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19.魔界、滅ぶ

 魔界との戦いは苛烈を極めた。

 八大魔王と五龍将の戦力は互角。

 龍神様と魔神の力も互角。

 しかし我らはもとより、龍神様も傷を負い、万全とは言い難い。

 となれば、今回ばかりは六人で世界を滅ぼすことは出来なかった。


 本来なら和睦という道があるのだろうが……。

 龍神様が選んだのは、総力戦だった。

 龍界全土の龍族に呼びかけ、全ての龍士を戦争に投入したのだ。


 それを迎え撃つのは、魔族の戦士たち。

 龍族は魔族に力で勝ったが、魔族は数で勝っていた。

 互角の戦いだ。


 龍族が攻め入り、魔界を攻めた。

 幾つかの町に大きな打撃を与えることは出来たが、魔族は数が多く、粘り強い。

 攻めきれず、撤退することになった。


 すると、今度は魔族が龍界を攻めた。

 龍界特有の地形から魔族は決して龍界を攻め滅ぼすことはできなかったが、こちらも打撃は受けた。


 そんな一進一退の攻防が何年も続いた。


 私も龍士たちを指揮して戦闘に立った。

 八大魔王とは何度もぶつかった。

 しかし、不思議なことにネクロスラクロスの姿は無かった。

 八大魔王は常に一人欠けていた。

 温存しているのか、あるいは私に後ろめたくて出てこれないのか。

 詳しいことはわからなかった。


 戦いは数十年続いた。

 戦争は技術を発展させる。

 我ら五龍将は戦いの合間に、幾つもの技術や魔術を完成させていった。


 ドーラ様が召喚魔術から生み出した精霊。

 カオスが魔物の骨から生み出した魔剣。

 シラードが魔族の攻撃魔術に対抗すべく生み出した結界。

 マクスウェルが魔族の力を削ぐべく生み出した龍門。

 戦いが起こらなければ生み出されないような画期的な魔術が生み出され、容赦なく戦争に使われた。


 無論、魔族も馬鹿じゃない。

 いや、馬鹿が多いのが魔族なのだが、賢い者もいたというべきか。

 龍族に対抗するため、あらゆる魔術を作り出した。

 ドラゴンを消し飛ばす閃光の術や、持ち主の力を増幅させる魔槍、一度蝕まれれば死ぬまで苦しみもがく毒……。

 一体どんな術式でそれらを作り出していたのかは、未だにわからぬものも多い。


 それは、私の知る限り史上最高峰の技術と魔術を用いた総力戦だった。

 もっとも歴史には残っていないがね。


 終わりの無い、底なし沼のような戦いは、いつまでも続くと思えた。

 だが、やはりというか、こんな戦いにも、転機というものが訪れるものだ。


 技術が進歩した結果、どうなったと思う?


 数が減ったんだ。

 お互いのね。


 ああ、戦争なら当然のことだろうね。

 でも、魔族も龍族も屈強でしぶとい種族なんだ。

 最初の頃は、ぶつかってもほとんど死者が出なかった。

 十万同士の軍勢でぶつかって、死者が一人とか二人とか、そんなものだったんだ。

 驚くべきことだよね。


 それが技術の進歩に従い、どんどん増えていった。

 もはや、龍族の墓標が完全に埋まってしまうほどに。


 それだけ死者が出たのだから、そろそろ戦いはやめよう!

 と、どちらともなく言うのが人族の戦争だ。

 でも龍族と魔族の戦争では、そんなことを言う者はいなかった。


 転機というのは、別のことだ。


 互いの兵士が減ったことで困ったのは、我ら龍族だ。

 元々、五龍将と龍神様の負傷が原因で総力戦を行ったのだから。

 龍士の数が減るにつれて、劣勢となっていった。


 そこに現れたのが、人神だった。

 奴はいつも通り、私の後ろに立って、こう言った。


「最近、八大魔王が前線に出てくることが多くなったようだね。彼らを倒して数を減らしていけば、戦争に勝利することができるんじゃあないかな?」

「それが出来れば、苦労はできません」

「五龍将全員でかかればいいんだよ。魔物と戦う時のように、大勢で一人を倒すんだ」


 五龍将は龍族最強の戦士だ。

 常に一人で戦ってきた。

 だが、それは別にプライドがあったからそうしていたわけじゃない。

 必要無かったからだ。

 五龍将は、一人で全ての敵を倒すことが出来たんだ。


 盲点だった。


 実際に他の五龍将にその話をした時は、渋い顔をされたけどね。

 しかし、誰もがこの戦争に勝つには、何か少し、特殊なことをしなければならないと薄々感づいていたのだろう。

 私の案に乗ってくれた。


 私たちは八大魔王を挑発しておびき寄せ、孤立させ……そこを五人で叩いた。

 個体として最強である龍族の、それも五龍将が束になって勝てぬ敵などいなかった。

 魔王は驚愕と絶望の表情を顔に貼り付けながら、死んでいったよ。


 そうやって一人ずつ、八大魔王を仕留めていった。

 八大魔王を失った魔族は勢いを失い、龍族に駆逐されはじめた。

 でも、最後までネクロスラクロスが姿を現すことは無く……。

 魔神が前線に出てきた。


 魔神は我らの姿を認めると、見る間に巨大になっていった。

 五メートル、十メートル。

 百メートル、千メートルを超えても、なお巨大化は止まらなかった。

 頭が天を突き、足が壁のようにしか見えなくなった所で、巨大化は止まった。

 巨大化が止まると同時に、体中の至る所に目が出現した。

 目は我々五龍将を捉え……魔神が動き出した。


 巨大になれば遅くなる、という印象があるかもしれない。

 人族が創作したお話に出てくるような巨人は、どいつも鈍重でのろまだからね。

 しかし、魔神は違った。

 小さい時と同じ速度で動いた。

 文字通り山ほどもあるパンチやキックが隕石のように、しかし的確に我らに降り注いだ。


 これには、五龍将といえどもたまらない。

 なにせ拳が至近距離を通過するだけでも、我らは何十キロもふっとばされ、地面に激突するのだから。


 神と将では力の差がありすぎる。

 まったく相手にならなかった。

 私はその時、改めて神と呼ばれる者たちの力の大きさを悟った。

 もし、私が獣神や海神、天神といった者たちと戦っていれば、一瞬でバラバラにされていただろう。


 しかし、魔神が出てきたとあらば、龍神様も黙ってはいない。

 それまで体力の温存に努めていた龍神様が、満を持して魔界へと姿を表した。


 一騎打ちだ。


 とはいえ私は不安に思っていた。

 さしもの龍神様とて、山のように巨大な魔神には勝てないのではないか。

 ただでさえ他の世界の神との傷が癒えていないというのに……。


 しかし、その心配は杞憂だった。

 龍神様の体から金色の光が溢れ出すと、かの御方は光をも超える速度で動き始めたのだ。

 魔神が拳足を繰り出すも、めったに当たらない。

 たまに当たったと思えば、逆に魔神の体がはじけ飛んだ。

 圧倒的であった。

 しかし魔神は体の一部がはじけ飛んでも、すぐに再生して龍神様に殴りかかったから、必ずしも優勢というわけではないようだった。


 神々の一撃一撃は轟音を伴い、遠く離れた私達の肌がビリビリと震えた。

 遅れて衝撃波が襲いかかり、吹き飛ばさんとした。

 しかし、私は龍神様の戦いをじっと見ていた。

 目を離すことなどできなかった。


 神と神の戦いを見るのは四度目だった。

 どれも凄まじい天変地異が引き起こされ、世界が滅ぶほどの衝撃がまきおこされる。

 しかし、今回の戦いは異常なほどに長引いていた。

 圧倒的な破壊力を持つ龍神様の攻撃が、魔神を滅ぼすに至らないのだ。

 対する魔神もまた決め手に欠けているようだった。

 一進一退の攻防は、十日、二十日と続いた。

 誰も近寄ることなどできなかった。

 我々のように、ただ遠巻きに見ているしかできなかった。


 どちらが勝ってもおかしくない戦い。

 それを制したのは、龍神様だった。


 ちょうど、百日目。

 巨大な魔神の足元から、神々しい光が溢れ出た。

 一瞬、何かわからなかった。

 だが光の粒子がどんどん上に上がっていくにつれて、私はそれが何なのか理解した。

 魔法陣だ。

 大陸ほどの大きさはあろうかという、巨大すぎる魔法陣が、魔神の足元を覆っていったのだ。


 魔神がどんな顔をしていたのかは、遠すぎてわからない。

 だが、その挙動から、魔神も予想だにしていなかったのだと理解した。

 まさか、龍神様が魔術を使うなど……。


 魔神の体は、足元から急速に崩壊していった。

 大きさが大きさゆえ、ごくゆっくりに見えたが、山ほどの大きさのものが消えるのだ。

 これを急速と言わずして、なんと言おうか。


 そうして光が収まった後、龍神様が戻ってきた。

 その手には小さな宝玉を一つ持って。


「龍神様!」


 我らは龍神様に駆け寄った。

 龍神様は満身創痍だった。

 他の神々から受けた傷に加え、魔神との戦いの消耗で、体内の龍気をほとんど失っておられた。

 普段感じている神々しさのようなものすら感じられず、ただひたすら弱っている様子がわかった。

 今にも倒れそうな様子に、五龍将の誰もが戦慄していた。


「いかん! 龍神様、こちらへ! ひとまず龍界へと戻りましょう!」

「うむ……」


 うめき声にも似た返事をした龍神様に肩を貸し、我らは飛び上がった。

 だが、そこでドーラ様がふと振り返った。

 その視線の先には、魔神の死を呆然と見つめていた魔族達がいた。

 そして、崩壊を始める世界が。

 そう、龍神様と魔神の戦いには、世界そのものが耐えられなかったのだ。


 ドーラ様はそれらを見て、私に宝玉を放り投げた。


「ラプラス。お前はここに残り、最後を見届けよ」

「……ハッ!」


 世界の最後を見届ける。

 それは、他の世界に対する礼儀のようなものであったのだろうか。

 海界も天界も、誰かが残り最後を見届けた。


 無論、礼儀だけの問題ではない。

 世界が崩壊する最後の時間を使って、ルナリア様を殺した者を探すのも、仕事の一つだ。

 獣界では初めてのことで動転し、ほとんど何もできなかったがね。

 仕方ないと思っているよ。


 君も世界の崩壊に立ち会えば、その光景を見て動けなくなるはずさ。

 あの光景は、本当に衝撃的なんだ。

 世界という、何をしてもどうにもならないはずの物が崩れていく。

 大きな大きな川の流れに似ている。決して止めることはできず、ただただ見ているしかないんだ。

 そして、決して元には戻らない。


 魔族は屈強な種族だが、それでも世界が崩壊するとなればどうしようもない。

 他の世界の者たちと同様、右往左往していた。

 彼らはしばらくすると、ある方向へと移動しはじめた。

 異世界へと通じる遺跡だ。

 また人神が動いたのだろう。


 ……衝撃的な光景だが、何度か見れば耐性もつく、私は崩壊する世界を尻目に、魔界を飛びまわっていた。 


 そんな中、私はある者を探していた。

 ネクロスラクロス。

 八大魔王の一人だが、最後まで戦いに顔を見せなかった。

 どこかにいるのか、それともすでに死んでいるのか。

 彼はキリシスカリシスとも関係が深い。

 会って話せば、恐らくなんらかの情報が得られるかもしれない、そう思った。


 なぜそれまでに会おうとしなかったかって?

 方法が無かったからさ。

 獣神の宝玉はすぐに龍神様に返してしまったからね。

 提案もできなかった。

 私には、犯人たちを龍界に招き入れた負い目もあったからね。

 仮に提案したとしても龍神様は私が魔界に行くのを了承してはくださらなかったろう。

 色んな理由が重なった結果、その時しか、ネクロスラクロスを探す時間は無かったんだ。


「ん?」


 しばらく飛んでいると、私はあるものを発見した。

 この世界で最も大きな町、魔神都市ダイレーク。

 そして最も大きな城、魔神城ガイレークだ


 城は火に包まれていた。

 燃えそうにない城だったが、黒い、特殊な炎で焼かれていた。

 何にせよ、神の住んでいた城に火を放つなど、いかに逃げ惑う暴徒とはいえ、常軌を逸した行動だ。


 私は何かあると思い、城へと近づいた。

 しかし、煙がもうもうと立ち込めていて、いつもの入り口の場所がわからなかった。

 ゆえに私は地表に降り立った。

 いつもくる時は屋上からだったから、正面門に立つのは少し新鮮な気分だった。

 城からは何人もの衛兵が逃げ出していく所だった。

 彼らは私の姿を見ると悲鳴を上げて逃げ惑った。


 私は逃げ惑う彼らと逆流するように、城の中へと足を踏み入れた。

 城の中は凄まじい熱気で、何人もの魔族の焼死体があった。

 だが、私の龍気を突破できるほどではなかった。


 私は炎の中、城の中を見てまわった。

 当然、焼け落ちんとする城の中にいる者などいない。

 あの栄華を誇った魔神城ガイレークが、なんとも寂しいことに。


 この城に火を放った者が誰かはわからぬが、すでにこの場にはいないのだろう。

 そう思い、私は城から出ようとした。

 そこで、鉢合わせとなった。


 ちょうど地下へと続く階段から姿を現した、六本腕の黒い巨漢と。


「むっ!」


 ネクロスラクロス。

 探し求めていた人物の姿が、そこにあった。


「貴様か!」


 久しぶりに見るその顔は、随分と痩せこけているようにも見えた。

 不死魔族が痩せるわけは無いのだがね。

 彼はその多椀に、一人の赤子を抱えていた。


「ラプラス! 頼む、見逃してくれ……!」


 私が何かを言う前に、ネクロスラクロスは赤子を背に隠しつつ、そう言った。


「貴様が我らを裏切った理由はわかる! だがこの子は何も知らぬ赤子! 何の罪も無いはずだ!」


 一瞬、彼が何を言っているのかわからなかった。

 私が裏切る?


「何の話だ?」

「……何の話? ラプラス、キリシスカリシス様を殺し、世界同士を戦わせたのは、お前ではないか」

「まて、キリシスカリシスが殺された!? どういうことだ!」

「……どうもこうも、お前が仕組んだことではないか!」

「何の話かわからない! 教えてくれネクロスラクロス、キリシスカリシスはいつ死んだのだ?」


 私は興奮するネクロスラクロスをなだめ、話を聞いた。

 なんでも、ある日キリシスカリシスは、魔界に戻ってきたらしい。

 ネクロスラクロスも詳しい理由までは知らないが、しばらく魔界に戻っているように命じられた、と言ったそうだ。

 魔神は己の妻のその言葉に頷き、特に詮索することはなかった。

 丁度、キリシスカリシスも出産の時期が近づいていたというのもあり、龍族がそれを考慮して彼女を戻したのだろう、と思ったのだ。


 キリシスカリシスは出産し、子供を産んだ。

 不死魔族の出産は少し特殊で、腹が大きくなったりはしないのだが……まあ、それはどうでもいいか。


 子供を産んで少しして、キリシスカリシスは死体となって見つかった。

 魔神は怒り狂い、犯人を探した。

 幸いにも、犯人は証拠を残していた。

 鱗に銀髪。

 そう、龍族のものだ。

 そして、私の指示で派遣された龍士たちは、キリシスカリシスが死んだ日の夜より、姿を消していた。


 どこかで、聞いたことのある話だね。


 そして、そのどこかで聞いたことのある話の顛末も同じだ。

 龍族がやった。

 あのラプラスとかいう五龍将が、魔族に復讐したのだ、と。


 だが、そこからは少し違う。

 その話を聞いたネクロスラクロスは、いきり立つ八大魔王を強く諫めたのだ。

 ラプラスはそのような事をする男ではない。

 恐らく、龍族の仕業に見せかけた、別の世界の者の仕業。

 ここは落ち着き、もっと入念な捜査を試みるべきだ、と。


 魔王たちもその場は一旦落ち着き、詳しいことを龍族に聞くべきだという流れになった。


 その直後だった。

 獣界が龍族の手によって滅んだという報が届いたのは。


 同時に、キリシスカリシスを殺した犯人と思わしき一人の龍族が捕まった。

 その男は激しい拷問の末、「ラプラスに命じられた。ネクロスラクロスも共犯だ」という証言を吐いた。

 ネクロスラクロスはあっという間に捕らえられ、牢獄へと幽閉されてしまった。


 ネクロスラクロスはすっかり意気消沈してしまった。

 それだけ、私を信じてくれていたのだろう。

 しかし、かつて自分がしたことを思えば、ラプラスが復讐するのもやむなし、と考えていたそうだ。


 その後、ネクロスラクロスは魔界の情勢についてはわからないそうだが……。

 まあ、顛末は同じさ。

 魔族たちは戦いを選び、龍族を迎え撃った。


 ネクロスラクロスはいずれ来るであろう沙汰を待ち、光も刺さぬ地下牢でじっとしていた。

 だが、さすがに魔神が死に、世界の崩壊が始まれば、何か異変が起きたことぐらいはわかる。

 ネクロスラクロスはなんとか牢を破り、外へと出た。

 そして逃げ惑う人々から何が起きたのかを知り、自分はどうすべきかと迷った所、城から火の手が上がっているのが見えた。

 黒い炎だ。

 その変な炎を見て、ネクロスラクロスは生まれたばかりの魔神の子のことを思い出した。


 もしやと思い城へと急行し、赤子のいる部屋へと急いでみれば、案の定、赤子は取り残されていた。

 そして赤子を抱き、城を脱出した所で、私と鉢合わせになった、というわけだ。


「……」

「てっきり、貴様が全ての元凶かと思っていたが、その顔を見るに、違うようだな」

「あ、ああ」


 あまりの出来事に、私の頭は真っ白になっていた。

 これが本当なら、我々は何者かに陥れられたということになる。

 だが、一体誰が。

 何のために?


 少なくとも、ネクロスラクロスの言葉は嘘ではあるまい。

 あの男は嘘を言える男ではないのだ。

 そもそも嘘を考えつくだけの頭脳が無いのだから。


「詳しく話をしたい所だが、吾輩は何としてもこの子を無事に生きながらえさせねばならん、貴様に敵意が無いのであれば……どいてくれ」

「……」


 私はゆっくりと体をズラし、彼らを通した。

 魔神の子供だ。

 育てば、必ずや龍神様の怨敵となるだろうことは、誰にでも理解できたろう。

 しかし、止めることなど出来なかった。

 ネクロスラクロスの話を聞いて、赤子の命を奪うなど、できようはずもない。

 何かの勘違いから世界を崩壊させてしまった上、復讐が怖いからと子供まで殺したのであれば、ただの外道ではないか。


「……転移の祠へ向かえ。今なら人界への道が開いている」

「む! 恩に着る……!」


 ネクロスラクロスは去っていった。

 まだ目も開かぬ赤子を胸に抱いて。


 そして私も、龍界へと戻った。

 ネクロスラクロスより得た情報を胸に秘めて。


 そうして、魔界は崩壊した。

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