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二 西行、高野の奥で人を造る。

 高野に庵を構えて暮らしていて、ある折り貴顕に会うために西行は京洛に赴いた。用向きが終わり帰途に就く時、昔の友と逢った。既に夜が更け、月が美しかった。

 その月を眺めつつ、懐かしきを語り、友と別れた。

 在りし日、共に花月を愛で、歌や詩を詠みあい、武術を競い合った友だった。

 庵に戻り、一人ゆかしき思い出に浸り、寂しさに打ちひしがれた。こうして出家の身であっても、語り合える友の存在の重さに気付かされ、恋しく悩むものなのか。

 西行は山を下りるよりも、貴顕より伝えられた秘術を使う選択をした。

 高野山の内にも京洛の外れにも行倒れや埋葬のあてのない死者の屍が打ち捨てられている。西行は人に見られぬように、その死人の骨を拾い集めてきた。頭から足までの一揃いを違わぬように並べて置き、砒霜を骨に塗っていった。いちごとはこべの葉を揉み合わせ、藤蔓を糸にして骨を組み、編みつないだ。水で何度か洗い、頭に髪の生える場所にさいかいとむくげの葉を灰にして焼き付けた。土の上に畳を敷いてその骨を伏せ、風の掛からぬようにし、二十七日おいたのち、その場所に行き、沈と香を焚き、反魂の術を行った。

 月の明るい夜、骨は人の形になり、起き上がった。

 西行は、我が友となれと、願い、話し掛けた。

 しかし、その人形(ひとがた)は顔色が悪く、生きているようには見えず、西行の問い掛けに人語とは思えない、下手の吹く笛のような音を口から漏らした。


 ――なんとしたことか。


 眩暈を感じた。


 ――これは心が無いのか。心有ればなにか言葉を発するであろうが、これは言葉ではない。


 少し顔の肉が動くが感情の動きによっての変化のように見えなかった。人形は変わらず、下手の吹く笛のような音を洩らすのみ。西行の言葉を解しているのかも判らない。こちらの言うことを解しているのであれば雑事に使えようが、立ったまま、黙っているか、音を洩らすかのどちらかだ。


 ――やはり数寄を語り合うのにこのような異形は似つかわしくないのだ。出家の身でなんと未練がましい真似をしてしまったか。


 激しい後悔に襲われた西行は打ち壊そうと薪を取り上げ、人形に向かって振り下ろそうとした。しかし、人形は何事かも知らず、立って、造り主へ目を向けている。


 ――恐れを知らぬ。また命を亡くすかも知れぬと察せられぬとはやはり心が無いのだ。


 心が無いのでは草木と同じ、しかしこうやって顔を向けられていると、人の姿をしているものを打ち壊せぬと薪を落とした。


 ――如何にせん。


 西行は人形を壊せず、しかし、側に置く気にもなれず、人も通わぬ山奥に連れていった。人形がじっと立っているのを見て、その場に捨てて、庵に戻った。もし人に見つかれば化け物と呼ぶであろうと、憐憫を覚えたが、西行には僧形になりながら人恋しさに負けた未熟さに消え入りたい気持ちの方が強かった。

 その後貴顕に秘術を再び問うてみると、焚く香の種類が違うこと、術者の身の潔斎が必要であったことを教えられた。西行は自分の術が及ばないものであったと知ったが、二度と反魂の術は行わなかった。

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