こいつらのせいで休めない
高校生にとって、金曜日の放課後とは至福に満ち溢れている。
明日から休み。
土曜日も学校があるとこはあるらしいが、それを除外した場合で金曜日とは最高に嬉しい日である。
もしかしたら土日はもっと嫌な習い事があり憂鬱な人もいるかもしれないが、そんなのはどうでもよくて、とにかく俺はハッピーなのだ。
今日帰ったら死ぬほど休む!
俺は林田幸樹、インドアガチ勢。
休日は絶対に家から出ない誓いを立てている。
家に帰ればふかふかのベッドが俺を待っている! もはや帰って寝るしか選択肢がないのだ。
この土日をゆっくり休むために、今回の中間テストは頑張ったのだ。
ウチの高校は試験の点が悪いと毎日の放課後だけではなく土日にも呼び出されるため、毎回テストは本気で挑んでいる。
「気を付け、礼」
HRが終わり、みんな教室から出て行く。
今日だけは譲れん。全裸の超絶美少女が俺をデートに誘ってきても、帰って寝るを選択する。
面倒事はことごとく回避する。それが俺の流儀だ。
無駄のない俊敏な動きで教室を出て、そのまま階段を降りようとすると、1人の少女とバッタリ会う。
「ふふふ、よくぞ現れたわね。勝負よ」
「またお前かぁあああああああああああああああああああああっ!!」
彼女の名は蒲原雪菜。
片目を隠す赤いセミロングに、髪の毛の間から見える碧い眼。身長は女子の平均位で、スタイルも悪くない。
「今日こそは、あなたを打ち負かす。覚悟しなさい」
ぺろりと舌を出し妖艶に笑う。
「いでよ! 林田幸樹を打ち負かす兵器、マース!」
蒲原は背中からマースとやらを取り出し俺の前に突き出す。仕方なく俺も同じもの取り出し同時に広げる。
『数学 解答用紙』
蒲原雪菜 85点
林田幸樹 92点
「ばかなぁああああああああああああああああああああっ!!」
俺の数学の点数を見た蒲原は白目を剥いて悶絶する。
この女は、テストが返却された後、必ず現れ点数勝負を仕掛けてくる非常に面倒な輩である。1年の2学期からやっているので、かれこれもう5回以上は勝負をしている。ちなみに負けた記憶はない。
「くっ、まだよ。まだ私にはライフが残っているわ」
身震いしながら立ち上がり、残りの解答用紙も取り出す。
国語
蒲原雪菜 82点
林田幸樹 96点
「うぐぐぐ……」
化学
蒲原雪菜 65点
林田幸樹 90点
「ぎぎぎ……!」
社会
蒲原雪菜 40点
林田幸樹 98点
「ぬがぁあああああっ!!」
「お前自信ある答案から出していくなよ! だんだん下がっていってんじゃねぇか! しかも社会に関しては欠点ギリギリじゃねぇかよ!」
こんな圧倒的点数差で、毎回自信満々に挑まれるのだ。面倒ったらありゃしない。
「そんで、英語はどうだったんだよ?」
「ひっ、それは……秘密兵器なので見せることは出来ぬ」
「いいから見せろ」
「あっ」
ひょいっと蒲原から英語のテストを奪い取る。
26点
「欠点じゃねぇか!」
「だってぇ、英語だけは駄目なんだもーん!」
さっきドヤ顔でマースとかぬかしておいて何だこの点数は。
「見つけたぞ蒲原! さっさと補習室に来い!」
「げっ、東雲先生……悪いが私は撤退させてもらう! さらばだ!」
ダサい決め台詞と共に一目散に逃げ出す蒲原。補習が嫌なら頑張ればいいものを。
「とにかく、障害は去った。いざ、帰宅&熟睡!!」
用紙をしまうと、今度こそ面倒な奴と会わぬようなるべく急いで階段を降りコインロッカーに向かった。
☆
一難去ってまた一難ということわざをご存知だろうか?
「あら、こーちゃん。奇遇じゃない」
エンカウント発生!
面倒くさい女が現れた。どうする?
① 逃げる
② 逃亡
③ 帰って寝る
もはや俺に逃げないという選択肢はないようだ。
「あばよ!」
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「ぐえぇ!」
Uターンし足を走らせると襟首を掴まれる。
「殺す気か!」
「ねぇねぇ、それより聞いてよ」
マイペースに話を進める少女は新島美雨。
死んでも認めたくはないが、俺の腐れ縁に近い奴。よく言えば幼馴染とでも言っておこうか。
「近所のゲーセンのUFOキャッチャーに、新しいぬいぐるみが入荷されたんだけど、それがすっごい可愛いの!」
「へー」
「なによ、その心の底からどうでも良さそうな顔~」
心の底からどうでもいいのだから仕方ない。女の子はそういうの好きかもしれんが俺にはまるで興味がない。
「行くしかないでしょ?」
「いや寝るしかねぇよ」
「つべこべ言わない。早く行くわよ」
襟首を引っ張られながらゲーセンに連行される。
あーめんどくせぇ……。
☆
「うぐぐ……何故、何故とれないの!?」
ゲーセンにて、血なまこになってぬいぐるみを狙う美雨。彼女が狙っているのは、『チッド』というパンダだ。
見た目は可愛いが、中身がおっさんでギャンブル中毒で更にはアル中という設定。あんなものを欲しいと思える神経が分からない。
「おかしいでしょ! 掴んでるのに離すなんて!」
そうしなきゃ店が儲からないからだ。
「いい加減に諦めろよ。こういうのは店側がもうかるシステムになってんだから」
面倒だが、注意しないと財布が空になりかねないので引き留める。ここで諦めてくれたらさっさと家に帰って寝られる。
「ここで諦めたら、これまでつぎ込んだお金が無駄になるのよ!?」
「もうそれ典型的なギャンブル思考だから!」
美雨は実に諦めが悪く、引き際を知らない女だ。この面倒な性格のせいで何度俺の睡眠を邪魔されたことか。
「あら、お困りのようね」
「あ?」
聞き覚えのある声が耳元に響く。
赤と白のチェックのドレスを纏い、右目は青いカラーコンタクト、左目は黒い眼帯。金色に染めたセミロングの少女。
3文字で纏めると、中二病である。
「奇跡を起こしてあげてもいいわよ」
コイツの名は沖田奇跡。
名前は中二病臭く、見た目も中二病。その実態は中二病。こいつから中二病を取ったらカスしか残らないと言っても過言ではない。
「私にかかれば、あなたに必ず取らせてあげられる」
チッドのぬいぐるみを両手に抱え、にやりと笑う沖田。
信じられない話だが、彼女は奇跡を起こすことが出来る。
人を生き返らせるとか、世界から戦争を無くすとかそういう大掛かりなことは不可能だが、百円玉を2枚にしたり、小さくなった消しゴムを修復させるといった、まるで手品のようなちっぽけな奇跡。
誰にも邪魔されずぐっすりと眠れる奇跡を起こしてもらいたいものだ。
「本当? いいの!?」
沖田の言葉に食いつく美雨。
「クレーンの強度を上げればいいのなら、容易いわ」
UFOキャッチャーのガラスに手を当て、目を閉じる沖田。
「ふふふ、これでクレーンの強度は跳ね上がったわ。掴みさえすれば絶対に取れるはずよ」
「本当かよ~」
だが、こいつの奇跡が外れたことはない。きっと、クレーンの強度は上がっているのだろう。
「よし、今度こそ取っちゃうぞ~」
百円玉を放り込み、クレーンを操作する美雨。強度の上がったクレーンはぬいぐるみに向かって降下し、顏を掴む。
大空を飛ぶ鷹が得物をわしづかむように、しっかりつかむ。
絶対離れないほど、がっしりと。
バリッ! ミシミシミシミシ!
クレーンはぬいぐるみの顔面を突き破り、そのまま貫通する。
「「「…………」」」
屠畜場で殺され運ばれる動物を見るような目で、俺たちはクレーンにより顔をぶち破られた無残なぬいぐるみを眺める。
やがて、クレーンの悪魔から解放され綿をまき散らしながら、ガコンと音を立て落ちるぬいぐるみ。
景品が落ちたのに、誰も喜ばず声ひとつ出さない。
しばらくすると、空気に耐えられなくなったのか沖田はドレスを翻し背中を向ける。
「奇跡とは、時に残酷ね」
お前が言うな!!
☆
「よしよし可哀想に。家に帰ったら縫いあわせてあげるからね」
ゲーセンの帰り道、綿の飛びだしたぬいぐるみを撫でる美雨。速攻で帰るつもりだったのに、いつの間にか日が暮れ空は赤みを帯びていた。
「高校生にもなってぬいぐるみ愛でるなよ……」
「いいじゃない別に。可愛い物に年齢層はありません」
頬を膨らませ、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる美雨。あーあ、ますます顔から綿が飛びだしてきたよ。
「こーちゃんって昔と比べて、やっぱり変わったよね」
「へ? どこが?」
どこが変わっているのか全く理解できない。俺は極めて善良な一般市民だと自負しているぞ。
「いつも帰りたいってばかり言うし、怠け者で寝てばかりなのに、ちゃんと定期考査や課題にはしっかり取り組んでいるもん。真面目なのか不真面目なのか分かんないよ」
ああ、そういうこと。
「そりゃあ、補習や志望校で偏差値が足りなかったら面倒だろ? 俺は出来る限り楽をしたい」
「だから頑張るの?」
「ああ、楽をする為の努力は怠らない。これが俺のモットーだからな」
こう決めたのは、ほんの1年前。
無駄なこと、面倒事は全て避ける。
「……変わったね」
「誰だって変わるさ。じゃあな、帰って寝る」
これ以上、無駄話をするのも怠いので幼馴染に背を向ける。
今日は休めなかったが、明日は土曜日で学校は休みだ。存分に惰眠を貪るとしよう。
「明日遊びに行ってもいーい? 拒否権はないけど」
「ないのかよ! つーか絶対来るな」
惰眠をむさぼりたいところだが、美雨を初めとした面倒な奴らが邪魔をする。
こいつらのせいでゆっくり休めない。
ほんと勘弁してほしい。
☆
さてさて、今日は休日!
何か忘れているような気がするけど休日だ。
何があろうと休むしかないのである。
そんなわけで、おやすm……
ブブブー!!!
寝ようとした途端、端末がブルブルと震えだす。
『今から、あんたの家に直行するから。拒否権はノー』送信先 美雨
『ふふふ、昨日の点数勝負は惜しくも敗れた。だが次は勝つ。そのために勉強を教えろ下さいませんか?』送信先 蒲原
『新たな奇跡を見る気はないか?』送信先 沖田
「めんどくせぇんじゃぁあああああああああああああああああっ!!」
こうして今日もまた、俺はゆっくり休めないのである。
ご愛読ありがとうございました。次は連載作品書けるように頑張ります。




