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13.龍の外交官

 さて、本題に入る前に、まずは五龍将の役割について話していこう。


 以前にも話したが、五龍将はそれぞれ龍神様より仕事を任されている。

 ドーラ様がドラゴンの調教。

 マクスウェルが魔物退治。

 カオスが武具の製造。

 シラードが龍士たちの統括、といった具合だ。

 実はそうした表の仕事とは別に、裏の仕事も存在していたのだが、それはひとまず置いておこう。


 五龍将として任命された私は、ある仕事を任されることとなった。

 それは、龍神様の補助だ。

 護衛と言い換えてもいいかもしれないが……小間使いというのが一番近いかな。

 あちこちに飛び回っている龍神様のすぐ脇に控え、護衛をしたり、助言をしたり、飲み物を運んだり……。

 そういった雑事を行う係をもらったんだ。


 雑用と言えば、新米五龍将の私にふさわしい任務に聞こえるが、いつでも龍神様のお傍に付いていられるのだ、これほど名誉なことはない。

 他の五龍将はこれが気に入らなかっただろう。

 五龍将は、誰もが龍神様のことを尊敬し、畏怖し、そして崇めていたからね。

 新米の私がそれほど名誉な任を預かることを、気にいるわけもない。


 もちろん、気に食わないからといって、文句は言わなかったよ。

 私の立ち位置的に見て、小間使いというのはちょうどいい任務だったからね。

 反対する理由も無かったんだ。

 かくして私は、龍神様のお傍について、他の世界に赴くことになった。


 転移術はまだ完成していなかったが、世界を行き来する方法はあった。

 世界には、どこかに必ず、祭壇があった。

 そこに龍神様が赴くと祭壇が起動し、真っ白い何も無い空間へと連れて行かれる。

 そこを飛んでいくと、他の世界にある祭壇へと移動出来るんだ。


 そうして連れてこられた最初の場所。

 それは毒と瘴気の渦巻く魔の世界……そう、魔界だった。



「ここは……」


 祭壇から一歩足を踏み出した私は、目の前に広がる光景を見て、思わず足を止めてしまった。

 魔界、そこは私にとっては苦い思い出ばかりが残る場所だ。

 当然、戻ってくれば、苦々しい負の感情が吹き出すものと思っていた。


「どうした?」

「いえ、なんでもありません」


 しかし、成長してから来ると、少し見え方が違った。

 私に余裕ができたからかもしれないが、あれほど思い焦がれていた魔界の町には興味がわかなかった。

 憎しみなど湧くわけもない。

 遠くの方を闊歩している魔獣にも、懐かしさを覚えるぐらいだ。

 未練は無い、ということだったのだろうね。


「行くぞ」

「ハッ!」


 龍神様はどこに行くとも言わず、飛び立った。

 私もどこに? などと愚かなことは聞かず、それに付き従った。


 龍神様が向かったのは、魔界の中心だった。

 遠目には山脈かと見紛うほどの巨大なクレーター。

 中には無数の家々が立ち並び、クレーターの中央には巨大な黒鉄の城が構えていた。

 魔界の中心、魔神都市ダイレークと魔神城ガイレークだ。


 城に近づくと、城の屋上付近で、円を描くような配置で篝火が焚かれているのがわかった。

 龍神様は迷うことなく、その円の中心へと降り立った。


 円の周囲には、無数の魔族が立っていた。

 魔族には様々な種族がいた。

 多腕の者、獣のような足を持つ者、燐光を放つ者、目の存在しない者。

 彼らは龍神様と私を、あまり快くは思っていないようだった。

 態度には出ていなかったが、緊迫感が出ていたから、すぐにわかったよ。


「ガハハハハ! 龍神様、ようこそおいでくださった!」


 そんな中、一人の魔族が進み出た。

 緊迫感のある中、彼だけは別だった。

 豪快に笑いつつ、友好的な態度で私達に近づいてきたんだ。


「む」


 しかし、そいつは私の姿を見て、止まった。

 笑みもなくなり、真顔になった。


「……」


 私もまた、そいつの姿を見て声を失った。


 私は彼に見覚えがあった。

 黒い肌、六本の腕、紫色の髪を伸ばし、上半身は裸。


 その姿を見て、私はブルリと身震いをした。

 かつて、そう、当時からしてもかなりの昔。

 私がまだ魔界に住んでいた頃。

 町に入ろうとして、何度も追い返してきた相手……。


 それがまさに、彼だった。

 魔界で私を何度も叩きのめした魔王だったのだ。


「こいつは我が護衛だ。五龍将の一人で、魔龍王ラプラスと言う」


 唐突に止まった私と魔王を動かしたのは、龍神様のそんな言葉だ。

 その言葉で、私は五龍将に抜擢され、この場に来た意味を思い出した。

 即座に最敬礼を行い、魔王に挨拶をした。


「魔龍王ラプラスだ。以後、お見知りおきを!」

「ふむ……」


 私がそう言うと、魔王は少し、ほんの少しだけ考えるような仕草をしたが、


「ガハハハハ! 我こそは八大魔王が一人ネクロスラクロス! 憶えておくがいい!」


 と、豪快に笑った。





 他の世界に行ってやること。

 それは、会議だ。

 各世界の神は、定期的に会議を行っている……というのは、前に話したかな。

 それは当然、今でも続いていた。


 会場は持ち回りだったが、龍界と天界、海界になることはほとんどなかった。

 神には私のような雑用がついているものだが、雑用の中には飛べない者や泳げない物がいたからね。

 それを考慮した結果なのだろう。


 それはさておき、神々の会議だ。

 その内容は、ここ最近の各世界で起きている問題がほとんどだった。

 そう、魔物の出現や、突然転移のことだ。

 どこの世界もそれらの問題を解決しようと躍起になっていたが、未だ解決策は提示されてはいなかった。


 それどころか、私が会議に参加し、龍神様の後ろに直立して傍聴するようになった時には、すでに神たちの仲は険悪だった。


「また魔物だ! 町が一つ滅んだぞ」

「こっちは転移で長の一人が消えた。戦が起き、何千人も死んだのだぞ」

「フン、貴様の所ではすでに転移の研究を終えていたという噂もあるぞ? 自作自演なのではないだろうな」

「なんだと……? 根も葉も無い噂を信じるか! ならば我も、魔物は貴様らが生み出しているという噂を信じさせてもらうが?」


 口から大量の触手を生やし、イカのようなヌメヌメとした肌を持つ男、海神。

 犬と猫の双頭を持ち、白い狼にまたがった男、獣神。

 額に二つの瞳を持ち、六枚の翼を背中から生やした美しい男、天神。

 八本の腕と六本の角を持ち、3メートル以上の身の丈を持つ男、魔神。


 特にその四人の仲は、険悪だった。

 会議で顔を合わせる度に悪態をつき、今にも殺し合いが始まりかねない勢いで相手を罵りあっていた。

 神としての威厳もあったが、その怒気や、体から溢れるパワーは本物で、恐ろしかった。


「まぁまぁ、皆さん落ち着いてください。我らが争うのは、あまり得策ではありません。大丈夫。研究は順調に進んでいるのですから、きっと原因は見つかります。根も葉もない噂に騙されぬように」

「その通りだ。我らが争う意味は無い。仮に争ったとしても、民が犠牲になるだけだ」


 そんな中で、ただ二人だけは、争いを止めようとしていた。

 偉大なる我らが龍神様。

 そして、全体にモザイクが掛かったような、どうにも記憶に残りにくい姿をした、人神だ。

 あの二人がいなければ、とっくに各世界は互いを拒絶し、戦争を始めていてもおかしくはなかったろうね。


「……」


 神々は人神の言葉を聞くと、誰もが黙った。

 人神は、人望が厚かった。

 かの神は、この会議の発足人でもあるし、人族が急成長を遂げている関係上、他の神に助言をすることも多かったからだ。

 つまり受けたものより与えたものが、他の神よりも圧倒的に多かったんだね。

 だから、誰もが人神を尊敬し、一目置いていた。

 龍神様も。例外ではなかった。


「フン、すました顔をしているようだがな、龍神」


 だが、魔神は黙らなかった。

 そして続く言葉は、私を震えさせるに十分だった。


「貴様が我が息子、ネクロリアナクロリアを誘拐し、拷問の末に殺害したという噂が耳に届いているのだぞ」


 その言葉に、私は内心で震えたよ。

 突然、魔界との戦争が始まりかねない発言が飛び出したのだからね。

 そして、その噂が事実であることを、私はよく知っていた。

 龍族側にも言い分はあるが、正直に答えれば戦争が起きるのは確実だった。


「……噂に過ぎん。そのような者は知らん」


 龍神様は嘘をついた。

 嘘などつかない人だと思っていたから、少々驚いたよ。

 いや、それも当然のことだ。

 正直に話せば、ネクロリアナクロリアがクリスタルを殺した件についても、言及しなければならなくなる。

 行き着く先は口論、そして戦争だ。

 もしかすると、魔神はそれを目論んでこう言っているのかもしれないが、それに乗るわけにはいかないんだ。


 龍神様が選んだのは、別の道だ。


「そんなことより、見ろ魔神。この男を」


 龍神様は、すぐ後ろに立つ私に視線を集めた。

 私は即座に、最敬礼をした。

 龍神様の恥にならないようにね。


「龍族と魔族のハーフか。そういえば以前、我が世界から連れ出したと言っていたな。それがどうした?」

「こいつを、龍族の重鎮とした。龍族に魔族と敵対する意図が無いという証明としてな」

「……ふん」


 魔神は私を見て、鼻を鳴らした。

 じろじろと私を見て、目を光らせた。

 実際に、目が光ったんだ。

 あれは、魔眼の類だったのだろうね。

 そして、その魔眼で見た結果、魔神は椅子に深く座り直した。


「なるほど、信じてやろう」


 元々、こういう目的で拾われたとは言え、私が初めて役に立った瞬間だね。

 ひとまず、これで魔界と龍界の正面衝突は避けられたといっても過言ではなかっただろう。


「……俺も、戦がしたいわけではない」


 少なくとも、魔神も龍界とは事を構えたくはないようだった。

 いや、魔神だけじゃない。

 神々は、誰もが大きな戦争を望んではいなかった。

 苛ついてはいたし、原因も追求したそうだったし、互いを疑ってはいたけどね。


 会議はいつもそんな感じだった。

 昔はもっともっと和やかだっただろうが、当時は誰もがイラつき、攻撃性を顕にしていた。

 情報交換のために開かれている会議なのに、身のある話はほとんど無い。

 いるかもしれない事件の犯人に、有益な情報を渡したくなかったのだろう。

 居心地の悪い空間だったよ。





 さて、そんな居心地の悪さを改善するのが、私に与えられた使命とも言える。


 私が任されたのは外交だった。

 無論、他の神々と仲良くするわけではない。


 私が仲良くするのは、他の神々の配下だ。

 つまり、私と同じ、雑用連中だね。

 雑用とはいえ、私同様、それぞれの世界で立場のある者達だ。

 彼らと信頼関係を築いておけば、万が一の時に、最悪の事態を避けられる。

 そんな思惑があった。


 私が最初に接触したのは、ここ最近険悪な仲が続いている、魔界の者だった。

 龍界の民は、魔界への敵意を強めている。

 その日の会議を聞く限り、魔界の方も一緒であるようだった。

 だから魔界とのパイプを作ることこそが、平和への道のりだと思ったんだ。


「ネクロスラクロス殿」


 会議が終わった後、私は目立つ巨体の男へと声をかけた。


「いかにも、吾輩が八大魔王が一人、不死魔王ネクロスラクロスだ」


 ネクロスラクロスは振り返りつつ豪快に笑おうとしたが、私の姿を見て、真顔になった。


「お前は……」


 精悍そうな顔を難しそうに歪めて、私を睨んできた。

 復讐にきたと捉えられても、おかしくは無い。

 だから私は言ったのだ。


「改めて自己紹介をさせていただきます。私は五龍将が一人、魔龍王ラプラスと申します。名も無き人型魔獣ではなく。ラプラスです」

「うむ」


 そう言うと、ネクロスラクロスも魔王としての表情を見せた。

 後になって知った事だが、彼はこの瞬間、かつてのことに言及はしないと決めたのだそうだ。

 私もまた、彼に恨み言を言うつもりは無かった。

 意味が無いからね。

 昔と今とでは、いろんなものが違っていたのさ。


「昨今、龍界では魔界の悪い噂が蔓延しています。これを解消する手助けを行えれば、と思っております」

「ほう、吾輩もそれに異論は無い。しかし、龍族は魔族を憎んでいると聞き及んでいるぞ?」

「半魔半龍たる我が身が五龍将として抜擢された事実、それこそが、噂が噂にすぎないことの証明になるかと思っております」

「……」

「龍神様は平和を望んでおられます。もし魔神様が争いを望んでおられないのであれば、是非ご協力を」


 私がそう言うと、ネクロスラクロスはその六本の腕を組み、私を見下ろした。

 品定めをするようなその不躾な視線を、私はじっと受け止めた。

 恐らく、私の嘘を見抜こうとしたのだろう。

 考えようによっては、私を抜擢させたことは、龍族が魔族からの警戒を緩めるためのカモフラージュとも取れるからね。


「うむ」


 しばらくして、ネクロスラクロスは大仰に頷いた。


「魔神様も戦争など望んでいない! ここ最近、不可思議なことが起こりすぎて、少々苛立っておられるようだがな!」

「では?」

「いいだろう。貴様に協力してやろうではないか!」


 こうして、私とネクロスラクロスは手を結んだ。



 それから私はネクロスラクロスと協力しつつ、各世界で協力者を募った。

 神々の会議にくっついて行きながらだから、かなり時間がかかったが……全ての世界を回った。


 陸地が存在せず、エラとヒレと鱗を持つ人々の住む海の世界。

 ここは、衝撃的だった。

 なにせ私は、海というものを見たことがなかったからね。

 魔界には海どころか水すらほとんど無いし、龍の世界も滝や湖はあれども、海と呼べるほどのものはなかった。

 そんな物を知らぬ私の前に、どこまでも続く海原があったのだ。

 その代わり映えのしない世界には、恐怖さえ憶えたよ。

 もっとも、何もないのは海上だけで、海の中は賑やかなものだったがね。


 鬱蒼とした森と山がどこまでもどこまでも続く、獣の世界。

 ここも驚いたな。

 龍界にも山があり、木々が生えていた。

 だが、そこは一面が緑色で、しかもその森の中にはたくさんの生命が溢れていた。

 とにかく密度が凄いんだ。

 一歩歩くごとに、虫や爬虫類といった小さな者たちを目にすることが出来る。

 空虚で何も無い空間が目立つ他の世界と比べると、その賑やかさは別格だった。

 ああ、といっても君は大森林の出だから、あまり実感がわかないかもしれないね。


 それから、岩塊が浮かび、飛べるものだけが住まう、天の世界。

 ここは龍界によく似ていた。

 龍界が、上に地表あるのに対して、この世界の地表は下にあるといった所か。

 もっとも、地表には塩が降り積もっていて、その上にうっすらと水が溜まっていた。水の深さはくるぶしぐらい。舐めると、塩の味がしたから、海といっても過言ではないかもしれない。塩がこれ以上ないほどに溶け込んでいるんだ。

 何にせよ、生命が住める場所ではなかった。

 生物は、全て空に住んでいて、そのほとんどが羽毛に覆われていた。

 今にして思うと美しい世界だったが、鱗ある生物ばかりを見てきた私にとって、それらは不気味に映ったものだ。


 それから、草の生えた地表がどこまでも続く、人の世界。

 ちょっとだけ起伏のある草原が、どこまでもどこまでも続いているんだ。

 森は森と言えるほど大きくは無く、山は山と言えるほど高くはない。

 とにかく、人が住むのに最適な環境が広がっていた。

 そして、そこに住む人々は、とてつもなくか弱かった。

 こんな貧弱な生き物が本当に生きていけるのかと、当時は思ったものだった。

 まあ、私が最初に見た時は、それでもまだ強くなっていたらしいがね。

 他の世界の種族と比べると、赤子のようなものだった。

 とはいえ、その世界は他より明らかに文明が進んでいた。

 高い建物が並び立ち、道が作られ、軍隊がいた。

 弱くとも、天敵がいなければ、世界を支配できるということなのだろうね。



 そうした世界で、私は少しずつ協力者を増やしていった。

 時間は掛かったが、ネクロスラクロスの合意があると知ると、他の者は簡単だった。

 どこも、龍界や魔界とは事を構えたくないと考えていたのだろう。

 なにせ龍界と魔界、そこに住む人々は、他の世界と比べても、圧倒的な戦闘力を秘めていたからね。


 そんな二つの世界の代表者が、声高に平和への道を叫んだのだ。

 多少は懐疑的な気持ちになりつつも、ノーと答える者はいなかった。

 他の世界の住人とて、変な噂に踊らされつつも、平和を望んでいたということさ。


 私は神々が会議で集まる時、その護衛たちを招集し、私達だけで会議を行った。

 今後、どうすべきか。

 恒久なる平和のために、何をすべきか。

 出来る限り具体的な意見を口にし、建設的な会議を積み重ねていった。


 とはいえ、全てがうまくいったわけではなかった。

 なぜかって?

 会議としてどこか護衛として連れてこられる顔ぶれが、ちょくちょく変わってしまったからだ。

 特に、獣族と人族だ。


 彼らは、龍族や魔族と比べると、ほんの一瞬しか生きられない。

 寿命が短いんだ。

 天族はそこそこ長かったが、それでもちょくちょく変わった。

 海族は個体によって寿命が大きく違うらしく、不定期に変わった。


 人が変われば、中身も変わる。

 中には、他の種族に対して敵意を丸出しにしていた奴もいた。


 でも、私は諦めなかった。

 ネクロスラクロスと協力し、懸命に彼らをまとめ上げた。

 神々に戦いの意思は無い。

 我らもそれに沿い、平和の道を模索していくべきだ。

 神々に最も近い我らが率先して動き、模範となっていかなければならない、とね。


 考えを変えた者も、変えなかった者もいた。

 だが、少なくとも全員の意思が統一された時期は何度か訪れたし、その時には話が進んだ。


 もちろん、会議だけではない。

 実際に平和のため、いろんな事をしたよ。

 効果のあること無いこと、色々やってみたんだ。


 中でも特に効果があったのが、人材派遣だ。

 二つの世界に住む者を交換して、互いの世界に滞在させるんだ。

 そこで活躍すれば、他の世界のイメージアップにもつながる。

 そう、私がやったようにね。

 海界のように、行ける者が限られる世界はあったものの、神の補助が得られれば、不可能ではなかった。


 龍界は他の世界から技術者を取り入れた。

 龍界は屈強な者が多いが、技術的な進歩は他の世界に一歩も二歩も遅れを取っていたからね。

 保存技術、製紙技術、農耕技術……。

 龍神様が技術を口頭で持ち帰るより、技術者を持ち込んだ方が早く、そして効果的だった。


 いや、龍神様が悪いわけではないんだ。

 龍神様はこれまで、他の世界から持ち帰った技術を、余すことなく龍界に伝えてくれた。


 だが、技術というのは日々進歩するものだ。

 我ら龍族が技術をモノにする頃には、とっくにその技術は過去のものになっていることも少なくなかった。

 龍族の寿命が長く、技術開発がゆったりとしていたことも関係しているだろう。

 だが、技術者が内にいれば、それも解消できた。


 逆に龍界からは、龍士を他世界へと送った。

 龍族は強い。

 他世界の者からすれば、神に等しい力を持っているといっても過言では無いほど圧倒的に強い。

 そんな彼らが、他世界に赴き、魔物の討伐を行うんだ。


 この頃に知ったことだが、どうやら魔物の力というのは、世界によって異なるらしい。

 より強い生物が棲息している世界の魔物は強い。

 龍界の魔物は、全ての世界とくらべても、最強というわけだ。

 そんな最強の生物と渡り合っている我らが龍士は、他世界でも大活躍した。

 同時に、恐れられてしまったようだがね。


 まあ、そのことは置いておこう。


 龍界には様々な技術者がやってきた。

 中でも魔界からやってきた女は、特徴的だった。


 魔帝キリシスカリシス。

 魔神の妻だ。


 彼女は、龍界と険悪になりつつあることを誰よりも憂いていた。

 だから、率先して龍界にやってきたんだ。


 彼女は高度な魔法を使えた。

 魔術ではなく、魔法だ。

 魔法と魔術の違いを説明するのは難しい。

 魔力を自在に操り、超常現象を起こすという点では同じだ。

 そうだな、魔法の方が、詠唱や魔法陣など使わずに、より高度なことができる……といった感じだろうか。

 実を言うと魔法陣というものを最初に作り出したのは、彼女なんだ。

 今ある様々な魔術の根底には、彼女の存在があったといっても過言ではないだろう。 


 彼女は、龍界のために尽くしてくれた。

 龍界も『力』の研究は少なからずしていたが、その全てが劇的に進歩したんだ。


 龍界では、魔族は野蛮でアホな奴らだと言われていた。

 だが、彼女を見て、認識を改めた者は多い。

 知的で有能で、平和的。

 どことなくルナリア様を彷彿とさせるような方だった。

 性格は全然似てはいなかったがね。


 だから……というわけではないだろうけど、彼女は特に、ルナリア様と仲良くなった。

 神の妻同士、通じるものがあったのだろう。


 私と、キリシスカリシス。

 魔界出身の二人が頑張ったお陰か、龍界内においても、魔界に対する敵意が少しずつ薄れていった。

 魔界に対してあれだけ敵意を露わにしていたカオスも、表には出さなくなった。

 私の苦労が実を結んだのだ。


 順調だったよ。

 他種族との会議も、次第に気安いものへと変わっていった。

 依然として、転移事件や魔物出現は起きていたが……それでも隣人を疑わなくていいという状況は、プラスに働いたのだろう。

 龍神様も、私の仕事ぶりを褒めてくださった。


 さて、良い事というのは重なるものだ。

 そこにさらに嬉しいニュースが飛び込んできた。


 ルナリア様が、ご出産なさったのだ。

 龍神様の御子だ。


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[良い点] 魔帝キリシスカリシス!キシリカの母か?
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