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偽りからの挑戦 ――絆の脅威――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 †噂話† ――クリスター政府首都ポートシティ――
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第5話 公邸爆破事件のウワサ

※フィルド視点です。

 【クリスター政府首都ポートシティ 軍事総本部 情報管理室】


 クラスタの公邸が爆破された翌日、私はパトラーと一緒に軍事総本部にある情報管理室へとやってきた。彼女とは今朝、軍事総本部の敷地内でばったりと出会った。昨日の夜は1人で爆破犯を探し回っていたらしい。


「でも、よかったですよね」

「なにがだ?」


 私はコンピューターを操作しながら側にいるパトラーに答える。


「クラスタ、テクノシティに行っていたんですよね」

「……ああ、なんの任務かは知らないが、申請もしていないんだからよっぽど急な任務なんだろうな」


 パトラーはクラスタがテクノシティに行っていたことを知らない。彼女にはクラスタがテクノシティに行くことを伝えていなかった。

 クラスタの公邸が爆破されたあの夜、クラスタはテクノシティに行っていた。もし、彼女がいつも通りに公邸に寝泊まりしていたら、間違いなく死んでいただろう。それほどに爆破の規模は大きかった。


「……フィルドさん」

「なんだ?」


 私は犯行に繋がる監視カメラの映像を探していた。だが、事件解明に繋がりそうな映像はない。データ自体はたくさんある。だが、どれにも犯人の顔が映っていない。黒いローブを纏った人間が、クラスタの公邸に入っていく映像だけだ。


「ヒーラーズ・グループって知っていますか?」

「ああ、知ってる。昨日の夜にヴィクターから聞いた」


 ……またこの話か。手がかりが全くない今、このウワサ話にも頼りたくなる。爆破事件を起こしたのは、シリオード大陸で独立しようとしている(らしい)クローン・グループの犯行だろうか?


「もう一度、クローンの、クローンによる、クローンのための国家を樹立しようって話、私は本当だと思います。この2ヶ月、私自身、何度も聞きました」

「……クラスタからも聞いてみた方がよさそうだな」


 私はコンピューターに映る監視カメラの映像に目を通しながら言う。この話、私が思っている以上に広がっている。昨日、クリスター議会の安全保障特別委員会でも話題にされたらしい。一部の軍人だけじゃなく、政治家まで本気にしている。


「監視カメラの映像を見ていますと何だか上手ですよね」

「どういう意味だ?」

「なんだか、……監視カメラに顔が映らないようにしているみたいです」

「……そう言われれば、そうかもな」


 犯人は監視カメラの位置に詳しい。恐らく、外部から侵入してきた人間じゃない。……となると、犯人は連合政府や“ヒーラーズ・グループの残党集団”から送り込まれたワケじゃなさそうだ。犯人は内部にいる。


「さっき、聞いたんですけど、……」

「…………?」


 パトラーは急に黙ってしまう。言いにくそうな様子だった。私はパトラーの腕を掴み、自分の側に寄せ、耳元で言った。


「言いにくいことか?」


 パトラーは俯き加減になりながら、無言で頷く。


「思うことを言ってみろ。大丈夫だ」

「…………。……私は違うと思うのですが、……あの犯人は――」


 中々進まないパトラーの言葉。相当言いにくそうだ。話をしながら辺りを気にしている。もっとも、この程度の声だから、部屋にいるクローン兵たちには聞こえないだろうが。

 しばらくパトラーは躊躇っていたが、やがて絞り出すようにして言った。


「――ソフィアっていうウワサが……」

「……ソフィア?」

「実はソフィアは新ヒーラーズ・グループの理念に共鳴していて、ウラでフェールやスギライトと繋がっているんじゃないかっていうウワサがあるんです……」

「…………」


 まぁ、ただでさえ新ヒーラーズ・グループのウワサで盛り上がっているときだ。そういう根も葉もないウワサが出回ることもあるだろう。

 ただ、現実とウワサを無理やりくっつけることもできる。“ソフィアを含めた新ヒーラーズ・グループ”はクローンによる国家を作りたい。だが、クリスター政府が邪魔だ。そこでクリスター政府防衛大臣のクラスタを殺害しようと考え、爆破を計画した。監視カメラの位置に詳しいのはソフィアがいるからだ――。


「気にするな。あり得ない話だ」


 私はパトラーの口から出たウワサを一蹴する。犯人はクラスタ殺害が目的だったのだろう。あの夜、クラスタがいないことぐらい、ソフィアは知っているハズだ。なぜなら、彼女はシリカと同じく大将の位置にある。

 もし、本当に彼女がヒーラーズ・グループと繋がっていて、クラスタを殺害しようとするなら、うっかり昨日の夜に計画を実行してしまうというヘマはしないだろう。ソフィアは戦術派のクローン。身体能力は高くはないが、頭はかなりいい。

 ただ、ソフィアが本当にクラスタの不在を知らなかったかというと、それは分からない。少なくとも、シリカからは『クラスタが極秘にテクノシティに行くというのは、大将・中将だけが知っている機密事項だ』としか言われていない。もしかしたら、ソフィアのいる一般部隊の大将・中将は含まないのかも知れない。


「フィルドさん!」


 突然、情報管理室の扉が開かれ、1人のクローン将校――“ウワサ好きのヴィクター”が飛び込んでくる。息を切らしていた。


「……ヴィクター、どうした?」

「ヒーラーズ、ウワサじゃなかった、ですよ!」

「なに?」

「――フェールが、ヒーラーズ・グループの独立を宣言しました!」

「なんだと!?」


 私は驚きのあまり、勢いよく立ち上り、椅子を後ろに倒してしまう。情報管理室にいたクローン兵たちも一斉に騒ぎ始める。ウワサが、本当になったらしい――。

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