからだ!」


 そう返すアーシャルの頬には、大きな足型がついて赤く腫れている。


「えーそんなあ! 兄弟でくっついて寝るのってナメクジでも犬でも同じじゃない。それなのに、僕だけ殺人犯の疑いなんて!」


「計画的殺人の有無の前に、お前自分をなめくじに例えるのはどうなんだ!?」


 どうしてこいつの例えはいちいち想像したくない生物の方向なんだ!


「えーじやあ、かわいくフジツボで。でもあれは家族限定か怪しいしなあ」


「その前にフジツボはかわいいのか!? 俺はフジツボの義妹なんて欲しくないからな!?」


 どうしよう。本当にアーシャルなら、フジツボと結婚しますとか言って、頭にのせてきかねない!


「嫌だなあ、装飾としてかわいいってことなのに。兄さんはフジツボみたいな彼女がほしいの?」


 おい、どうしてここまでの話の流れで、俺の方がそんな哀れな目で見つめられないとならないんだ?


「やっぱり僕がきちんと近づく女を選定してあげないとダメなんだね」


 しかも何か怖いことを言っているし! やめてくれ! 確実に俺の未来の彼女が絶滅危惧種から幻の存在になってしまうじゃないか!


「まあ、それは今はおいとくとして。 昨夜のニッシェおばばって人はこっちに住んでいるの?」


 言いながらアーシャルが見つめた俺の歩いている先にある通りは、朝なのに人が少ない。俺の家近くのように、早朝井戸へ水を汲みに歩いていこうとする人や、店の支度をしようと箒を持っている人も少ない裏通りの細い路地だ。


「ああ。人目につきたくないとかで、昔からここで商売をしているんだ」


 明らかに、その日暮らしの人足たちが暮らすような宿と酒場が並んだ通りを歩きながら、俺は転がっている昨夜空けられた酒瓶をよけた。


「ふうん」


 そうアーシャルの目は、並ぶ木賃宿の閉じられた窓辺を眺めている。


「ああ、ここだ」


 言うと、俺はその路地の奥にある小さな丸い水晶の書かれた扉を指し示した。そして、その古い木の扉を軽く叩く。


「ニッシェおばば、いるか?」


「はいよ」


 すると、中からしわがれた声が響いて、鍵の開く音がする。


 それに扉を開けると、中はいつも通り暗くて、たくさんの干してある薬草と占い道具で息苦しいほどに狭い。


 周りにある緑の棚にはいくつもの瓶が並べられて、入れられた薬の原料で狭い部屋に不似合いなほどたくさんの色が踊っている。


「はいよ、おやリトム、今日は何の用かね?」


 店の奥に姿を現したいつもと同じ黒い布を頭からかぶった皺だらけの顎しか見えない姿を見つけて、俺は小さい頃から見てきたその相手に声をかけた。


「おばば。ちよっと訊きたいことがあるんだ」


 その時、狭いからよく見えないとアーシャルが俺の後ろからひょこっと顔を覗かせた。


 その瞬間、おばばの顔がはっとした。しかも、ばっと黒いマントを翻して逃げ出そうとしたではないか。


 それに、アーシャルの眼差しが変わった。


「待て!」


 その言葉と同時に俺の肩にぶつかりながら駆け抜けると、店の奥に逃げ込もうとしていたおばばの手を捕えて、だんとそこの床に押さえつける。


「貴様! どこに隠れているかと思っていたら!」


「痛い!痛いわよ!」


 え? 急におばはの声が若いものに変わった?


 今まで聞いていたしわがれた声がどこかに消えて、代わりにまるで妙齢の乙女のような叫び声で、必死で手足をばたつかせてアーシャルの手から逃げようとしている。その長い長衣から飛び出した腕や足もそこだけ白い滑らかな肌だ。


「おい、アーシャル。急に何をしているんだ!?」


 だが、やめさせようとする俺の声にも、アーシャルは怒りの表情で叫ぶ。


「こいつだよ! 兄さんの駆け落ちした恋人は!」


 叫ぶと、ばっとそのおばばの黒い布を剥いだ。


「え? えーーーーっ!?」


 ちょっと待て! 今なんていった!?


 けれど、そのアーシャルが剥いだ布の下からは、艶やかな檸檬(れもん)色の長い髪を束にして背に流しながら、大きな美しい紫の瞳を潤ませている女性の姿が現われる。


 その顔は、布ごと強引にアーシャルに剥ぎ取られた魔術で美しい妙齢の素顔を晒して、柔らかな白い肌の手で痛そうに打った頭を押さえている。


 あれ? でも。


 この顔って――


 ――え!? 俺の恋人って!?


 俺は確かに記憶の中に微かにだけ残っているその顔をじっと見つめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ