第7話 異なる出身グループ
※フィルド視点です。
黒い歯車は回り続け、絆が壊れゆく。
分裂の芽は黒い夢の与える水によって急速に育ちゆく。
白い夢の打つ手が、黒い歯車を止められるか。
それとも、利用されるだけに終わるか――?
【コスーム大陸北東 ルイン海上】
連合政府のコマンダー・ライカがルイン島から出撃したとの報告を受けて、私とシリカ、ソフィアは政府首都ポートシティから飛空艇の艦隊を率いて出撃した。クリスター政府特殊軍の内部が混乱しているからといって、連合政府の侵略を許すワケにはいかない。
私たちに命令を下した張本人――クラスタはネオ・ヒーラーズの情報収集と万が一の攻撃に備えるため、ここにはいない。
中型飛空艇10隻の艦隊は、コスーム大陸の北東にあるルイン海上へと出る。この艦隊を率いる最高司令官は、ソフィアとシリカの二大大将だ。
ヒーラーズ・グループ出身の大将ソフィア、連合政府出身の大将シリカ。この2人が共に軍を率いて連合政府の侵略を防ぐのは、クローン軍の融和を象徴するためのものだった。そこに軍事上の必要性はない。本来、この程度の攻撃、私のような中将1人で十分だ。
「ソフィア大将、連合軍の艦隊です!」
中型飛空艇の最高司令室。ヒーラーズ・グループ出身のギョクズイ中将がソフィアに報告する。最高司令室の大きな広い窓から、黒色をした連合軍の中型飛空艇――軍艦が見えていた。全部で10隻ほどか。
「シリカ大将、連合軍指揮官のコマンダー・ライカから通信が入っています!」
「繋げろ」
「イエッサー!」
連合政府出身のサーラ少将がコンピューターを操作し、敵艦隊からの通信を許可する。最高司令室のスクリーンにコマンダー・ライカの姿が映し出される。
前回の戦い――パトラーを助けたときの戦いも、連合軍の指揮官はコマンダー・ライカだった。無人島のルイン島しか支配地域を持たない連合政府に、今や指揮官らしい指揮官はコマンダー・ライカ含めて2人しかいない(しかも、どちらも大した指揮官じゃない)。もはや、連合政府は完全に瀕死の状態だった。
[ふふっ、まさか大将2人が出て来るとは思わなかった。なにかあったのか?]
コマンダー・ライカはバカにしたような表情で言う。これだけの攻撃で、まさか大将2名、中将4名が出てくるとは思っていなかったのだろう。そこには純粋な疑問もあるのだろうが、お前が知る必要はない。これはクリスター政府内の問題だ。
[出てくるのはせいぜい中将1名ぐらいだと思ってたけど、意外だったよ。そんなに私が怖いのか?]
そんなワケあるか。――恐らく、ここにいる誰もが思ったことだろう。
「……攻撃開始!」
シリカが命令を下す。一方的に通信が切られ、スクリーン・パネルには何も映らなくなる。クリスター政府軍の飛空艇艦隊から一斉に砲弾が飛び始める。重たい音が鳴り響き、砲身が火を噴く。砲弾が飛んでいく。
「今日こそコマンダー・ライカを討ち取るわよ」
「はい、ソフィア大将!」
ソフィアの言葉に、連合政府出身のコミットが答える。こういったやり取りを通じて、ヒーラーズ・グループ出身者と連合政府出身者の間に広がりつつある溝を埋める。それが異なる出身グループの二大大将が一緒に出撃している意味だった。
それぞれの飛空艇から砲弾が飛び、連合軍の軍艦に撃ち込まれていく。黒い機体に撃ち込まれた砲弾は爆発し、真っ赤な火を噴く。
「敵14号艦へ一斉砲撃!」
「イエッサー!」
数発砲弾を受けた軍艦は炎に包まれ、高度を下げていく。落ちていく途中で爆発し、木端微塵になる機体もあった。
「6号艦をターゲットにするわよ」
「イエッサー!」
ヒーラーズ出身の大将と連合政府出身の大将。2人の大将の指揮で、連合軍の軍艦は次々と炎上し、海へと落ちていく。
「8号艦を落とせ!」
「イエッサー!」
戦いが始まって30分もしない内に、連合軍の艦隊はほぼ壊滅状態になった。多くの軍艦が撃ち落され、僅かに残った軍艦は撤退を始めている。
「逃がさないわ」
「もちろんです!」
勢いづいたクリスター政府軍は、逃げ出した数隻の軍艦に向かって集中砲火を浴びせる。何発もの砲弾が一斉に飛び、残りの軍艦を撃ち壊していく。
そのとき、1隻の軍艦から小さな粒のようなモノが飛び出す。――コマンダー・ライカの乗った小型戦闘機だ! 軍艦を捨てて逃げ出したのだろう。
「逃がすな、撃て!」
「イエッサーっ!」
だが、小型戦闘機を狙い撃つというのはかなり難しい。ターゲットが小さすぎる。案の定、コマンダー・ライカを乗せた小型戦闘機は白い雲の向こう――ルイン島の方に消えていった。だが、軍艦10隻は全て墜落した。
私は一連の動きを、中型飛空艇の最高司令席に座って見ていた。ソフィアとシリカは左右にいる。どちらの出身グループでもない私が(そもそも私はクローンですらない)、今日はこの椅子に座ることになっていた。
どちらかが最高司令席に座ると、それだけでグループ間の優劣が出てしまう。細かいことだが、そこまで考慮しなければならないこの状況は相当問題だ。勝ったにも関わらず、私は喜ぶ気にはなれなかった――。